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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第89回 生物多様性条約第10回締約国会議の結果概要

  • 2011年6月9日

第89回 特集/COP10 を終えて〜これから生物多様性を守るために必要なこと 生物多様性条約第10回締約国会議の結果概要 環境省自然環境局生物多様性地域戦略企画室 中澤 圭一

無断転載禁じます

 2010年10月18日(月)〜29日(金)まで愛知県名古屋市の名古屋国際会議場において、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催された。この会議には、179の締約国と国際機関やNGO等のオブザーバーも合わせ、およそ1万3,000人が参加し、松本環境大臣が議長を務めている。この会議の概要を報告する。

会議の成果概要

 会議の大きな成果として、生物多様性に関する新たな世界目標である新・戦略計画(愛知目標)と、遺伝資源へのアクセスおよびその利用から生じる利益の公正で衡平な配分、いわゆるABSの「名古屋議定書」の合意が挙げられる。とくに名古屋議定書に関しては、条約制定以来議論が続けられてきた条約の3番目の目的を達成するための法的拘束力のある国際的枠組みが採択されたものであり、生物多様性条約にとって新たな時代の幕開けとなったといえる。また、これら以外にも、保護地域や持続可能な利用など、合計47の決定が採択された。

閣僚級会合

 会議期間中の最後の3日間は、ハイレベルセグメント(閣僚級会合)として、各締約国からの閣僚級参加者がステートメントを述べ、わが国からは菅総理大臣、近藤環境副大臣、伴野外務副大臣がそれぞれ演説した。この会合において、菅総理大臣からは、生物多様性保全に関する途上国支援として「いのちの共生イニシアティブ(20億ドル)」を表明した。また、近藤環境副大臣からは、SATOYAMAイニシアティブ等の、わが国がCOP10で提唱した施策の推進を呼びかけている。

新・戦略計画(愛知目標)

 生物多様性条約には、2002年に策定された「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」としたいわゆる2010年目標があった。しかし、2010年5月に生物多様性条約事務局から公表されたGBO3(地球規模生物多様性概況調査第3版)によれば、この目標は達成されず、生物多様性の損失がこれまでにない速度で続いている危機的な状況であることが報告された。
  このような中で、生物多様性の新たな世界目標となる新・戦略計画(囲み)が、日本から提案した自然との共生という考え方を長期目標に反映させて採択できたことは、今後の生物多様性の保全と持続可能な利用の推進にとって大きな意味がある。

ABS(名古屋議定書)

 ABSは、例えば途上国の土壌から採取した微生物を利用して先進国の企業が医薬品を開発し、ここから得られる利益を途上国の生物多様性保全のために配分するような仕組みであり、これまでも関係者間での自主的な取り組みが進められてきたが、利益配分を確実にするために法的拘束力がある議定書の採択を途上国が主張し、一方で、先進国は企業の競争力を損なう可能性があるとして消極的であったため、この取り扱いは条約制定以来の懸案であった。

 ABS議定書については、各国閣僚等から合意に向け強い期待が示される一方、議定書の適用時期や適用範囲、また、遵守のための規定などについて事務レベルの交渉が進展しなかったことから、閣僚級の協議を開催し、事務レベルでの議論に政治的ガイダンスを与えることとした。しかし、政治的ガイダンスが出されても事務レベルでは合意を見出すことができなかったため、COP10議長(松本環境大臣)から議長案を提示し、この議長案をもとに閣僚級の議論を重ねることでようやく合意に達し、全体会合での採択に至った。

 名古屋議定書の採択は、今後の遺伝資源へのアクセスと利用の改善の基礎をつくり、遺伝資源の利用から生じる利益を生物多様性の保全と人類の福利の向上という、遺伝資源の提供国と利用国の両者にメリットを与える制度になるものとして期待される。

COP10後

 今後は、COP10決定の実現が重要であり、愛知目標に基づいて各国が国家戦略をつくり具体的な施策を実施し、また、名古屋議定書についても各国が早期に批准し、議定書を発効させ、適切に運営していくことが求められる。

 この愛知目標を国連システム全体として達成していくために、日本からは「国連生物多様性の10年」を提案している。

 また、農地や里山などの人の活動によって形作られた二次的自然環境の生物多様性保全と持続可能な利用を進めるSATOYAMAイニシアティブをわが国から呼びかけ、COP10期間中の10月19日に国際的なパートナーシップが開始された。

 わが国は今後2年間議長国を務める。今回決定された事項を着実に実施していくため、生物多様性国家戦略を見直し、関連する施策を充実していく考えである。

新・戦略計画(ポスト2010年目標)概要

ビジョン(展望)

 この戦略計画のビジョンは、「自然と共生する」世界である。

ミッション(使命)

 生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する。

目標1:遅くとも2020年までに、生物多様性の価値と、それを保全し持続可能に利用するために可能な行動を、人々が認識する。

目標2:遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発・貧困解消のための戦略及び計画プロセスに統合され、適切な場合には国家勘定、また報告制度に組み込まれている。

目標3:遅くとも2020年までに、条約その他の国際的義務に整合し調和するかたちで、国内の社会経済状況を考慮しつつ、負の影響を最小化又は回避するために生物多様性に有害な奨励措置(補助金を含む)が廃止され、段階的に廃止され、又は改革され、また、生物多様性の保全及び持続可能な利用のための正の奨励措置が策定され、適用される。

目標4:遅くとも2020年までに、政府、ビジネス及びあらゆるレベルの関係者が、持続可能な生産及び消費のための計画を達成するための行動を行い、又はそのための計画を実施しており、また自然資源の利用の影響を生態学的限界の十分安全な範囲内に抑える。

目標5:2020年までに、森林を含む自然生息地の損失の速度が少なくとも半減、また可能な場合には零に近づき、また、それらの生息地の劣化と分断が顕著に減少する。

目標6:2020年までに、すべての魚類、無脊椎動物の資源と水生植物が持続的かつ法律に沿ってかつ生態系を基盤とするアプローチを適用して管理、収穫され、それによって過剰漁獲を避け、回復計画や対策が枯渇した種に対して実施され、絶滅危惧種や脆弱な生態系に対する漁業の深刻な影響をなくし、資源、種、生態系への漁業の影響を生態学的な安全の限界の範囲内に抑えられる。

目標7:2020年までに、農業、養殖業、林業が行われる地域が、生物多様性の保全を確保するよう持続的に管理される。

目標8:2020年までに、過剰栄養などによる汚染が、生態系機能と生物多様性に有害とならない水準まで抑えられる。

目標9:2020年までに、侵略的外来種とその定着経路が特定され、優先順位付けられ、優先度の高い種が制御され又は根絶される、また、侵略的外来種の導入又は定着を防止するために定着経路を管理するための対策が講じられる。

目標10:2015年までに、気候変動又は海洋酸性化により影響を受けるサンゴ礁その他の脆弱な生態系について、その生態系を悪化させる複合的な人為的圧力を最小化し、その健全性と機能を維持する。

目標11:2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観又は海洋景観に統合される。

目標12:2020年までに、既知の絶滅危惧種の絶滅及び減少が防止され、また特に減少している種に対する保全状況の維持や改善が達成される。

目標13:2020年までに、社会経済的、文化的に貴重な種を含む作物、家畜及びその野生近縁種の遺伝子の多様性が維持され、その遺伝資源の流出を最小化し、遺伝子の多様性を保護するための戦略が策定され、実施される。

目標14:2020年までに、生態系が水に関連するものを含む基本的なサービスを提供し、人の健康、生活、福利に貢献し、回復及び保全され、その際には女性、先住民、地域社会、貧困層及び弱者のニーズが考慮される。

目標15:2020年までに、劣化した生態系の少なくとも15%以上の回復を含む生態系の保全と回復を通じ、生態系の回復力及び二酸化炭素の貯蔵に対する生物多様性の貢献が強化され、それが気候変動の緩和と適応及び砂漠化対処に貢献する。

目標16:2015年までに、遺伝資源へのアクセスとその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書が、国内法制度に従って施行され、運用される。

目標17:2015年までに、各締約国が、効果的で、参加型の改訂生物多様性国家戦略及び行動計画を策定し、政策手段として採用し、実施している。

目標18:2020年までに、生物多様性とその慣習的な持続可能な利用に関連して、先住民と地域社会の伝統的知識、工夫、慣行が、国内法と関連する国際的義務に従って尊重され、生物多様性条約とその作業計画及び横断的事項の実施において、先住民と地域社会の完全かつ効果的な参加のもとに、あらゆるレベルで、完全に認識され、主流化される。

目標19:2020年までに、生物多様性、その価値や機能、その現状や傾向、その損失の結果に関連する知識、科学的基礎及び技術が改善され、広く共有され、適用される。

目標20:少なくとも2020年までに、2011年から2020年までの戦略計画の効果的実施のための、全ての資金源からの、また資金動員戦略における統合、合意されたプロセスに基づく資金資源動員が、現在のレベルから顕著に増加すべきである。この目標は、締約国により策定、報告される資源のニーズアセスメントによって変更される必要がある。

*なお、原文については、生物多様性条約ホームページを参照のこと。


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