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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第76回 CBD市民ネットに呼応して動き出した開催地名古屋の市民たち

  • 2010年5月13日

特集/生物多様性条約COP10まであと1年〜何が話され、議長国日本は何ができるのか (その2)CBD市民ネットに呼応して動き出した開催地名古屋の市民たち CBD市民ネット共同代表、一年前イベント実行委員長 高山 進

 2009年1月25日に生物多様性条約市民ネットワーク(略称:CBD市民ネット)の設立総会が名古屋で行われた。この会の設立の中心を担った者の多くは、2008年5月にドイツのボンで行われた生物多様性条約第9回締約国会議(CBD-COP9) に参加し、この会議が通常「生物多様性」という言葉で連想するような環境保護の課題のみでなく、第一次産業のあり方、南北格差の是正を含む幅広い課題を持っていることを痛感した。また、ドイツのNGOが幅広い課題に取り組むNGOも巻き込んで全国的な連携組織を組み、会議全体にも強い影響力を発揮していたことを知った。アフメド・ジョグラフ生物多様性条約事務局長は「会議の成功に市民社会の参画が不可欠である」「日本での会議でもこの国際ルールに従ってもらいたい」と表明していた。このような状況を受け止め、2010年10月に名古屋で開催されるCOP10成功を目指して、市民社会の全国一つの連携組織として役割を果たすべくCBD市民ネットは設立された。10月8日現在、正会員53団体、サポーター会員11団体、個人会員55人を数える(図)。

CBD市民ネットの組織と構成員
(作成=ポンプワークショップ)


 先日、会のビジョンとロゴマークを決めるために「ビジョンワークショップ」が行われた。会員で普及啓発部会に所属する川廷昌弘さんが、同僚の博報堂スタッフに声をかけたところ、ボランティアでこのワークショップを支援してくれた。そこで出てきたキーワードは「ボトム・アンド・トップ」で、わが会はボトム(市民社会)に呼びかけ、トップ(国)に働きかけ、どちらにもアプローチする。実際に生物多様性条約のテーマに関わる活動をしている市民団体との幅広い連携を進め、「都市の生活者を賢い生活者に」というスローガンで、より直接的に一般市民に働きかける方法を模索している。また、環境省主催、関係省庁、関係団体出席の「生物多様性条約COP10およびカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)に関する情報共有のための円卓会議」に市民団体として参加し、ポスト2010年目標の日本提案などに向けて意見を述べている。

CBD市民ネットのロゴマーク
(作成=ポンプワークショップ)


COP10開催会場での1年前イベントの開催

 一方、全国一つのNGO組織であるCBD市民ネットと一体となった動きを、名古屋およびその周辺地域でいかにつくれるかがカギになっていた。すなわち、COP10に向けて数多くの大きなイベントや事業が行われるが、それを縁の下の力持ちとして下支えする役割をNGO自身が担えるかどうかという課題である。 
 また、開催地名古屋では2005年の愛知万博、同年開始の名古屋環境大学、愛知万博の収益金の一部を原資としたモリコロ基金等が刺激になり、近年多くの市民が環境や生き物に関心を高めているという土壌があったが、生物多様性に関心を持つ団体がCOP10を機に相互につながりながら、全体としていかに底上げをするかという課題も同時に抱えていた。
 そんな中で個人会員の林タツオさんが、生物多様性条約会議のメイン会場である国際会議場で何としても市民による「1年前イベント」を開きたいと、CBD市民ネットに提案があり、実施することになった。しかし、なかなか体制がつくれず、イベント実行委員会を立ち上げたのは8月初め頃になった。CBD市民ネット中部圏の役員(共同代表1人と運営委員5人)が呼びかけ主体となり、8月時点で入会していた個人会員12人、団体会員17団体に呼びかけた。それに応えて集まってくれた人たちで「1年前イベント実行委員会」を構成した。

1年前イベントの成果

 1年前イベントは準備時間が限られている中、意見の違いが露呈する場面もありながらお互いの努力で克服し、結果的には評価できる集会をつくれたものと思っている。第1に、1年後に会場となる場所でイベントを持てたということに意味がある。実行委員が手分けして準備の作業、裏方に汗を流した。部屋を2分割していい効果を生み出すといった工夫もあり、会場利用のノウハウを一度体験できたことは大きな意味があった。
 第2に、3部構成にした点で良い効果を生み出せたことである。午前の部は主に中部圏のCBD市民ネット会員団体が、生物多様性や、生物多様性条約と自分たちの活動がどのようにつながっているかを中心に発表した。「認識とアプローチの多様性を理解し、認め合える場」にしようと呼びかけたことが基本的に実現できた。昼は時間をたっぷりとって、市民プロジェクトとして食料自給率の向上という主張を持った昼食ケータリングを楽しみ、パネル展示を見ながら交流の機会をつくった。午後の部はCBD市民ネットが何を目指し、どんな活動をしているのかを紹介する機会にした。作業部会では、国内法制度、湿地、MOP5、沿岸・海洋、普及啓発、TEEB(生態系と生物多様性の経済学)、沖縄、流域など各テーマに分かれて報告をし、ポスト2010年目標に向けてのCBD市民ネットの意見を紹介することができた。また、CBD市民ネットとしての新しいロゴマーク(図)を発表するセッションも設けることができた。
 第3に、宣伝の期間が短かったにもかかわらず、参加者は170人を超えるほどの盛況であった。また市民ばかりでなく、行政の関係者、会員団体になってイベントの協賛をしてくれた住友信託銀行や博報堂の人びとも含めて多様な参加があった。

「縦割り市民団体の弊害」脱却を目指して

 ところで、1年前イベントに取り組むまでの期間、中部で「地域・流域作業部会」の立ち上げを目指していこうとする動きがあった。現代社会は流域の「生態系サービス」をますます劣化させ、それを補うために生き物に配慮のない人工的な施設(ダム、下水道、コンクリート水路等)を強化してきた。問題を流域規模、都市と山村の関係の見直しという視点で捉えたときに、生物多様性条約やTEEBが示す先進国と発展途上国の関係性の見直しの問題と同じような構造を持つことが判明する。
 このような視点に共感する市民たちが「地域・流域作業部会(仮称)」の立ち上げを進めていた。しかし、この集団が同時に1年前イベントの準備等を兼務することは難しく、結果的に今回のイベント準備の過程で、流域問題に取り組む流れは「テーマ別作業部会としての流域作業部会」として独立し、もう一つは、中部圏のCBD市民ネット会員団体の連携と、今後本番に向けて何度か開かれるはずのCBD市民ネット関連イベントの下支えを担う役割を持つグループの二つに流れが固まった。

 1年前イベントを成功させるという経験を経た名古屋の市民たちは、COP10に臨むステップを一段上がったと言えるだろう。しかしこの先にはまだもっと厳しい階段がありそうである。市民は縦割り行政を批判することは多いが、同じく厄介な「縦割り市民団体の弊害」を自ら脱却することを目指してさらに階段を上っていける信頼関係を醸成していきたい。

(グローバルネット:2009年11月号より)


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