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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第70回 米国のグリーン・ニューディール政策の展望と日本の環境政策の影響

  • 2009年11月12日

特集/米国のグリーン・ニューディール政策
〜環境を考える経済人の会21ワークショップより
基調報告
米国のグリーン・ニューディール政策の展望と日本の環境政策の影響

無断転載禁じます

クリーンエネルギーへの投資が経済政策にプラスと提言

 センター・フォー・アメリカン・プログレス(CAP)は革新的なシンクタンクで、クリントン元大統領の首席補佐官をしていたジョン・ポデスタが2003年に開設した組織です。目的は国家の安全保障、医療、そして経済の流動性と地球温暖化対策としてのクリーンエネルギーです。ジョンは、この組織をシンクタンクではなく、アクションタンクとして進めていきたいと考えています。彼はオバマ大統領の政権移行チームの議長の一人で、CAPのスタッフの多くはオバマ政権のシニアスタッフの職に就いています。
 アメリカは世界で一番エネルギー消費が多く、温室効果ガスの排出量も多い。その中で経済を再生するために、クリーンエネルギーへの投資をすれば、環境だけでなく経済にもプラスの影響が出ると、『Capturing the Energy Opportunity』(www.americanprogress.org)という報告書を出しました。クリーンエネルギー政策への投資が、地球温暖化の低減、経済の再生、雇用の創出、国家の安全保障を強化すると提言し、三つの政策が記されています。
 一つ目は、温室効果ガスの削減をキャップ・アンド・トレードで促進するということ。2020年までに20%削減、2050年までに80%削減を打ち出しています。
 二つ目は、輸送システムを変革して燃費を上げていくことが重要です。アメリカ車の燃費は1ガロンあたり平均 27マイルです。この燃費を上げるために、もっと先進的なバイオ燃料の開発をしなければいけません。トウモロコシから作るエタノールではなく、木材のチップ、農業廃棄物、スイッチグラス(多年生のイネ科の植物)という雑草を利用し、公共交通機関(鉄道、バス、地下鉄)への投資も行います。そうすることによって石油の消費を下げていく。
 三つ目は、現在、発電の半分で使われている石炭は温暖化にかなり寄与しているので、石炭使用を下げるために発電効率を上げ、さらに石炭火力発電で出てきた炭素を地下に貯留する技術も開発しなければいけないと考えています。

環境対策によって創出されるグリーンジョブ

 環境対策によって生み出される新たな雇用をグリーンジョブと呼んでいます。グリーンジョブというと、直接クリーンエネルギーに関係する雇用と思いがちですが、企業で例えばエネルギー効率の良い窓を設置業務に携わっている人だけではなく、経理や受付の人、PRの仕事もグリーンジョブと呼んでいいと思います。
 そこで、どのぐらいの雇用が創出されるか、マサチューセッツ大学の政治経済研究所と協力して、雇用への影響を数値化しました。
 個々の業界での投資額と、そこから生まれる雇用数をみると、例えば、100万ドルを太陽光発電に投資するのと、石油生産に投資する場合の比較ができるでしょう。お金があれば、食品や衣料などに人びとはお金を使うようになり、さらなる雇用創出につながる。これを乗数効果と呼んでいますが、3分の1と計算しています。1ドル使えば1ドル33セントの効果が生まれるということです。これはIMF(国際通貨基金)のレポートでも使われている割合です。
 そして、CAPは1,000億ドルを三つの分野に使うことを提言しました。まず半分の500億円を税控除に使う。風力発電のビル建設や、エネルギー効率を上げる工事をする。そうした企業の税控除をする。そして、残りのほぼ半分、460億ドルは政府が直接支出するということにしました。残り40億ドルを融資の保障に使っていきたいと考えています。

多くの雇用を創出する クリーンエネルギーへの投資

 どのようなメリットがあるのか考えてみたいと思います。まず1点目ですが、2年間かけて1,000億ドルの投資をすることで、200万人の雇用を創出できると考えています。とくに製造業と建設業に大きなメリットをもたらします。一方で、1,000億ドルを石油産業に投じると50万人の雇用しかつくることができません。クリーンエネルギーは労働集約型の仕事が多く、たくさんの雇用が必要だからです。
 2番目のメリットとして、再生エネルギーのための装置や材料は、ほとんどがアメリカ国内で調達できます。風力タービンには鉄鋼が、ソーラーエネルギーの場合には太陽光発電の施設が必要です。また窓の高性能化のためにもさまざまな材料が必要です。これらはすべて国内で調達できます。
 もう一つ、アメリカの場合、政治は州レベルで動いています。そこで、各州の経済にどんな影響を与えるのか試算を行いました。例えばカリフォルニアの場合、クリーンエネルギーに1,000億ドルを投資したとすると、アメリカ全体では200万人の雇用が誕生しますが、うち、23万人の雇用がカリフォルニア州で、13万人の仕事がニューヨーク州でできる。そういった話をすると州の人びとはもっと関心を持ち、メディアも注目します。

  太陽光 風力
国名 合計設備
容量
(MW)
雇用 世界市場に
おけるシェア
合計設備
容量
(MW)
雇用 世界市場に
おけるシェア
ドイツ 3,846 40,000 29% 22,247 100,000 28%
日本 1,708 25% 16,818 45,000 15%
米国 750 50,000 7% 2,726 7,500
イタリア 100 1,700 2,455 5,000
フランス 47 2,000 2,389 8,000
カナダ 20.5 1,080 1,856 1,000
英国 17 1,538
ロシア 14

安定、刺激、再生、成長が柱
グリーン・ニューディール

 『Capturing the Energy Opportunity』『Green Recovery』という二つの報告書には、さまざまなクリーンエネルギー政策が含まれています。オバマ政権の非常に重要な部分を占めています。まず今の経済状況をいかに打開するかが大きなポイントです。
 まず第1点目は安定化。崩壊の危機に瀕している企業を救っていく必要があります。2点目に、仕事をつくる必要があります。例えばクリーンエネルギーへの投資によって雇用を創出する。3点目は、再生(リカバリー)。そして最後に長期的な経済成長を確保するような政策をつくる——この四つです。安定化、刺激、再生、成長という4段階の経済再生プログラムが必要です。これに沿ってわれわれもレポートをまとめ、モデルに合う形での提言を行っています。
 次に、いかに経済を刺激するか。これは現在進行中のプログラムに投資を行うことです。低所得者をサポートする、彼らの世帯のエネルギー効率を上げるための投資です。こういった中で新たな雇用が創出されます。またオバマ政権の経済政策の中には、連邦政府の建物のエネルギー効率を高めるという予算も割かれています。
 税額控除で長期の投資を促すものがあります。例えば、ウィンドファームをつくるとか、建物にソーラーパネルをつけるというものがあります。また、新しい政策として、28州においてすでに「Renewable Electricity Standard」(再生電力基準)という法律ができています。これは、各電力会社に対して電力をつくる時には、一定の部分は再生可能なエネルギー(地熱や風力、太陽光)を使うことを強制するものです。州だけではなく、国全体の方針として採択するように要求しています。
 もう一つ、われわれが推奨していることは、長期的な成長プログラムとして、キャップ・アンド・トレードの仕組みを使い、クリーンエネルギー政策のお金を賄っていこうと考えています。すなわち二酸化炭素を排出する人からお金をとってきて、研究開発に投資をしていこうというものです。また、低所得者層に対してキャップ・アンド・トレードで得られた収入を使ってさまざまな補助金を提供していこうとしています。
 オバマ大統領の最終的な計画は先日議会で可決されました。われわれが推した1,000億ドルの提案をかなり受け入れたものです。その中身は17億ドルをスマートグリッドに投資し、260億ドルを建物や家電などのエネルギー効率向上に、60億ドルを再生可能エネルギー、30億ドルをクリーンな車両の技術開発に、180億ドルを公共交通機関、鉄道に投資していきます。日本の高速鉄道の導入も考えています。またクリーンエネルギーの税制措置として200億ドルを考えています。

(グローバルネット:2009年5月号より)


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