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半世紀にわたり現場報道の経験を蓄えてきた日本の環境ジャーナリズムと、開発と環境破壊が同時に進行する途上国で、報道の制約に苦しみながら奮闘してい るアジアの環境ジャーナリストが、認識を分かち合い、学びあう機会を設けようと1995年10月、第1回「アジア環境ジャーナリスト交流セミナー」が開かれた。2007年までに延べ5回の会合が、日本環境ジャーナリストの会が主催して開催され、今回は6回目となる。
今回は資金の大部分を環境再生保全機構地球環境基金に支援していただいた。
今年は交流相手を中国に絞った。その理由は洞爺湖サミットの主な議題である地球温暖化の減速プロジェクトの焦点が、先進国間の温室効果ガスの中長期にわたる削減率に集中していることとメディアの報道の取り組みへの疑問からである。
日本側からは次の2組4人が加わった。「住民運動こそが地方自治の本義」と考える市民たちに、共感の輪を広げているNPO法人菜の花プロジェクトネットワーク代表の滋賀県環境生活協同組合理事長の藤井絢子さん。
「魚介類の生育には豊かな森が欠かせない」と1988年以来、気仙沼に注ぐ大川の源流部、室根山(岩手県)で仲間の漁師40人と広葉樹の植林を続けている宮城県気仙沼漁業協同組合の牡蠣の森を慕う会会長・畠山重篤さん。
「菜の花プロジェクト」共感の輪を大きく広げ、循環型地域社会のモデルとなっていく過程を1999年から報道してきた毎日新聞社広島支局の宇城昇記者。
畠山さんの地元、宮城県気仙沼市の駐在記者だった1999年から、畠山さんの「森は海の恋人」運動が全国に広がる状況を報道し続けてきた河北新報の岩瀬照典東京支社長。
終了直後に急ぎこの記事を執筆しているため、セミナーの成果と問題点をいまだ分析、統合し得ていない。一般参加者から寄せられた感想を紹介したい。
「中国は汚染をたれ流し、産業優先の利己主義集団という国家概念を持っていたが、バイアスのようでした。自然環境保全への活動もあるのかと認識いたしました。
ただしこれはマイノリティーであろう。ここにニュース性ありと感じました。農業より工業化を優先するという図式から、いつの時点で日本と同じ環境優先国家へ変貌するかと政治第一の国に疑問符を持っています。日本と同じ40年の時を待っていないといけないのでしょうか」(東京都江戸川区・会社員)
「刺激になりました。まったく違う中国社会の現況でした。ジャーナリストの役割、使命の大きさも感じさせていただきました」(滋賀県大津市・主婦)
環境NGOを設立したくても登録管理を担う「民政」部門の許可が得られても、NGOの活動業務を管理する「主管単位」を引き受ける行政機関が少ないため創設は困難であること。既存のNGOも行政と共産党からの批判を絶えず警戒しながら、しかし環境破壊の告発と環境教育の筋を通そうと活動していること。
例えば長江上流の怒江に計画された大規模ダムに激しく反対する住民たちと支援するジャーナリスト、環境活動家たち。ダム建設に追われ離村、ごみ拾いとなっていのちをつなぐ住民の悲惨を描いた史立紅さんのドキュメンタリー「怒江の声」のような厳しい告発キャンペーンも行われている。
環境ジャーナリストも同様な状況に置かれていて、一般的な環境問題の報道、解説は可能だが、例えば国営工場の公害に抗議する農民による大規模な抗議行動のような、社会構造に関わる大きな事件は「内部資料」という別稿記事にして、一般国民の目にふれることなく政策決定者の下に留めおかれ、秘密扱いされている。ただし、報道現場では工夫が凝らされている。ある省で発生した環境破壊の事件を、その省の党と行政の監視を逃れ、その省と利害関係のうすい、あるいは被害者に関係のある他の省のメディアにより報道することが頻繁に行われている。
このように、環境NGOは現実社会で活動し続け、ジャーナリズムの批判的な報道も相当自由に行われている。
一見矛盾する中国社会の実態について、オブザーバーとしてセミナーに参加した李妍焱・駒澤大学准教授は「中国の草の根NGOが環境保護の分野から発足できたのは、この分野が持つ純粋な公益性、政治的敏感度の低さ、そして政府の理念との一致による部分が大きいと思われる」と指摘している。
交流セミナーの講演、討論を介して、環境問題に現場で取り組み、成果を挙げるためには住民、企業、自治体行政の協働(collaboration)が必要であること、その過程、成果を広く世間に伝え、国民、市民意識を改革するには、環境擁護報道(advocacy journalism)、提唱報道(agenda setting)が有効であることが政治・経済体制の違いを超えて確認された。
(グローバルネット:2008年7月号より)