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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第49回 環境安全保障に向けた新たな地球環境学の構築

  • 2008年2月14日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/人間の安全保障を考える〜京都大学国際シンポジウム・人間の安全保障のための地球環境学より 環境安全保障に向けた新たな地球環境学の構築 京都大学大学院地球環境学堂教授 松下和夫

無断転載禁じます

 第9回京都大学国際シンポジウムが「人間の安全保障のための地球環境学」を全体テーマとして、2007年6月22日から2日間、京都大学で開催された。

 今年は京都議定書が京都の地で採択されてから10周年、そして京都大学の地球環境学堂・学舎が発足してから5周年の節目となる年である。

 さらには「持続可能な発展」の概念を世界に広めたことで知られている「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が『われら共有の未来』という歴史的な報告書を公刊した年から20周年でもあった。

 折しも直前にドイツで開かれた主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で、地球温暖化問題が主要テーマとされ、「2050年までに温室効果ガスを半減することを真剣に考慮する」という趣旨の首脳宣言が採択されたばかりであった。

 このようにシンポジウムのテーマが極めてタイムリーとなったことから、時に激しい雨の降る悪天候にもかかわらず約400人の聴衆が京都大学の時計台記念館をうずめた。

人間の安全保障と気候安全保障

 第1日目はシドニー大学のアラン・デュポン教授の「環境と人間の安全保障:相互の関連」と、小島敏郎・環境省地球環境審議官による「気候安全保障と国際交渉の姿勢」というタイトルの基調講演があり、その後、地球環境学堂のラジブ・ショー准教授、ペラデニヤ大学のバンダラ教授、立命館大学の佐和隆光教授を加えてパネルディスカッションが行われた(司会は筆者)。

 人間の安全保障の概念は、従来の国家を対象とした安全保障から個々の人間の生存に注目し、「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義される。その根幹を成すのが「環境の持続性」である。

 デュポン氏は、気候変動をはじめ地球環境問題が国際政治上および人類の生存基盤を脅かす重要課題であることを強調し、とくにアジアにおける環境安全保障の観点からの新たな協力の可能性を論じた。

 小島氏は国際交渉の最前線に関わっている立場から、気候変動が安全保障の問題となって国際政治上の重要課題となっている半面、現実の交渉がともすれば「各国にとっての対策に要するコストをいかに削減するか」になってしまっている現状を指摘した。人類の持続可能な未来のためには、気候変動の「影響」を人類にとっての脅威と捉え、地球益のために各国の協力が必要であると主張した。

 パネルディスカッションにおいては、ショー氏は現実にコミュニティで生活している人びとの視点を提起し、バンダラ氏は東洋的な調和の思想と温暖化対策においても汚染者負担の原則、すなわち先進国の責任を明確にすることを求めた。佐和氏は技術開発と経済的なインセンティブの重要性を指摘し、地球環境問題に取り組むことを通じて新たな経済社会の展望が開かれる可能性を論じた。

 人間の安全保障、そして気候安全保障の考え方を踏まえ、多様な学問分野の成果を生かし、それを統合し、どのようにして新たな地球環境学を構築していくか。さまざまな視点が提起され、今後の大学の役割にも深い問いかけがなされた。

三つの分科会で活発な議論を展開

 第2日目は三つの分科会(「サステナビリティを考える」(コーディネーター:一方井誠治・松岡譲・植田和弘京大教授)、「現代科学技術に求められる洗練とは何か」(コーディネーター:横山俊夫・三室守京大教授)、「フィールドとコミュニティから考える」(コーディネーター:森本幸裕・小林正美・夏原由博京大教授)に分かれ、各国からの招待講演者の発表や討論が行われた。

 招待講演では、カリフォルニア大学のファルザン教授(経済発展における持続性と最適性)インド経営大学院のシュクラ教授(持続可能性と気候変動)、(以上第1分科会)、オックスフォード大学のサイモン・ジャックマン教授(技術革新による環境改善)、韓国学士院会員のソン教授(環境倫理に基づく国際行動)(以上第2分科会)、国連大学高等研究所長のザクリ博士(ミレニアム生態系評価とそのフォローアップ戦略)、スタンフォード大学のハロルド・ムーニー教授(世界の生態系の現状と生態系サービスの持続可能性)(以上第3分科会)など各分野のそうそうたる権威から興味深い報告がなされた。

 各分科会では、招待基調講演の後、京都大学の教員や若手研究者、さらには国内他機関の研究者、アジア・プラットフォームの協力大学であるベトナムのフエ大学、西条市長、環境NGOの実践家(ラムサールセンター中村玲子さん)も加わってそれぞれのテーマにつき活発な討論が展開された。参加した研究者・専門家・実践家の間で交流が深まり、今後の連携と協力の可能性も探られた。

 また、昼休みの時間を活用して、京都大学地球環境学堂・学舎の活動紹介や、その教育プログラムの特色であるインターンシップの成果、ベトナムを拠点とするアジア・プラットフォームの活動を紹介するポスターセッションも開かれた。

地球環境学の方向性と大学の役割

 最後に参加者が一堂に会して新たな地球環境学の方向性を討議する全体総括セッションが持たれた(司会は植田教授)。まず各分科会から分科会の議論の概要の報告があり、それまでの議論を共有した上で、今後の地球環境学の方向性、とくに大学の役割について議論が行われた。

 京都大学では2001年にビジョンを定め、その中で、「基礎研究と応用研究、文科系と理科系の研究の多様な発展と統合」「地球社会の調和ある共存」に寄与する教育や国際交流を推進する——といったことを明確に述べている。今後ますます重要となる地球環境問題の解決に向け、大学として文理の枠組みを越えた統合を果たしていく意思を表明したものでもあった。

 今回のシンポジウムは、地球環境学堂・学舎をはじめ、京都大学の地球環境研究・教育の成果を踏まえ、今後の展望を拓くことを目指して開催されたものであった。

 シンポジウムでは、人類社会の重要課題となっている地球環境問題とそれに対処するための新たな学問の統合・発展に向け、きわめて質の高い議論が展開された。もとより今回のシンポジウムで掲げたテーマは一朝一夕に結論を出せるものではない。しかしながらこのシンポジウムを一つの契機とし、人類共通の課題である地球環境問題の解決へのカギについての理解が深まり、今後の地球環境学研究・教育がさらに発展していくことを期待したい。

(グローバルネット:2007年8月号(201号)より)


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