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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第48回 座談会/温暖化対策の本気度を問う

  • 2008年1月10日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/本気でやろう! 温暖化対策
座談会/温暖化対策の本気度を問う
浅岡 美恵さん(気候ネットワーク代表)
小島 敏郎さん(環境省地球環境審議官)
藤村 宏幸さん(前・株式会社荏原製作所名誉会長、国連大学ゼロエミッションフォーラム会長)
<聞き手>大城 早苗さん(東京大学新領域創成科学大学院修士課程)


→参加メンバー紹介


安倍首相がサミットで提唱した「美しい星50」の提案。温室効果ガスを2050年には今より半減させようという大胆な内容です。その「本気度は?」「実現可能性は?」。NGO、企業、行政を代表する3人に、若者を代表して東京大学大学院の大城早苗さんが問いかけました。

 

大城

 ドイツで6月に開かれたG8サミットでは、地球の温暖化、気候安全保障が最大のテーマになりました。安倍首相がイニシアチブをとった、2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を現状から半減させるという目標も、真剣に検討しようということになりました。しかし、日本では安倍首相の「本気度」が国民にいま一つ理解されていないように思えます。
 法律家で気候問題に関わるNGO活動を続けてこられた浅岡さんは、今回の各国の動きをどのように受け止められましたか。

浅岡

 21世紀の気候変動対策をここ数年のうちに方向づけなければいけないという認識を世界のリーダーたちが共有したことは大変重要です。しかし、日本国内自身の削減目標が示されていないために、事業者や消費者へのシグナルとなっていないと思います。
 日本の温暖化防止政策は、この10年大きな進展がないというのが正直な感想です。排出削減に産業界の抵抗が大きいことや、増加の要因を分析して適切な政策をとる政治的風土がまだないためです。私たちは、2001年に施行された情報公開法に基づき、省エネ法によるエネルギー使用量の定期報告情報の開示を求め、だいぶ実態がわかってきました。温暖化対策を議論する上でも欠かせないデータですが、製鉄所や一部の化学会社はまだ開示していません。

 

内側からの仕組みづくり

大城

 司法の役割としては、この4月に米国の連邦最高裁が、大気浄化法による二酸化炭素(CO2)の排出規制を政府に求めました。ブッシュ政権に相当インパクトを与えたのではありませんか。

浅岡

 米国では環境保護団体も訴訟の当事者になることができます。今回の判決は、マサチューセッツ州などとNGOが原告になり、連邦環境保護庁にCO2の排出規制を求めたものです。最高裁は、地球温暖化問題をよく理解し、海面上昇などから市民の安全を守る問題として捉えた画期的な判決です。
 中国などとの競争力を低下させるとの主張にも、米国で排出削減すれば、それだけ温暖化防止に貢献する。4対3の評決でしたが、米国の世論を反映していると思います。大企業からの前向きな発言も多くなっています。
 それに対して日本は内側から仕組みをつくっていくような力が見られません。個人でできることに取り組むのは当然ですが、低炭素社会に向けた社会の大改造に、「本気」で取り組むことが必要です。

大城

 日頃から、環境問題、資源の枯渇問題、経済成長を同時に解決することが人類の夢であり企業の夢でもあると発言されている藤村さんは、どのように受け止められましたか。

認識から行動のスピードアップへ

藤村

 私はゼロエミッション活動をやってきて、今や企業経営も自治体経営もその中に環境を組み込まないとやっていけないという認識、行動はかなり広まってきていると思っています。
 環境悪化、資源枯渇、経済成長のスピードに対応しきれなくなって社会、人間、自然システムのバランスが崩れてしまっているのではないかという認識は深まってきています。ですから「本気度」というのは、「認識」の時代から「行動のスピード」の時代に入ることと認識しています。
 日本はすごいスピードで公害対策をクリアした貴重な「経験」を持っています。公害問題では、市民の力に支えられて法的な規制、技術開発、財政支援、これらが三位一体となって機能しました。
 このような経験をもった国は地球環境問題をクリアできるポテンシャルもあると思います。日本が先駆けることによって、経験を世界に普及していくやり方があると思います。
 国は3Rを推進しており、「経験」を通して速いスピードで進むのではないでしょうか。企業も環境を組み込まないと経営ができませんから、環境の評価基準、フルコスト計算を組み込むことで一層対策のスピードが上がっていくでしょう。
 市場経済、グローバル化の中では難しい点もありますが、合わせて技術移転、財政支援をまず日本がやらなければいけないでしょうね。

国民世論の支えが「本気度」の発現の基盤

小島

 「美しい星50」という安倍総理のサミットでの提案は、今後の社会や経済が資源制約に加え、CO2、つまり空気の制約にも迫られていることを明らかにしたものです。
 しかし、私たちは「有限な地球」の上で生きているわけですから、それを「制約」と考えて、なげいていても仕方ありません。それは、私たちがこの地球で生きていく上での「条件」と考えて、新しい文明を切り開いていくというポジティブな発想に立たなければなりません。
 まず当面の課題である京都議定書で約束した6%削減については、これを達成する決意を明らかにしています。そして、総理は国民運動を強調しています。
 次にポスト京都議定書、2013年以降の枠組みについては、京都議定書よりも前進する、北と南という分け方でなく・先進国・主要排出途上国・その他の途上国・気候変動の影響に弱い国——という4分類にして、柔軟かつ多様な取り組みをする。さらに気候変動政策と経済成長を両立させる。
 さらに、2050年という世界全体の温室効果ガス削減の目標として、地球の吸収量の範囲内に排出量を抑える、それを達成するために現状より50%削減しようと言っています。
 問題はそれを世界的に共有できるかどうかということですね。気候変動に関する枠組みは、有志連合ではなく、国連の条約の下でつくっていくこと、これが基本です。地球温暖化は、好むと好まざるとにかかわらず、すべての国に関係する事柄だからです。
 そこで「2050年50%削減」を国連での交渉のアジェンダにして、中国やインドにも議論を広げていく必要があるわけです。G8では2050年の目標設定という点ではある程度成功したと思います。2005年の英国でのグレンイーグルズサミットのプロセスの終着点は来年の洞爺湖サミットで、日本の責任が非常に大きい。
 政府の「本気度」は国内世論に支えられて初めて大きな力になる。EU(欧州連合)諸国で温暖化問題が選挙の争点になることに、それが表れています。日本でも国内世論がもっと支えれば「本気度」は確固たるものになると思います。

大城

 「本気度」というのは市民、企業、国という視点の違いで、見える視点も違うと思いますが、「認識から行動へ」という「行動」まで結びついていないような印象をもってしまいます。どうやって「行動」を起こせるまで「本気度」をもっていけるのかを聞かせていただきたいと思うのですが……。

意識を引き出す対応を

浅岡

 世論や事業者の行動に影響を与えることができるように、市民力が高まっていくことは非常に重要です。しかし、気候変動は公害と違い、地球規模に長いタイムスパンをもって影響を及ぼします。グローバルな政策、国際政治の役割が重要で、影響が深刻になってからでは遅い。今、直ちに予防的に国際社会が動かないと将来世代に悲惨な結果が待っている。
 人間活動のスケール、成長のスピードが社会の対応スピードを超えており、その速度に遅れずに新しい社会的制度、仕組みが必要です。トップが長期的な視点をもち、それを国民の意識の喚起につなげていく。日本でも気候変動に対する危機感が広がっていますが、政策を通して取り組みの必要性を国民が実感するところで、国民の意識も変わっていくと思うんですね。
 ヨーロッパは市民社会の歴史も長いのですが、日本より気候変動の影響、深刻度も大きいことがあると思います。

大城

 藤村さん、浅岡さんは、対策のスピードを予防的なことも含めて早めることが重要だと強調されました。日本の公害経験も踏まえ、行政がもっとスピードを上げてやらないと、それこそ行政の不作為みたいなことまで問われないかと思います。小島さん、そのあたりは、地球環境問題担当の行政のトップのお一人としてどのようにお考えですか。

将来に対する想像力が大切

小島

 気候変動はタイムラグがあるので、将来の影響を今の問題として認識するのは、想像力にかかっています。「人間はサルより賢い」と私は言っています。つまり、人間は将来を見通して今を考えて気候変動を政治の一つの課題にできる。「朝三暮四」のような考え方をしないと思うんですね。
 気候変動問題は、原因はグローバルだけど影響はローカルに現われてきます。気候変動の対策には適応策と緩和策があります。そのうち、適応策は極めてローカルな視点で講じていかなければならない。影響は脆弱なところに出て、災害に対応する能力がなければ多くの被害が起きるからです。
 将来予想される被害が「今」全部出現しているわけではないけれども、EU諸国で選挙の時に、気候変動、環境対策が争点になるのは、国民が想像力を持っているということだと思います。政治的な課題となっている国とそうでない国がある。それは政治家が違うということではなくて、メディア、国民が求め、政治家がそれに応えるということに違いがあると私は思います。民主主義の国ではそれが機能すると思っています。

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