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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第26回 日本から中国へ〜循環資源の越境移動

  • 2006年3月9日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

独立行政法人国立環境研究所主任研究員
寺園 淳

無断転載禁じます

 近年は日本から中国を含むアジア諸国・地域に対して、循環資源の輸出が拡大している。輸出量は1990年代後半以降急速な伸びを示し、2004年においては鉄くず682万t、銅くず32.9万t、アルミニウムくず8.1万t、古紙284万t、廃プラスチック85.0万tとなった。すなわち、この5品目の合計だけで約1,092万tとなり、中古品なども含めれば年間1,200万tを超える循環資源が輸出されていると考えられる。  2005年4月に東京で開催された3Rイニシアティブ閣僚会合では国際資源循環に関する白熱した議論が行われた。障壁を低減(緩和)すべきものと厳しくすべきものの両方が必要で、ルールにもとづいた課題整理と議論が必要だと考えられる。

日本・中国・香港間の廃プラスチックのマテリアルフロー

 日本・中国・香港それぞれの輸入統計を基礎として、2002年における廃プラスチックのマテリアルフローを描いたものが下図である。中国に輸入される251万t(2002年)の廃プラスチックのうち、主たる輸入元は貿易の中継拠点の役割が大きい香港であり、次いで米国・日本などとなっている。

 日本からの輸出量が多いと考えられ、容器包装リサイクル法との関係で注目されるPETくずの輸出量については、貿易統計からは不明である。しかしながら、中国の輸入業者へのヒアリング調査などから、日本から中国・香港へ輸出される「その他プラ」(2003年は39.5万t)の半数程度またはそれ以上はPETと見込まれる。なかには使用済系のPETだけでなく、副産物系の工場ロスも相当程度含まれているとみられる。なお、中国では2005年1月よりPETくずの貿易統計品目(3915.9010)を新たに設置して貿易量の把握を始めており、日本でも関係諸国との整合を図りつつ把握の体制をとることが望まれる。

 2004年5月、中国国家質量監督検験検疫総局は日本からの廃プラスチックの輸入を一時的に禁止する公告を発表した。これは山東省青島の処理業者が日本から輸入した廃プラスチックが、生活ゴミなどと判断されたことがきっかけとなったものとされている。

 この輸入停止措置の影響の大きさについて、中国国内のリサイクル業者へのヒアリングによれば、日本からの直接輸入に大きく依存していた業者は生産ラインの停止などに追い込まれるなどの影響があることがわかった。一方、香港・台湾などを経由して日本からの輸入を継続したり、欧米などからの輸入によって原料が確保できている業者には大きな影響はない模様である。日本を原産地とする廃プラスチックの輸入が停止されており、これには香港などを経由したものも含まれるが、業者への周知が徹底されていないようである。

 輸入停止措置が発表された5月以降、日本から中国への月別輸出量が落ち込んだものの、6月には香港への輸出量が増大することによって減少分が補われている。また、輸出量の経年変化を見ると、2004年は香港が輸出先としてのシェアを増やすとともに輸出量の伸びも衰えを見せておらず、年間85万tに達している。なお、この輸入停止措置について、2005年7月現在も解除されていない。

日本における使用済PETボトルの輸出構造

 国内では容器包装リサイクル法のもと、使用済PETボトルは市町村によって分別収集・前処理(異物の除去、破砕、洗浄)され、分別基準適合物となったものがPETのフレークまたはペレットなどに再商品化されることとなっている(下図)。使用済のPETボトルが自治体によって分別基準適合物にされるには、分別収集・前処理のために多額の費用が必要である。さらに、PETのフレークまたはペレットとするには、再商品化費用(年々低下しているが、2005年度は31.2円/kg)を要する。

 最近になって、このような多額の分別収集・前処理の費用を補填するために、輸出を前提とする業者に有価で売却する市町村が増え始めている。容器包装リサイクル協会を通じた市町村からのPETボトルの引き取り契約量は、2005年度に法施行以来初めて減少に転じ、2004年度の19.2万tから17.7万t(申込量)となった。容器包装リサイクル法は国内リサイクルを前提として成立・施行されたが、日本における高額なリサイクル費用、中国の資源需要増大、両国における有価・無価の基準の差異を背景として、現在のシステムに形骸化のおそれが生じ始めている。

環境汚染の輸出防止が最も重要な視点

 国際的なリサイクルのために循環資源が越境移動することについては、中国などで資源の需要が大きいことや、動脈物流がすでに国際化していることを考えれば、ある程度は避けられない。また、国際資源循環においては輸出国・輸入国の利益、正と負の側面などが入り組んで複雑なために、単純な解が見出しにくいのも事実である。最後に、著者が考える主な視点を4点記して終える。

 まず、環境汚染の輸出を防ぐことが最も重要な視点である。国際的なリサイクルを行うためには、環境汚染の防止と資源の有効利用を両立させることが重要であるといわれる。有価物と廃棄物を混ぜて「抱き合わせ」で循環資源として輸出させるような不適正な動きは止めねばならない。輸出国と輸入国の双方にとってメリットのある監視体制・技術協力などの仕組みを具体的に整える必要がある。

 次に、資源保全や制度の観点から持続可能であるかどうかという視点である。中国では、金属やエネルギー資源消費量の伸びが著しい。「いつまで中国から潤沢で廉価な製品が供給されるか」「いつまで中国で廃棄物を引き取ってもらえるか」については、何の保証もない。

 さらに、国際資源循環の適切な推進と車の両輪となるべき、3Rの努力が各国において必要な点は言うまでもない。

 最後に、国内リサイクルの確保といった視点である。容器包装や家電などの各種リサイクル法は分解・分別後の輸出を考慮していないために、輸出条件などを改めて整備する必要があると考えられる。

 これらの問題に対処し、東アジア圏で持続可能な経済社会を成立させるためにも、業界・行政・学術研究などの各分野で、長期的視野に立った情報交換や協力の必要性があることは言うまでもない。

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