サイト内
ウェブ

このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第120回 半乾燥地の水環境保全を目指した洪水−干ばつ対応農法の提案

  • 2014年1月9日

半乾燥地の水環境保全を目指した洪水−干ばつ対応農法の提案

 私たちは、洪水と干ばつに対応する農法を砂漠国ナミビアで検討していますが、本日は、その途中経過を紹介します。

 イネは水が多い環境に適応しているのに対し、トウジンビエという作物は逆に水が少ない環境に適応した、いわば半乾燥地における主食といえる作物種です。水に対して適応性が全く異なる、この二つの種を同時に植えることにより、洪水と干ばつの両方に対応できるのではないかという発想がこの研究プロジェクトの出発点です。

 対象としているナミビアという国は、かつて南西アフリカといわれた国で、地図でいうと南アフリカ共和国のすぐ上の国です。ナミブ砂漠とカラハリ砂漠という二つの大きな砂漠があり、非常に乾燥した国です。アンゴラと国境を接する北中部には人口が集中し、ここではヤシの木が水面に映し出される、いわば砂漠のオアシスのような光景が見られます。この地域の豊富な水はアンゴラ高原に降った雨が氾濫原を流れてきた洪水で、毎年雨期になると広大な季節湿地が形成されます。地下水が滋養されるため、古くからこの地域には人口が集中してきました。ところが、降水量が年間200mmの年もあれば、1,000mmを超える年もあり、水環境が不安定なため、これまでこの季節湿地は作物生産には利用されてきませんでした。そこで、ナミビア大学と、今から10年ほど前から稲作導入という共同研究を開始しました。

 季節湿地を衛星写真で見ると、季節河川に沿って塩が集積している様子がわかります。標高が高いアンゴラ高原の降水が下流域のナミビア北中部に流れ込み、盆地の底にエトーシャ塩湖という野生動物の宝庫の国立公園が形成されます。しかし、ここにイネを植えるための灌漑施設を造成し水の流れを止めると、半乾燥地であるため塩の集積が促進されることになります。つまり、エトーシャ塩湖が拡大し、上流域にある人口密集地域もやがてこの塩湖のような生態系に変わるリスクがあります。あるいは、過剰な農業生産によって地下水位が低下するリスクもあります。

イネとヒエの混作農法の提案

 航空写真(写真)を見ると農家が点在していることがわかりますが、農家の周りには現地の主食であるトウジンビエ(以下ヒエ)畑が広がっています。季節河川のように多くの水が流れるところではなく、小高いところに作られたヒエ畑と、ヒエ畑の間の「ため池」のような大きな水たまりにイネを導入します。この地域に稲作を導入するためには、単に作物研究者による検討だけでは、この地域の水環境や社会経済を破壊するリスクがあります。そこで、洪水と干ばつに対応が可能な作物の植え方を作物学領域の研究者が検討し、一方水文学領域の研究者がイネを導入することによりどれだけの水が失われるのかを検討し、さらに開発学領域の研究者が、こういう農法が現地の自給自足農民の利益につながり、ひいては彼らを主体とする地域の社会経済に本当に貢献するのかどうかを検討しているところです。この三つの研究領域により新しい農法を提案しようとする共同研究をSATREPS()事業により、2011年度から行っています。

プロジェクト対象地。写真中央に湿地があり、イネ(深水イネや陸稲のネリカ)を植える
写真:プロジェクト対象地。写真中央に湿地があり、イネ(深水イネや陸稲のネリカ)を植える (※クリックで拡大)

 今説明した農法を、もう少し具体的に説明します。水深が深い所から傾斜の上の方のヒエ畑の中ほどまで新しくイネを導入します。一方傾斜の上側のヒエ畑は、これまでよりももっと傾斜の下の方まで畑を延長して、季節湿地の中までヒエを植えます。例えば洪水年の場合には、水位が上がることにより、水没した場所のヒエは枯れてしまいますが、その代わりに新しく導入したイネはとてもよく育ちます。トウジンビエは乾燥に対して非常に強い作物種ですが、同時に、水が多い環境に対しては弱い作物です。一方干ばつ年には、傾斜の上の方のヒエは枯れますが、季節湿地の中に植えたヒエと傾斜の最も深いところに植えたイネは生き残ることが期待できます。すなわち、洪水年であっても干ばつ年であっても、これまで以上の穀物生産が期待できると想定しています。

 農民は、自分にとって利益があればすぐにそれを取り入れますので、農民自身の選択がなされたときに初めて新しい農法が現地に定着するはずです。各農家の立地と生態系、さらに農家の考え方の違いを評価し、類型化を行って農法を提案する、つまり研究と普及、さらに社会実装を一体化させることを目指しています。そうすることにより、自給自足農民にとって本当に利益があり、しかも地域の社会経済に貢献し得る農法を提案することができればと考えています。

注:(独)科学技術振興機構(JST)と(独)国際協力機構(JICA)が共同で実施している、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年間の研究プログラム

グローバルネット:2013年7月号より

 

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。