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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第114回 エネルギー・環境の選択肢と東日本大震災後のエネルギーシナリオ

  • 2013年7月11日

原発事故による環境汚染と森林生態系への影響

はじめに

 国家戦略室のエネルギー・環境会議は、東日本大震災と原発事故を受け、2030年のエネルギー・環境に関して三つの選択肢を提示した。そして、国民的議論を経た後、9月に革新的エネルギー・環境戦略を取りまとめた。本稿では、この「エネルギー・環境の選択肢」について分析すると共に、2030年におけるエネルギーシナリオについて展望する。

エネルギー・環境の選択肢に関する分析手法

 この分析に用いたツールは大きく分けて二つある。一つは応用一般均衡モデルという経済モデルで、日本全体の経済的な活動を全て網羅し経済活動をシミュレートするものである。経済活動を推定する際、電源構成が重要になるが、今回はエネルギー・環境の選択肢を分析する目的であるため、選択肢の中で示された電源構成をそのまま用いた。

 もう一つのツールは、国民生活に直接関係するエネルギー需要の評価モデルである。これは、国民生活で、さまざまな所得の人のライフスタイルを推定し、そのために必要なエネルギーを評価するモデルである。国民生活の中で省エネルギーや地球温暖化対策の導入が進んだ場合とそれほど進まなかった場合を想定し、電気・ガス・ガソリン需要等を評価している。そしてこの最終需要の評価結果を応用一般均衡モデルにインプットし、最終的に日本全体の経済活動を算定して、2030年の国民生活の状況を描いている。

エネルギー・環境の選択肢に関する分析結果と考察

 エネルギー・環境の選択肢に関する疑問点として挙げられるのは、電気代をはじめとするエネルギーコストが高騰している点である。例えば、原子力ゼロシナリオの月額の電気代が1万4,000円〜2万1,000円と、非常に高くなっている。原子力15の場合も、1万4,000円〜1万8,000円、原子力25の場合も1万2,000円〜1万8,000円に高騰している。これらの結果を分析したところ、今回の政府の計算では、10%の節電と約20%の省エネを実現することを前提としていることが判明した。

 経済モデルで、節電、省エネを表現する場合は、一般に価格弾力性を用いる。価格弾力性とは、価格の上昇率と需要の減少率の比のことであり、通常1以下の値をとる。例えば、価格弾力性が0.2のときに、「10%節電すべし」という要求には、電気代を50%上げなければならない。すなわち、電気代を50%上げることで電力需要が10%減少する。このような分析構造では、所定の節電率を達成するために電気代が上がるのが当然であり、その結果が上記のような電気代の上昇につながったと推定される。

 一方、われわれの評価では上記とは異なる評価結果が得られた。まず、2030年のエネルギーシナリオを策定するに当たり、経済成長、電源構成など基本的なパラメータを、エネルギー・環境の選択肢に合わせて設定した。さらに下の表1に示すような11項目の地球温暖化対策と家庭を中心とした省エネルギー方策を考慮した。そして、下記のようにケースAとケースBを設定した。

ケースA:表の(1)〜(7)までの地球温暖化対策のみを実施したシナリオ

ケースB:表の(1)〜(11)までの全ての対策を実施したシナリオで、とくに(8)〜(11)までの家庭における省エネ方策を導入している点が特長である。

表1:エネルギーシナリオ策定において
考慮された温暖化対策と省エネ方策
温暖化対策に効果のある取り組み (1) 産業部門では各業種が省エネ法の努力目標に従い、年あたり1% のエネルギー原単位の改善を実施
(2) 石油化学を除く産業部門において2005 年の重油等石油製品燃料利用の80%が天然ガスに転換
(3) 物流の効率化により、輸送部門のCO2 排出量を最大44%削減
(4) 太陽光発電が5,300 万kW に増加(うち70%が家庭への導入)
(5) 家庭用燃料電池(1 基あたり0.7kW)は570 万世帯に普及
(6) 住宅のヒートポンプ給湯は570 万世帯に普及
(7) 東日本大震災以降の電力需要の構造変化を踏まえた10% の節電
家庭での省エネに効果のある取り組み (8) 次世代省エネ住宅(1999 年基準)は、建築研究所の推定を基にして2030 年に存在する住宅の約48% まで増加
(9) 家庭での次世代自動車の普及率が50%まで増加
(10) 家電製品、自動車のトップランナー制度を継続
(11) LED の普及による照明の効率化

 とくに、ケースBでは、家庭生活に関して次世代省エネ住宅が増加していくというシナリオになっている。その過程で、ハイブリッド等の次世代自動車が普及し、また、トップランナー制度の継続により、これからも家電製品や自動車の燃費が上がっていき、LED等による照明の効率化も進展する。これらの仮定は、実は政府のエネルギー・環境の選択肢の中の省エネや二酸化炭素(CO2)削減の前提と大きな差はない。

2030年における電源構成案と年収500〜550万円の家庭への経済的影響
図:2030年における電源構成案と年収500〜550万円の家庭への経済的影響
(作成=ポンプワークショップ)

 このような前提条件の下、われわれの評価したエネルギー・環境の選択肢のシナリオを原子力比率ゼロ、15、20〜25のそれぞれで比較した。

表2:2030年におけるエネルギー起源の
CO2排出量(1990年比)の評価結果
  ケースA ケースB
原子力ゼロシナリオ - 18.4% - 13.8%
原子力15 シナリオ - 20.1% - 15.8%
原子力20〜25 シナリオ - 21.2 〜- 21.5% - 17.1 〜- 17.5%

 原子力ゼロシナリオにおいて、11項目全ての対策を実施したケースBでは、電気代は月額3,880円、産業を中心とした温暖化対策だけの場合でも月額7,250円と、現在の電気代(月額8,670円)よりは安くなっている。効率のよい冷蔵庫、エアコンを使い、一部、太陽光発電などが導入され、電気代が節約された分を考慮に入れているためである。ここではわれわれは、上述した価格弾力性とは異なる省エネの普及を念頭においているが、誌面の関係で詳しくは省略する。

 原子力15シナリオや20〜25シナリオでも、ほぼ同じ傾向が出ている。ただし、原子力が増える分、電気代が安くなるために、家庭の得になる分が増える。すなわち、原子力ゼロ、15、20〜25の電源構成シナリオのそれぞれによる影響は、生活の余裕に反映される。上図に示すように、ケースAでは、温暖化対策を全く実施しない場合と比べ、原子力ゼロシナリオで年間4.4万円、15で3.6万円、20〜25で2.9万円から3.0万円の損失が出る。しかし、ケースBでは、温暖化対策を全く実施しない場合と比べ、家計は得になるとの結果が得られた。

 すなわち、家庭の省エネを推進することが重要であり、とくに、トップランナー制度、家電製品の効率化は国民生活に与えるプラスの影響が大変大きい。2030年においては、太陽光発電が家計に与えるプラス影響よりも、家電製品の効率向上の方が大きいことがわかっている。また、省エネ関連製品の販売が加速することにより経済の活性化にもつながる。したがって、省エネ、創エネ製品の普及を加速するような施策を講じることが重要である。

 一方、エネルギー起源のCO2排出量については、表2に示すような結果となった。これより、原子力の比率の違いによるCO2排出量の差は最大で3.7%あり、再生可能エネルギーや省エネルギーの推進を図った場合でも、やはり原子力比率の影響は大きいことがわかる。

おわりに

 エネルギー・環境の選択肢を分析した結果、家計の余裕を増加させながら省エネを進めて、ある程度のCO2削減を進めることは可能である。そのためには、本稿で述べたような省エネ、創エネ製品の普及を加速するような施策を講じる必要がある。一方で、再生可能エネルギーや省エネルギーの推進を図った場合でも、原子力の比率が、エネルギー起源のCO2排出量に与える影響は大きいことがわかった。

グローバルネット:2013年1月号より

 

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