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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第110回 ブルーエコノミー〜生態系をヒントに起こすイノベーション

  • 2013年3月14日

特集 シンポジウム報告 ブルーエコノミー〜生態系をヒントに起こすイノベーション 基調講演 自然生態系から学ぶブルーエコノミーで世界を変えよう

グローバル市場経済が崩壊させたコミュニティ

グンター・パウリさん
グンター・パウリ氏
 この素晴らしい地球をどうしたらマネージメントできるのでしょうか。これまではいわゆる市場経済という仕組みで管理してきました。市場経済は基本的に企業に対してコア・ビジネスに集中することを奨励します。コア・ビジネスというのは一つのコア・コンピュタンス(他社を圧倒する競争力)に基づいたものです。ここで目指すことは、コストを低くして労働の生産性を上げ、スケールメリットを追求し、規格化された商品を製造していくことでした。成長を続けるために借金をし、金融システムを使って資産を増やし、グローバル経済で競争していくのがこれまでのビジネスモデルです。

 現在、失業が大量に増え、世界中で26歳未満の女性の60%が失業しています。文化や伝統といった社会を結びつけているものが次々となくなり、コミュニティが崩壊しています。そして人びとは消費し過ぎています。今までのビジネスモデルは変えなければなりません。

 ブルーエコノミーは、自然から学びながらどのようにしてイノベーションを進めていくかを考えます。経済学者はそれは無理だと言ってきました。しかし、モデルのルールを変えなければいけないのです。そのためには中小企業、起業家が必要です。コスト削減ではなく収入を上げることに焦点を当てていきます。すべての人びとのニーズに自分の持っているもので対応していく、それがサステナビリティなのです。


世界各地でのブルーエコノミーの取り組み

 世界市場で競争力がないと言われた南アフリカのオレンジ農園は、雇用を減らそう、農薬を使って生産性を上げようという対応をしませんでした。果樹園の隣にはクルーガー国立公園があり、ゾウやチーター、ライオン、バッファローがいる観光地です。オレンジのジュースをホテルで売り、その皮で洗剤を作ってホテルのランドリーサービスに使い、水の消費量を減らすことができました。果樹園から出た枝などは、薪やキノコ栽培に利用されます。キノコの菌床に使われた廃棄物はアミノ酸が豊富で動物のエサになります。ホテルから出る残飯は飼料やバイオガスに利用され、この農場から九つのキャッシュフローができました。その結果、オレンジの市場価格とは関係なく収入が生まれ、雇用が2倍、収入が3倍に増えました。

 スウェーデンのナイキストという建築家がシロアリの巣を参考に、30分ごとに新鮮な空気が流れるような建築物を設計しました。多くの酸素が子供たちに供給され、集中力も上がり健康な子供が育ちます。1人がくしゃみをしても風邪はうつらないのです。この公立学校はストックホルムの北部400kmに位置し、最も健康優良児の多い学校として知られ、学習能力的にもトップ10に入る学校になりました。子供が健康で勉強も良くできる学校があると聞けば親は行かせたくなります。このような複数のべネフィットが生まれることがブルーエコノミーです。

 新しい太陽光発電の電池には、太陽光パネルの両面を使って発電するものもあります。一つの面にパネルを張るよりも多くの発電をすることができます。両面使われているパネルは世界でもほとんどありません。よく太陽光パネルは、夜間は役に立たないと言われますが、夜間は逆に熱を発して5〜6℃の冷たい水を作ってくれます。電気、温水、冷水を生み出すことができるのです。

 世界の綿花の32%は中国で生産され、大量の水が消費されています。中国政府は向こう十年間、綿花の代わりに食料を生産するための畑に使うと決めました。イラ草という荒地で育つ植物で、おいしいスープの材料になり、良質の繊維を採ることもできます。ブータンではイラ草が衣料として使われています。オランダでも、堤防にたくさん生えているイラ草を使ってセーターを作っています。

ブータンのそば麦でビール作り

 私はブータンでも活動しています。ブータンの伝統的な作物はそば麦ですが、最近はお米を多く食べるようになり、そば麦を食べる文化が失われています。ビールを作る際に必要なモルトは、そば麦や大麦などの穀物から抽出します。ブータンの人たちは天然のイーストを収穫し、ホップを使ってビールを作ります。このビール作りは日本人の指導のおかげでした。

 ブータンでそば麦を作ると、1tあたり2,000ドルもかかります。一方、ウクライナの場合はそば麦を1tあたり180ドルで生産できます。従来のエコノミストであればブータンのそば麦には将来性がないと結論付けるでしょう。でも私たちが求めているものは新しい経済なのです。新しい経済の下ではこのビールのライセンスモデル、例えば日本に提供するためのライセンスにはロイヤルティーがかかります。そして日本のビール会社はモルトのエクストラクト、自然のイースト、そしてそば麦を得ることになります。一つ抜けているのは水だけです。

 ロイヤルティー収入は4,000ドルになります。ブータンで生産されたそば麦の90%がブータンに残ることになります。鶏の飼料を輸入する必要はなくなります。全く違うビジネスモデルですが、最終的にはそば麦はブータンにおいても将来性があるということになります。このビジネスモデルは、非常に多くの価値を生み出すことができるので結果的には十分競争力があるということになります。ブータンの人びとに生活の糧を提供し、ヒマラヤのそば麦の文化を保存することもできます。これが新しい経済を実践することの意味です。グローバル化を批判するものではありませんが、グローバル化が今までやってきたものよりはるかに良いものをもたらすことができています。

本田宗一郎氏から教えられた夢を現実に変える力

 私は1980年、ベルギーの駐日大使館で働いていました。その時、ホンダの創業者の本田宗一郎さんにお会いすることができました。1956年、私が生まれた年に自動車づくりを始めた本田さんは、2年後の58年に最初の車を売りました。それから4年後に最初の海外の工場をベルギーに設立しました。たった6年で海外での生産拠点を設立されたのです。本田さんから非常に偉大な知恵を授けてもらいました。今でも私の中では生きています。彼はこう言ったのです。「現実から逃れるために夢を見る人がいる、でも夢を現実に変える力にする人もいる」。

 昨年の東日本大震災において、地震が、そして津波が日本を襲った時、多くのものが変わりました。20年間全く経済成長がない時代が続きました。若者は経済成長とは何なのか、知りもしません、日本は現実から逃れるために夢を見ることはできません。夢を現実に変える力にしなければいけないのです。危機があるからこそ、エネルギーを持つ必要があります。


グンター・パウリ氏
1956年、ベルギー生まれ。生産段階で廃棄物を出さないゼロ・エミッションの提唱者で、国際ネットワークの代表。1994年から3年間、東京にある国連大学の学長顧問として、日本でも循環型社会の構築を目指してゼロ・エミッションの活動を展開。ブータン政府顧問。2012年6月、ダイヤモンド社から「ブルーエコノミーに変えよう」を出版

グローバルネット:2012年9月号より


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