サイト内
ウェブ

このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第10回 自治体とNGO/NPOの輪で温暖化防止を

  • 2004年11月11日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

自治体とNGO/NPOの輪で温暖化防止を〜持続可能な地域づくりに向けた日中韓ワークショップin葛巻より 日本/日本一の新エネルギー生産基地を目指す葛巻の挑戦 岩手県葛巻町長 中村 哲雄(なかむらてつお)さん

20%クラブのホームページはこちらから


酪農と林業とエネルギーで地球環境問題に貢献する町

袖山高原に最初に設置された3基の風車

 岩手県葛巻町は北緯40度、4万3,000haの面積を有する町で、うち3万8,000haが山林です。人口は約9,000人・3,000世帯で、酪農と林業が基幹産業です。乳牛が1万3,000頭を越えていて、東北で一番の酪農地帯です。また、町の林産物であるやまぶどうでワインづくりを手がけてきました。、1999年3月に新エネルギービジョンを策定し、同年6月に最初の風車3基(各400kW、計1,200kW)を建設しました。以来、クリーンエネルギーの推進に積極的に取り組んでおり、「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」というキャッチフレーズのもとにまちづくりを進めています。

 20世紀は地球の環境に対してとても悪い影響を与え続けながら経済成長と繁栄を享受してきました。私は、大きな負の遺産を繰り越したという強い危機感を持っており、「食糧」「環境」「エネルギー」という地球規模の問題に貢献しながら、町の発展を目指すという基本方針を立て、さまざまな取り組みを展開してきました。

 まず、広大な面積を持つ葛巻町は、食糧生産で世界の食糧危機に貢献しています。1日120tの牛乳を生産しており、カロリーベースで4万人分の食糧を供給していることになります。また、広大な森林は、二酸化炭素の吸収源としてすでに貢献していますが、世界に対する約束である京都議定書の6%削減に向け、国策にのっとり総額約2億円の森林整備事業をさらに実施、吸収源としての森林の整備・活性化を図っています。

3,000世帯の町で1万7,000世帯分の電力を生み出す

葛巻中学校の太陽光発電パネル(2000年設置)

 そしてクリーンエネルギーへの貢献として、まず15基の風車で2万1,000kWの発電を行っています。これは約1万7,000世帯分の電力を供給していることになります。また葛巻中学校に、環境教育機能も含め50kWの太陽光発電施設を設置しています(写真右)。これは国のエコスクールの指定(半額補助)を受けたもので、学校で使用される電力の25%を発電しています。

 バイオマス発電については、毎日650t出る畜産廃棄物を有効な資源として利用できないかという発想から、2003年に実験プラントを建設しました。牛の排せつ物と家庭からの生ゴミでメタンガスを発生させ、発電するもので、産学官の協力でさまざまな研究・試験を行っています。

 さらに林業の町として、木材チップ工場から出る端材を資源化するということで、民間の葛巻林業がペレット燃料の生産を行っており、年間1,500t、約1,500世帯分の熱カロリーを供給できる状況にあります。現在ペレットストーブは岩手県からも推奨され需要が増しており、町でも老人保健施設の暖房・給湯等に利用しています。

 こうした大規模発電所のほかに、町民が薪ストーブを購入する場合の補助制度や、太陽発電・熱利用システムを導入した場合の補助制度などもあります。

林業と酪農のがんばりがエネルギー基地へつながった

 では、こうしたクリーンエネルギーを葛巻町ではどうして手に入れることができたのか。木質燃料については、廃材を活用して付加価値を高めようと、20年も前に工場で商品化されていました。

 最初の風力発電施設については、京都議定書の締結以降、環境とエネルギーという問題がクローズアップされ、風力発電事業者がビジネスチャンスを求め動き出しました。当時は小さな会社であったエコ・パワー社に建設を持ちかけられ、判断に苦慮したわけですが、議員がデンマークへ視察に行ったり、ステファン鈴木氏主宰の風の学校で自然エネルギーについて勉強したりと、迅速な情報収集の結果、短期間のうちに政治的判断ができました。

 また、標高1,000mの高海抜地帯に牧場を開発してきたことが功を奏し、通常は2年かかる風況調査も牧場開発のためにすでに調査済みであり、建設資材を搬入する道路や送電のための電線といったインフラもすでにあったのです。一生懸命牧畜をやってきたことが、風力発電にとって最も大事な条件を生み出し、いち早く取り組めたという状況があります。

 このような取り組みがさまざまな方面から評価を受けています。自治体環境グランプリ((財)社会経済生産性本部主催)では、2003年に大賞を受賞し、また、岩手県のまちづくり大賞も受賞しました。 葛巻は一方で「第3セクターが黒字で元気な町」でもあります。くずまき高原牧場、ワイン工場、ふれあい宿舎グリーンテージの3社で売上高17億2,980万円、1億円程度の純利益を上げ、147人の雇用を確保しています。このうち70人が都会からの若い帰郷者です。

 太陽光、風力、木質バイオマス、畜産バイオマスという四つのクリーンエネルギー施設を、90分程度で回って見られるという市町村は、全国にも葛巻しかありません。「クリーンエネルギーの町」との相乗効果で、現在年間50万人が町を訪れるまでになりました。人口は少しずつ減少していますが、交流人口は増えている状況です。

さらに木質バイオマスを加え安定供給を目指す

 最後に課題を申し上げます。風力・太陽光発電からは大きな雇用は生まれません。しかも不安定な電力です。風力に関しては、電力自由化、入札制度の開始で、売電単価が非常に安くなってきたという問題もあり、われわれのような小さな自治体ではリスクが大きすぎ、取り組めない状況になりつつあります。

 そこで町としては、木質バイオマス発電に夢を託しています。森林の整備をしながら地球環境の改善やエネルギー問題に貢献でき、かつ雇用が確保されます。こういうシステムができれば、風力・太陽光と畜産あるいは木質バイオマスをセットにすれば、安定的な電力供給が可能になります。そして地域でおこして地域で使い切るということが可能になります。

 今後も一層、環境とエネルギーの問題に貢献しながら、日本一のクリーンエネルギーのまちづくりに取り組んでいきたいと思います。

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。