再エネをどれくらい速く増やせるかがカギになるんだろうな。
人工知能(AI)の急速な普及が、世界の電力需要を根底から覆そうとしています。国際エネルギー機関(IEA)が2025年4月に発表した最新の報告書によれば、2030年にはデータセンターによる電力消費が現在の2倍以上に膨れ上がり、AIに特化した施設に限定すると、4倍以上に達する可能性があるのだとか。
IEAの報告書「Energy and AI」によると、2030年までに世界中のデータセンターの電力消費量が年間約945テラワット(TWh)に達する見込みで、これは現在の日本全体の電力消費量をやや上回るとのこと。AIが電力需要増加の最も大きな要因で、AIに最適化されたデータセンターは著しい伸びを示すといいます。
現在でも、AI専用のデータセンターは約10万世帯分の電力を使用しているそうですが、建設中のデータセンターのなかには、その20倍もの電力を必要とする施設もあるとしています。
想像に難くありませんが、AIによる電力需要が最も大きいのはアメリカ。IEAによると、アメリカでは2030年までに増える電力需要の約半分をデータセンターが占める見込みで、AIによるデータ処理だけで、鉄鋼やセメント、アルミニウム、化学薬品といったエネルギー集約型の製造業をすべて合わせた電力消費を上回ることになるそうです。すさまじいですね。
しかし、現在アメリカで建設中のデータセンターの50%は、すでに大規模なデータセンター群が存在する地域に集中しているため、今後は地域レベルでインフラ逼迫リスクが高まる可能性があります。
ちなみに、日本は2030年までに増える電力需要の半分以上をデータセンターが占める勢いだそうです。どうするんでしょうね。現在の電源構成を考慮すると、天然ガスと原発で賄うことになるのでしょうか。
IEAは、AIの普及による電力消費の急増は避けられないとしつつも、AIがもたらす効率化によって、全体の温室効果ガス排出量を削減できる可能性もあるとしています。
例えば、再生可能エネルギーの導入を前提にした電力網の設計や、送電の需給バランスの最適化、または産業プロセスの無駄の削減などで、AIの活用はプラスに働くといいます。
さらにAIは自動運転や交通システムの最適化、インフラの脆弱性の検出、都市設計や公共交通計画、鉱物資源の探索にも活用され始めています。
報告書は「既存のAIアプリケーションを幅広く導入すれば、データセンターからの排出量を大きく上回る排出量削減が可能かもしれません」と、AIによる温室効果ガス排出量削減の可能性に楽観的な姿勢を見せつつも、それに続けて「気候変動に対処するために必要な削減量よりも、はるかに少ないものになる可能性もあります」とも述べており、実際のところあまり見通しは立っていないような雰囲気が漂っています。
IEAのファティ・ビロル事務局長は次のように述べています。
「AIの台頭によって、エネルギー分野は、現代における最も重要な技術革命の最前線にあります。
AIはおそらく非常に強力なツールですが、それをどのように活用するかは、社会、政府、企業に委ねられています」
その一方で、IEAの見通しに疑問を呈する声もあります。ルクセンブルクの元エネルギー大臣であるクロード・トゥルメス氏は、IEAの楽観的過ぎる姿勢を厳しく批判しています。
「IEAとそのトップであるファティ・ビロル事務局長は、AIや新たな巨大データセンターがエネルギーシステムに及ぼす膨大な悪影響を抑えるために、政府に対してどのように規制すべきかという実用的な提言を行なうのではなく、(そうした問題点を見て見ぬふりをすることで)新たに発足したトランプ政権や、政権を支援するテック企業にとって都合の良いお墨付きを与えるような態度を取っているのです」
AIによる恩恵を受けると同時に、電力網への過度な負荷や環境への悪影響を回避するためには、政府による明確な指針が必要になるとIEAの報告書は指摘しています。
また、「発電と電力網への新たな投資を迅速に進め、データセンターの効率と柔軟性を高め、政策立案者、テック業界、エネルギー業界の間での対話を強化すべき」と提言しています。
IEAは今後、AIとエネルギーに関する包括的なデータの監視と情報公開を行なう「Observatory on Energy, AI and Data Centres」」を設立し、AIの電力需要などに関する最新の動向を継続的に追跡していくとしています。
データセンターを増設する際に、一定の割合以上で発電時にCO2を排出しない電源を利用すれば、データセンターによる電力網への負担を軽減できるので、火力発電所による電力確保をできる限り避けられるような政策作りを進めてほしいところです。
書籍(Kindle版もあります)Source: IEA, The Guardian, The Wall Street Journal
Reference: IEA