テクノロジーと人間の関係性を考え直すきっかけをくれた展覧会『マシン・ラブ』

  • 2025年3月12日
  • Gizmodo Japan

テクノロジーと人間の関係性を考え直すきっかけをくれた展覧会『マシン・ラブ』
Image:『マシン・ラブ』

AI、仮想現実、ブロックチェーン。目まぐるしくテクノロジーが発展する現代。私たちの世界は、どこへ向かっていくのでしょう?

そんな問いを掘り下げる展覧会『マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート』をレポートします。

テクノロジーの可能性を追求

ヤコブ・クスク・ステンセン《エフェメラル・レイク(一時湖)》2024年
コミッション:ハンブルク美術館(ドイツ)、展示風景:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)2025年、撮影:竹久直樹、画像提供:森美術館

2025年2月13日から6月8日まで、六本木の森美術館で開催されている本展。テクノロジーの可能性をさまざまな角度から探求した約50点の現代アート作品が展示されています。

新しい気づきを与えてくれる圧倒的な作品たちは、どれも事前知識がなくても楽しめますし、スマホで表示できるテクノロジー用語集なんかも用意されていて、見やすさにもこだわりあり。

時代が大きく変わろうとしている、今の時代にこそ見ておきたい展覧会でした。

会場風景 Photo: ギズモード・ジャパン

“アート”の概念を超えてくる

この展覧会は、“メタバースで生まれた最初の人間”から始まります。回転し続ける箱が置かれ、中にはひたすら歩き続ける機械的な人間が。

ビープル《ヒューマン・ワン》2021年〜
展示風景:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)2025年、撮影:竹久直樹、画像提供:森美術館

本作『ヒューマン・ワン』は、アメリカの作家、ビープル(マイク・ウィンケルマン)によって制作された作品です。2007年から、毎日デジタル作品を制作し投稿し続けるプロジェクト『エブリデイズ』を手掛けているビープル。NFT作品『エブリデイズ:最初の5000日』がオークションで記録的な高値で落札されたことで、NFTアートの存在を世界的に知らしめたアーティストです。

変わり続けるデジタル風景を背に歩いていく旅人の姿を、4面のスクリーンを使い立体的に表現します。それはまるで、目まぐるしく変わる世界に生きる私たちを暗示しているよう。

驚くべきことに、本作で流れている映像は、会期中もアップデートされ続けるとのこと。しかも作業は、遠く離れたアメリカの作家本人のスタジオから行なわれるそうです。アートといったら、基本的に完成品を鑑賞するものだと思ってました。現代の技術が、アート表現のあり方自体を変革しているのだと驚きます。

開始早々、アートの概念を超えてくる『マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート』。これからどんな作品が待っているのか、ワクワクが止まりません。 

4つの構成をもつ本展

対話型生成AI、Claudeで話題を集めるAnthropic社による制作協力のもと制作されたディムートの、対立する2つのAIが議論する作品。現在世界的に注目されているルー・ヤンによる、仏教思想を大衆文化とテクノロジーで描き出す映像作品。日本人アーティスト藤倉麻子による自然環境と資本主義の関係性を問い直す作品など、それぞれにテーマ性を持った作品が並びます。

ディムート 《総合的実体への3つのアプローチ:エリスの林檎》 2025年
展示風景:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)2025年、撮影:竹久直樹、画像提供:森美術館

本展は、「デジタル世界のキャラクター、生命、人間や都市とのインタラクション」「テクノロジーと人間の精神性、仏教的な世界観」「テクノロジーが描く風景―地質学的時間から果てしない未来へ」「テクノロジーと人間―500年間の関係」の4つで構成されており、その大きな流れのなかで、各作品のテーマが際立つのです。

ルー・ヤン(陸揚)
展示風景:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)2025年、撮影:竹久直樹、画像提供:森美術館

展覧会を締めくくる、テクノロジーと人間の歴史

会場最後に辿り着くのが『帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500年以降』。

研究者であるケイト・クロフォードと、研究者でありアーティストでもあるヴラダン・ヨレルによって制作された本作は、16世紀以降にどのようにテクノロジーと人間社会が絡み合い、変化してきたのかを一覧にした全長24メートルに及ぶ作品です。

ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレル 《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500年以降》 2023年
展示風景:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)2025年、撮影:竹久直樹、画像提供:森美術館

たとえば、現代の私たちになくてはならないスマートフォン。普段意識することはないかもしれませんが、スマホが生まれた背景には、ガラケーや電話機、さらには“他者に何かを伝えるための鐘”といった発明の蓄積があったことがまとめられています。

遥かな時の流れの中で、人が何を望み、何を生み、使ってきたのか。時に世界をより良くするために使い、時に振り回されてきた、テクノロジーと人間の関係性が浮き彫りになってきます。

本作は、“現代においてテクノロジーを語る際、歴史や政治的な文脈が考慮されず、最新の体験やデバイスばかりに目がいってしまう状態を批判的にとらえた試み”とのこと。

最新のテクノロジーを駆使した作品たちを見た後に、最後にこれで締めるのかぁ。展覧会の構成も、素晴らしいです。

テクノロジーと人間の関係性を炙り出す

最新の機器やサービスにとどまらず、あらゆる場面で私たちの生活を支えてくれているテクノロジー。しかし当たり前すぎて、テクノロジーって何なのか?なんて、普段考えないように思います。

最新のテクノロジーでどんなことができるんだろう? テクノロジーの弊害はない? テクノロジーと自然の関わりは?

『マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート』は、たくさんのアーティストの作品(視点)によって、テクノロジーの本質を炙り出します。マシンとラブ、その名の通り、テクノロジーと感情を持った人間の関係性を考え直すきっかけをくれる展覧会でした。

個人的には、「テクノロジーを消費的に享受するだけではなく、どうやったら有意義に使っていけるんだろうか」という俯瞰的な視点を得られたことが、最大のお土産。

最新の技術で圧倒的な作品を生み出す技量を持ちながら、常に物事を問い直そうと挑み続けるアーティスト。いつの時代も、新しい発明を導く、時代の先駆者なんだと改めて感動しちゃいました。

キム・アヨン 《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》 2022年

『マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート』

会期:2025年2月13日(木)〜 6月8日(日)
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)

開館時間:10:00〜22:00

*会期中無休
*火曜日のみ17:00まで、ただし4月29日(火)、5月6日(火)は22:00まで
*入館は閉館時間の30分前まで
*「リピーター割」で2回目半額
*オンライン限定で3月末まで「学割」 500円引き
*詳細は公式サイトをご確認ください

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