銀河外からの希少な粒子を発見。宇宙の神秘にグッと迫るか

  • 2025年2月23日
  • Gizmodo Japan

銀河外からの希少な粒子を発見。宇宙の神秘にグッと迫るか
Illustration: Courtesy KM3NeT via Gizmodo US

目に見えない宇宙が、身の回りにあふれてる。

物理学者チームが、これまで検出された粒子・ニュートリノの約30倍のエネルギーを持つ銀河系外ニュートリノを発見しました。これは、私たちが見ることのできる最古の光との相互作用から生まれた希少粒子かもしれません。

天の川銀河の外から来た?新種のニュートリノ

新種のニュートリノを発見したのは、地中海のマルタ沖に埋設された検出器です。ニュートリノとは、ほぼ光速で移動し、他の物質と相互作用することはめったにない素粒子の一種です。

今回発見されたニュートリノは、そのエネルギーから、天の川銀河の外側から来たことが示唆されており、物理学者らは「極端な天体物理学的現象、または物質と宇宙マイクロ波背景放射とのまれな相互作用が原因ではないか」と考えています。宇宙マイクロ波背景放射とは、宇宙最古の可視光線のこと。こちらの研究成果は、最新の『Nature』誌に掲載されています。

これが検出されたのは実は2年前、2023年2月13日のこと。研究者チームがそれだけの時間をかけて分析し、ようやく粒子の正体とその起源を特定するにいたったのです。

世界中が国家レベルで注目するニュートリノ

ニュートリノは宇宙で最も注目されている粒子のひとつ。たとえば、超新星爆発やブラックホールなど、宇宙の研究に活かされていたり、素粒子の性質や相互作用の研究によって、新しい物理学の発見が期待されています。ほかにも放射線治療にも活用されたりしています。

各国の政府でニュートリノを検出する実験に何十億ドルもの資金をつぎ込んでいるほどです。そうした実験の1つが、サウスダコタ州の地下1マイルにある、フェルミ研究所主催のプロジェクト「ディープアンダーグラウンド・ニュートリノ実験(DUNE)」です。

今回の検出を実行したのが、キュービック・キロメートル・ニュートリノ望遠鏡(KM3NeT)です。この望遠鏡は、地中海の深海にある2つの粒子検出器から構成されています。それぞれ、地表から3,450メートルと2,450メートルという深さに設置されています。そこでは、海底に固定された光学モジュールが、ニュートリノが相互作用して荷電粒子を生成するときに生じる非常に微弱な光を検出します。

ニュートリノ検出器は大きく、妨げるもののない場所に設置する必要があるため、たいていは地下深くや海底、氷床といった遠隔地に埋められることが多いです。

人工で作れないレベルの強力なエネルギーが検出された

2023年2月、検出器を横切ったミュー粒子(電子に似た素粒子)が記録されました。これは、検出器のセンサーの3分の1以上で信号をトリガーする派手なイベントでした。粒子の軌道とそのエネルギーから、研究チームはこのミュー粒子が大気ニュートリノではなく、検出器の近くで相互作用した宇宙ニュートリノに由来すると考えました。

チームの計算では、ミュー粒子のエネルギーは約120ペタ電子ボルト(PeV)。1PeVは1000兆電子ボルトですから、かなり高い値ですが、ミュー粒子を発生させたニュートリノのエネルギーはさらに高く、220PeVと推定されています。このエネルギーは、ピンポン玉を地上1メートルから落としたときのエネルギーに相当します。(それだけ聞くと大したことない気もしますが)それが点の様の物質にギュッと凝縮されていますので、かなりのパワー。220PeVは、地球上で最も強力な粒子加速器であるCERNの大型ハドロン衝突型加速器における陽子の公称エネルギーの約3万倍です。

KM3NeT実験のスポークスマンであり、フランスのマルセイユにある国立科学研究センター(CNRS)物理学研究所の研究者であるパスカル・コイル氏は、今週初めに開催されたSpringer Nature誌の記者会見で、「このエネルギーはすべて、1つの点状の素粒子に含まれています。我々にとっては印象的なことです」。

Illustration: Courtesy KM3NeT via Gizmodo US

この粒子を生成可能な大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を建設するには、静止衛星の高度で地球を周回するようなLHCが必要だ、とコイル氏は記者会見で説明しています。(LHCとは陽子を光速にまで加速させる機械のこと)

ニュートリノは検出が非常に困難

アイスキューブ・ニュートリノ観測所によると、毎秒約100兆個のニュートリノ粒子が我々の体内を通過しているといいます。このように、ニュートリノは宇宙で光子に次いで2番目に多く存在する粒子ですが、その割に物質とほとんど相互作用しないため「ゴースト粒子」と呼ばれ、検出が非常にむずかしいのが特徴です。

昨年、観測所のデータから、特定のニュートリノを示すと思われる信号が7つ明らかになりました。これは10年近くにわたる観測データから抽出されたもの。10年かけて、ようやく信号7つって、ニュートリノを発見するのがいかにむずかしいかがわかりますね。ちなみに、これは検出器の完成度がまだ10%だったころに行われたもの。

最近のチームの結果は特定の1つのニュートリノによって誘発されたものであることから、今後の検出からはより多くの情報が得られると楽観視されています。

「信じられないことです。宇宙には、粒子をこれほど高いエネルギーにまで加速できる物体が存在するのです。それがどのように行われるのかはまだ完全に解明されていません。」

宇宙起源か天体物理学起源か?

研究チームは、ニュートリノが銀河系外から来たものだと明らかにしましたが、それ以上の正確な起源は依然としてわかっていません。最も可能性が高いのは、宇宙線と宇宙マイクロ波背景放射からの光子との相互作用によって生成される「宇宙起源」か、宇宙で最もエネルギーの高い天体から放出された粒子の流れの中で生成された「天体物理学的起源」のいずれかです。

研究チームは、ニュートリノが発生したと思われる方向とほぼ一致する、光速に近い速度で亜原子粒子のジェットを噴射するブレーザー(活発な銀河の中心核)を12個候補にあげました。

同じく研究の共著者でCNRSのダミアン・ドルニック氏は記者会見で、「研究チームはアーカイブデータを見直しています。天体物理学的な発生源の特徴がみられることから、その可能性を判断するため、新たな観測を要請しています」と米ギズモードに語っています。

オランダ国立素粒子物理学研究所の物理学者で、この研究の共著者であるアート・ヘイボア氏は記者会見で「将来的には、このイベントについても、エラーボックスが大幅に縮小する可能性があります」と説明しています。「もし、当時よりずっと小さくなったエラーボックスの中に、こうしたソースが直接存在するとしたら、それは興味深いことです」。

今後、さらにニュートリノの真実を解明へ

コイル氏は今回の観測について、最終的な検出器のわずか10%で行われたと指摘し、「より多くの事象が、宇宙ニュートリノや活動銀河核から放出されるニュートリノのエネルギー、スペクトル、起源を明らかにする可能性がある」と述べました。

今回研究チームが検出したのは、もしかしたら史上初となる「宇宙起源のニュートリノ」かもしれません。KM3NeTは現在拡張中で、さらなる新事象が見つかるか、2023年の注目すべき観測がどういった性質のものなのか、解明されることが期待されます。

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