「今の日本で、僕以外には、誰にもこの役はできない」デヴィッド・ボウイに憧れてミュージシャンになった松岡充が舞台『LAZARUS』にかける思い

  • 2025年5月4日
  • CREA WEB

 デヴィッド・ボウイが主人公を演じた映画『地球に落ちて来た男』(1976年)の続篇として制作されたミュージカル『LAZARUS』。2015年にオフ・ブロードウェイでの初演後、チケットの高騰が話題にもなりました。そんな本作が、ついに日本初上陸します。

 主役を演じるSOPHIAのボーカリスト松岡充さんにインタビュー。ボウイへの思い、本作にかける意気込みを語っていただきました。


松岡充さん。

――ミュージカル『LAZARUS』の主人公、ニュートン役のオファーを、どう感じましたか?

松岡充さん(以下、松岡) 怒られるかもしれませんが、「よくぞ、僕に声をかけてくださいました」と思いました。いろんな要素を考えた時に、今の日本で、僕以外には、誰にもこの役はできないんじゃないかと正直思っているくらいです(笑)。

 実は僕、デヴィッド・ボウイに憧れてロック・スターを目指したんです。だから、いま僕がミュージシャンとして楽曲制作を行ったり、ライブパフォーマンスをする空間を生み出すことができているのは、デヴィッド・ボウイのおかげだと思っています。

 そんな僕が、歌手ではなく、役者からのアプローチでデヴィッド・ボウイに関われるということは、運命的だと思いました。

――どこが「運命的」だと思われたのですか?

松岡 僕はミュージシャンとして活動を始めて今年で30年目、役者としては23年目になります。これまでは、音楽活動と俳優活動それぞれに集中できるように、絶対に同時期に重ならないよう、活動期間をきっちり区別してやってきました。

 でも今回は、分けるのではなく、むしろ、音楽活動と舞台を平行してできると思ったんです。

 それは、SOPHIAのヴォーカリスト・松岡充としてステージで表現していることが、『LAZARUS』の稽古でも生きるのではないかと思ったからです。同時に、『LAZARUS』のニュートンのままSOPHIAのライブでステージに立って歌ったとしてもおかしくない、と思いました。

 このことに気づいた時、自分の中でずっと時期を分けてきた「ミュージシャン」と「俳優」という活動が、「松岡充」というアーティストとして集結できる――、そんな作品になるんじゃないかと思えたのです。それはまさに運命的だと感じました。

――『LAZARUS』は、2015年にニューヨークのオフ・ブロードウェイで世界初演された後、ドイツのハンブルク・ドイツ劇場などでも上演されています。日本で上演されるのは今回が初めてですよね。


松岡充さん。

松岡 はい、そうです。「もしこのミュージカルが日本上陸したら、誰がニュートンを演じるんだろう…」と考えたことがあったので、今回のお話をいただいた時に、なおさら「……ですよね〜!」と思いつつ、とてもありがたいなと思いました(笑)。

 でも、実はオファーをいただくまで、舞台を観るチャンスがなくて、今回ようやく、観ることができたんです。

 その映像を観てますます、デヴィッド・ボウイのファンであり、彼のいろんなファクターや世界観に影響されてきた松岡充になら確実にこの役がやれるはずだ、と自信を持つようになりました。

 だから共演のみなさんにはご迷惑をおかけしてしまいますが、今回の舞台は、SOPHIA30周年の全国ライブツアーの合間に稽古をして、またライブに行って戻ってきて稽古して……、という生活を2カ月続けた後本番を迎える、という、これまでにないスタイルにも挑戦しています。

マイケル・C・ホールと、映画の後日談としてのニュートン

――なぜそんな大変なスケジュールに挑戦しようと?

松岡 先ほども言いましたが、ミュージシャンと俳優の活動を“切り替えない”でいける自信があったからです。切り替えないといっても、ステージのテンションそのままで「SOPHIAの松岡充ですっ!」と舞台に登場する、という意味ではありません(笑)。

 結局、「表現する」という意味では、バンドのライブも舞台のステージも同じなんです。ただ、ライブは、とくに自分のバンドのライブとなれば、失敗したり納得がいかなかったりしたら「ごめん、もう一回」とやり直しができますが、舞台では、たとえ主演であっても「全体のなかの一員」なので、自分ならこうするという考えは、飲み込んで進めた方が良いときもある。それが今回の『LAZARUS』では、ライブのように、違ったら立ち止まることもできるステージにできるのではないかと、勝手にそう思えたんですね。

「松岡のせいで全体稽古の時間が少ない」と共演者のみなさんに言われてしまいそうですが(笑)、それも含めて新しいやり方というか、これまでにない舞台を生み出すパワーが生み出せる初演作品になるような気がしています。

「元」ミュージシャン、「元」ボーカリストの俳優が演じるのではなく、「現役」ボーカリストである僕が、ライブツアー中に稽古をして、ツアー終了後にレジェンドアーティストが遺した作品の舞台本番を迎える。そんな“普通”じゃないライブ感も、今回の舞台の強みになると思っています。

――今回松岡さんは、オフ・ブロードウェイの初演を演じたマイケル・C・ホールの別バージョン、映画『地球に落ちてきた男』の後日談としてのニュートン、どちらをより意識されていますか?

松岡 それ、めちゃくちゃ難しい問題ですよね。まだ芝居の稽古が始まっていないので、まさにこのあと、白井(晃)さんと話そうと思っていました。

 これはあくまで僕なりの解釈ですが、デヴィッド・ボウイが演じた『地球に落ちてきた男』の40年後という視点で観ると、正直、マイケルの舞台はしっくりこないんです。ビジュアルもそうですが、立ち姿も歌い方も、「デヴィッド・ボウイが演じたニュートンの40年後」とはイメージが違いすぎるからです。

 でも、「生まれ故郷の星に帰れなかった宇宙人・ニュートンの魂」という視点でマイケルの演技を観ると、すごく納得がいきます。

 どちらにも善し悪しがあり、どちらでも創れそうな気はするので、ここは、ボウイと一緒に脚本を手がけたエンダ・ウォルシュ作品を数多く担当してきた白井さんの意見も伺いながら、方向性を探っていきたいと考えています。


松岡充さん。

――デヴィッド・ボウイの遺志で、脚本の変更や楽曲のアレンジは一切NGとされています。オリジナリティを出すことは難しいのではないでしょうか。

松岡 楽曲のアレンジはNGとされていますけど、ドイツ版とオフ・ブロードウェイ版は、それぞれ個性が出ていて、びっくりするほど違います。だから、日本初演版でも確実にオリジナリティは出せると思っています。

――劇中に歌が17曲も織り込まれていると伺いました。ミュージカルというよりは、まるでライブのようですよね。

松岡 そうですね。全編通してほぼ歌なので、これまで何度もミュージカルの舞台を経験してきた僕でも、なかなか大変な舞台になると思っています。

 だいたいのミュージカルでは、お芝居のなかで登場人物の感情が高まったところで「歌」が入ります。つまり、言葉での会話より深く熱く想いを届ける手段として楽曲を使っているので、当然ですが、芝居の内容に則した歌を歌う。

 ところが、『LAZARUS』では、まず第一にデヴィッド・ボウイの楽曲があって、そこから芝居が創られているので、単純に歌詞を追いかけるだけでは訳が分からなくなってしまいます。そこは難しいな、と思うところですが、デヴィッド・ボウイとエンダ・ウォルシュはきっと理由があって歌の順番を決めているはず。「正解」はもしかしたら最後までつかめないかもしれませんが、それでも僕らは、その答えを追い求めなければいけない。そうじゃないと、このミュージカルは破綻するという覚悟で挑みたいと思っています。

『LAZARUS』はロック・ミュージックとして創られた歌

――デヴィッド・ボウイの遺志により、音楽パートはすべて英語で歌唱すると伺いました。

松岡 そうなんです。これも、めちゃくちゃ苦戦しています。

 第一に英語だから、というのはありますが、それ以上に苦戦しているのが発音です。デヴィッド・ボウイの歌はクイーンズ・イングリッシュなんですけど、マイケルが演じた舞台での歌は、ブロードウェイで鍛えあげた人のアメリカ英語。発音がまるで違うんです。もちろん、日本人の観客に聞いてもらうための英語の発音は、またまったく別物だと思うので、どこを目指すかはこれから白井さんと相談したいですね。

 ただ、どう歌うにしても、僕はマイケルよりボウイのことを上手に代弁できる自信はあります。それは、『LAZARUS』が、もともとミュージカルのための楽曲ではなく、ロック・ミュージックとして創られた歌だからです。


松岡充さん。

――ミュージシャンの松岡さんだからこそ表現できるものがある、とお考えなのですね。

松岡 そうです。純粋に「役者」ではない僕へのオファーには、オリジナルにはない魅力を引き出す期待も含まれているのではないかと思っています。

 本作の産みの親であるデヴィッド・ボウイがさまざまな「顔」をもっていたように、『LAZARUS』にはいろんな可能性があると思っています。先ほどもちょっとお話ししましたが、脚本と楽曲のアレンジがNGでありながら、オフブロードウェイ版とドイツ版ではまったく違う印象に仕上がっているのは世界中で知られていますし、じゃあこれをボウイの愛した日本でやるとどうなるの? というのは、実は世界から注目されているのではないかと思っています。

 そういう意味では、ロック・ミュージシャンである僕が演じるというのは面白い挑戦だと思いますし、大きなやりがいも感じています。

 デヴィッド・ボウイが表現したかったことを、彼が愛した日本に生まれた日本人として、そして、彼に憧れてロックを目指したミュージシャン・松岡充として表現できるのではないか。アーティスト人生30周年を迎えた今だからこそ、大きな発見があるのではないか、僕自身もそんな期待をしながら、舞台に挑戦していきたいと思っています。

文=相澤洋美
写真=鈴木七絵

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