今回は、福岡県の南西部にある柳川市を訪れたらぜひ食べたい、絶品グルメを2つご紹介します。
12万石の城下町として栄えた福岡県柳川市は、いまもその風情が残る町。そんな柳川には、古くから続く名店がいまでも残ります。伝統の味を楽しめば、時代を超えて旅をしている感覚を覚えることでしょう。
柳川名物うなぎのせいろ蒸しと、自家製餡の銘菓「越山餅(こっさんもち)」はいずれも、江戸時代から続く地元で長く愛される味。本物の味に舌鼓して、旅の記憶を刻むのはいかが。
江戸時代初期創業の本吉屋は、「うなぎのせいろ蒸し」を発案した340年以上続く老舗です。初代から続く秘伝のタレと料理技術を継承し、昔ながらの変わらぬ味で愛されてきました。
かつて柳川にはうなぎの漁場があり、柳川藩の特産品として知られていました。初代は元々刀鍛冶でしたが、関東の蒲焼を知り、地元柳川で広めることを試みます。蒲焼は時間が経つと固くなってしまうことから、柔らかで温かな状態で食べてもらおうと、ご飯と一緒に蒸したことが、せいろ蒸しの始まりです。次第にせいろ蒸しは柳川名物として知られるようになりました。
本吉屋ではうなぎを開き串に刺さず、焼き台で「樫炭」「備長炭」の二種類の炭火で直接焼き上げます。初代から継ぎ足しで受け継いできた秘伝のタレをつけては繰り返し焼き、焦げ目をつけて香ばしく焼き上げるのです。その間、ご飯にタレを混ぜ込み、せいろで蒸します。蒲焼が焼き上がると、蒸したご飯の上に乗せ、さらに錦糸卵をのせて再び蒸すという手間暇をかけた一品です。
うなぎは九州産、お米はタレによく合う山形米のつや姫、甘みは近所で古くからつながりのある「大松下飴本舗」の飴を使用しています。この飴は、もち米に麦芽を加え、搾り汁を煮詰めて練るという昔ながらの製法で作られています。
また、醤油も九州産の旨味のある醤油で、最後に彩る錦糸卵には、八女市の濃厚な味の「和食のたまご」を使用しています。
素材から出汁をとり仕上げる肝吸いも、江戸時代からの味を受け継いでいます。
オープンと同時に玄関の引き戸が開き次々と人が訪れます。その間、厨房では駆け回るように職人技が繰り広げられ、年季の入った漆塗りの朱色の入れ物に入れて完成です。
香ばしいうなぎの香りが店内に漂い、はやる気持ちをおさえながら、綺麗に整えられた庭を眺めて心落ち着かせ、でき上がるのを待つのも乙な時間。
ふっくらと蒸しあがったうなぎのせいろ蒸し。秘伝のタレが染み込んだごはんに、うなぎの香ばしさと、濃厚な味の金糸卵が絶妙に絡み合い、なんとも至福の味わいです。大切に受け継がれた伝統の味を、思う存分楽しんで。
江戸時代後期(1858年)創業の老舗・白雪堂越山の越山餅(こっさんもち)。明治生まれの柳川の女流歌人・柳原白蓮の歌にも「柳川の越山こそはうれしけれ白秋もいつかまぼろしに立つ」と詠われるほど、古くから愛される銘菓です。
初代・治平は、浄瑠璃派の一派・義太夫の師匠で「越太夫(こしだゆう)」という芸名を持っていました。周囲の人からは「越さん」と愛称で呼ばれたそう。風流茶人でもあった治平は、茶席用の菓子を作り始め、次第にその茶菓子は「越さん」が作った餅=「越山餅」(こっさんもち)と呼ばれるようになりました。
白いんげんに和三盆などを加え何時間も練り上げた自家製の餡を真っ白な求肥で包んでいます。
しっとりとした白餡が上品に口の中で溶ける、柳川を代表する銘菓。
この銘菓を味わえば、舟が掘割を行き交う水郷・柳川の風景を思い出し、やさしい時間が流れるようです。
本吉屋
所在地 福岡県柳川市旭町69
電話番号 0944-72-6155
営業時間 10:30〜20:00(L.O. 19:30)
定休日 月曜
料金 せいろ蒸し(きも吸、香物付)4,800円(税込)
https://www.motoyoshiya.jp/
白雪堂越山
所在地 福岡県柳川市細工町64
電話番号 0944-72-2082
営業時間 9:00〜18:00
定休日 毎週火曜、第2水曜
料金 6個入り 1,110円(税込)
文=神谷加奈子
写真=榎本麻美