【劇場版「名探偵コナン」】「青山先生がしれっと新しい情報を脚本に入れてくるんですよ」脚本家が語る驚きの制作舞台裏

  • 2025年4月11日
  • CREA WEB

劇場版「名探偵コナン」と京都の老舗料亭の共通点は?


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 劇場版「名探偵コナン」の最新作『隻眼の残像(フラッシュバック)』が4月18日(金)に劇場公開を迎えるにあたり、脚本を書き上げたのは『相棒』『科捜研の女』でも知られる櫻井武晴氏。シリーズ7作目の参加となる彼はいかにしてヒットの立役者となったのか? 10年以上にも及ぶ足跡を語っていただいた。(はじめから読む:最新作公開目前! 劇場版「名探偵コナン」脚本家が語りつくすヒットの裏側「青山先生の説明にスタッフが衝撃を受けていて…」)


――先ほどの顔認証システムのお話含めて、櫻井さんは普段から情報収集を日課にされているのでしょうか。

 そう思います。日常的にインプットしつつ「これを『名探偵コナン』のフォーマットで出すならこう、『科捜研の女』で出すならこう」とぐるぐる考えています。直近だと、食料供給困難事態対策法が政府の緊急事態条項と結びついたら最悪の場合どういうことが起こるか、という想像から、じゃあそれを作品に活かすとしたら――と自然と考え始めていました。

――先ほどのお話にあった、脚本とアフレコ台本の違いの話も驚きでした。

 これは劇場版「名探偵コナン」特有の流れかもしれません。実写だと僕が書いた脚本を俳優さんが演じますが、本シリーズでは僕が書いた脚本を下敷きにしたアフレコ台本を声優さんが演じる形で進んでいます。

毎シリーズ、どのようにストーリー構成を考えているのか


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――『黒鉄の魚影(サブマリン)』では阿笠博士の新たな一面が見られたり、『隻眼の残像(フラッシュバック)』では蘭・元太・光彦のレアなタッグを拝めたりとキャラ愛&解像度の高さが本シリーズの魅力の一つですが、いまお話しいただいたようなカラクリがあったのですね。

 こちらがセレクトして並べる場合もありますが、書いていくうちに登場人物たちが独りでに動き出してくれるのです。蘭・元太・光彦の3人のシーンは自然発生的なものでした。今回だったら「敢助の過去話を書いて下さい」というオファーを受けたときに、“宝物を探す”という意識を僕は持っています。

 ここでいう“宝物”とは物語を構成する「要素」のことです。要素を探し、並べ方を考える。その際に「どんなシーンにしたいのか」の基準を設ける、といった形で骨格を作っていくのです。面白いシーンや泣けるシーンなど、基準に応じた並べ方がありますから。

 もちろん実際はそんなに単純ではなく、「胸に迫るシーンにしてほしいけれど謎解きの伏線でもあってほしいし、人物紹介のシーンも兼ねてほしい」といった局面もあります。ただそんな中でも、最優先は何なのかを迷わないようにするための柱として“宝物”という言葉を使っています。


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 今回だと敢助が属する長野県警には由衣や高明もいる、そこから派生する人間関係もありますし、過去話に踏み込むなら「雪崩」というキーワードはどうしても必要になります(敢助はある事件の捜査中に雪崩に遭って負傷し、隻眼になったという設定が原作&テレビアニメで既出のため)。では「雪崩」の中にある“宝物”は何だろう? と考えて、雪山や天文台につながっていきました。


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 同じように「公安」の宝物は、降谷零/安室透や風見であり、公安が暗躍する話ならば、表の殺人事件を捜査するのは刑事警察で、その宝物は目暮や佐藤、高木――といった具合に。

脚本家、取材の日々「リニアモーターカーの中で狙撃をしたいのですが、どんな弾がいいですか?」


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――しかし、原作でもまだ明かされていない敢助の過去の詳細が判明するとは驚きでした。

 青山先生と一緒に進めていきましたが、事前に綿密な打ち合わせを設けて「今回この新しい情報を入れるからね」と共有されるのではなく、脚本のフィードバックにしれっと新しい情報が入っているんです(笑)。『黒鉄の魚影(サブマリン)』のときは、組織のNo.2であるラムのセリフで「最近姿を見せていないあの方」というセリフがさらっと足されていて、これは初めて観たお客さんはびっくりするんじゃないの!? この新事実をここで言うの!? とびっくりしました。

――ちなみに、脚本制作にはどれくらいの時間を要するものなのでしょうか。

 大体5〜6カ月はかかるものですが、今回は高明が中国の故事成語を引用するものですからなかなか難しくて(笑)、いつもより長引きました。間違ったことは書けませんから、調べ物が増えるとやはり時間がかかりますね。例えば天文台を登場させるにも「レーザーガイド星とは何か」など調べないといけませんし、専門家の方に取材も必要になります。


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――取材範囲も膨大になりそうですね……。

 コツは「専門家にこんなことを聞いたら怒られちゃうんじゃないか」と怖がらずに聞くことです。『絶海の探偵(プライベート・アイ)』の時から模擬魚雷や魚雷の撃ち方などを聞いて。専門家同士だったら「こんなことを聞いていいのだろうか……」と思ってしまうかもしれませんが、僕らはその分野においては素人ですから臆せず聞きに行くことが大事だと思っています。

 『緋色の弾丸』の際には「リニアモーターカーの中で狙撃をしたいのですが、どんな弾がいいですか?」と馬鹿正直に聞きに行ったら「銀の弾なら大丈夫です」という言葉を引き出せて、「シルバーブレット(銀の弾丸)は名探偵コナンの中でも重要ワードだし、すごくいい話を聞けた!」となりましたから。


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――脚本では、銃の種類も事細かに記載されていました。

 改造銃やライフルの種類などについてですね。僕は仕事の99%が殺人事件なので、そういうことばっかり調べているんです。調べ物をする際、基本的にインターネットは使いません。出典がわからないものを書いてしまうと怖いですから。ネットを使うのは、専門書がどこにあるかを調べるときだけです。正しい情報と著者が載っていて、きちんと責任が取れるものに絞ってインプットするようにしています。

これまでの味を保ちながら新しい味も加えていく


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――『絶海の探偵(プライベート・アイ)』公開時はミリタリーファンが参入したことも話題になりましたが、劇場版「名探偵コナン」シリーズは近年興収100億超えが当たり前になるほどの成長を見せています。この現象をどうご覧になっていますか?

「名探偵コナン」は約30年もの間、これまでのお客さんをちゃんとつなぎ止めながら新しいファンを呼び込んでいます。これはとても難しく、大変なことだと思います。『科捜研の女』は京都の撮影所で25年撮影していますが、その過程で京都の老舗の料亭に取材すると100年続いているようなところがゴロゴロあるのです。どうやって人気を保っているのか聞いてみたら、皆口をそろえて「味を変えていかないと、“味が落ちた”と言われてしまう」と言うのです。

 味を守っていると新規の客は入らない、でも味を変えるとこれまでの客が離れるというジレンマのなか、難しい綱渡りをどう行っているのか――。その秘訣は「新旧織り交ぜ」らしいのです。1つのお店で、これまでのお客さんが楽しめるメニューと新しいお客さんを呼べるメニューを織り交ぜつつ、品数を増やしたように見せないようにする。これまで通りのメニューの数なのだけれど、実はその中には半分新しいメニューが混じっているから昔ながらのお客さんは離れないし、新しいお客さんも入ってくるわけです。

 劇場版「名探偵コナン」は、まさにこれを実践しているシリーズだと思うのです。これまでの味を保ちながら、新しい味も入れているな、と。本シリーズは僕と大倉崇裕さんが順番で書いていますが、二人で新旧織り交ぜを担っているように感じています。

いつ作品を観に行く? 「3回は劇場に足を運ぶ」


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――冒頭で本シリーズの自由度についてのお話がありましたが、何か“縛り”はあるのでしょうか。例えば有名なものだと「コナンは涙を流さない」といったポリシーがあるかと思いますが。

 ただ、そう思って臨んだ『絶海の探偵』の出来上がりを見たら、コナンが泣いているように見えるシーンがありまして(笑)。ただ、公式の発表ではあれは汗ですから、攻めつつも守るべきところは守っているように感じます。脚本を書くうえでは「これはダメ」というものは特にはありません。ただ、「名探偵コナン」は現在進行形の作品ですから、青山先生がこれから描こうとしているものと齟齬があってはいけません。その部分に関しては、ご本人がきちんとチェックして下さることでクリアできているように思います。

――その上で毎回劇場版で原作とリンクする新事実を入れてくるのは、素直に凄いですね。

 一番攻めているのは青山先生ですよね。本当にポンッと入れてきますから(笑)。きっと原作と劇場版の両方のスケジュールを計算しながら「いまここまでサービスしても大丈夫」とジャッジしているのではないでしょうか。


『隻眼の残像(フラッシュバック)』 ©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

――本シリーズは年々ファンからの期待値が上がっているかと思います。櫻井さんはプレッシャーを感じられていますか?

 あまりないというよりも、感じている暇がないのが正直なところです。いま取材を受けている段階で、もう次の作品を書いている最中ですから。ただ、反響は気になるので僕も劇場に観に行くようにはしています。公開当初は僕が行ったらお邪魔になってしまうと思うので、ゴールデンウィーク後に一回、上映が終わりそうな秋口にもう一回、その間にもう一回と大体3回は劇場に足を運び、観に来て下さったお客さんの顔を見ています。(はじめから読む:最新作公開目前! 劇場版「名探偵コナン」脚本家が語りつくすヒットの裏側「青山先生の説明にスタッフが衝撃を受けていて…」)

櫻井武晴(さくらい・たけはる)

1970年生まれ。1993年、東宝株式会社に入社。映画の企画やプロデューサー業務に従事したのち、在職中に第一回読売テレビシナリオ大賞で大賞を受賞。2000年に退社してからは脚本家として『相棒』シリーズ、『科捜研の女』シリーズ、『名探偵コナン』シリーズなどで活躍。

文=SYO

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