発売前から話題をさらい、発売するや否やすぐに重版がかかった『私が死んだあとも愛する猫を守る本』(日東書院)。タイトルの通り、自分の死後、愛猫を路頭に迷わせないための知識や備え、セーフティネットを徹底解説しています。
本書には、猫飼いたちの心配や不安を解消する具体的な手続きや書面の作り方が紹介されており、猫を飼うなら必読です。
いざというときのためにやっておきたいのが〈ペット信託〉。死後、猫を託す人や団体と飼育費用の管理を〈ペット信託契約書〉として締結します。
本の中から、実際にあった“あずきちゃん”の例をご紹介しましょう。
50代の相川さん(仮名)はあるとき職場の近くで三毛の子猫と出会いました。ヨロヨロと歩くその子猫を保護して動物病院に連れて行くと、子猫には先天的な骨の異常があることがわかりました。背骨の湾曲と漏ろう斗と胸きょう(胸の中央で肋骨が陥没している状態)です。
相川さんは子猫をあずきちゃんと名づけ、家でお世話を始めました。あずきちゃんは骨の異常のせいでちょっぴりぎこちない歩き方でしたが、それ以外は元気いっぱい。高いところにもジャンプして飛び乗るし、相川さんが椅子に座るとすぐさま膝の上にダイブ。鳴きながらナデナデを要求する甘えん坊で、夜は必ず相川さんと同じベッドで眠るのが日課となりました。
そんなあずきちゃんに相川さんは毎日癒やされ、仕事から帰るのが楽しみに。骨の異常が心配だったので半年に一度は病院で検査を受けながら、大事に育てていました。
あずきちゃんと出会ってから3年後。相川さんに重篤な病気が見つかりました。「あずきを最期までお世話することはできないかもしれない」。そう考えた相川さんは、あずきちゃんを託せる場所を探し始めました。相川さんにはお兄さんがいましたが、闘病中で猫をお世話する余裕はなかったのです。
いろいろ探し回ってたどり着いたのが、福岡県にある里親募集型保護猫カフェ「Cafe Gatto」。ペット信託のしくみを日本で初めて形にした行政書士の磨田薫さん(『私が死んだ後も愛する猫を守る本』監修)が経営している場所です。
相川さんは友人の佐藤さん(仮名)といっしょに何度もカフェに足を運び、お世話されている猫たちの様子を確認。磨田さんとも何度もお話をしました。そして、もしものときはここにあずきちゃんを託そうと決意。友人の佐藤さんに飼育費用を管理する受託者になってもらい、〈信託契約書〉を作成しました。専用口座には150万円を入金(Cafe Gattoの規定)。あわせて公正証書遺言も作り、佐藤さんにはお礼として財産の一部を遺贈する旨を記しました。
契約書を作ってから2年後。相川さんは自宅で最後の日々を過ごしていました。残された時間を病院ではなく自宅で過ごしたかったのです。何より、あずきちゃんがそばにいてくれることが相川さんの心の支えでした。ベッドで横になっている相川さんのそばで、いつもと変わらずゴロゴロと喉を鳴らし甘えるあずきちゃん。相川さんが息を引き取るその瞬間まで、あずきちゃんはそばを離れませんでした。
相川さんが亡くなったあと、あらかじめ段取りを決めておいた通り佐藤さんがカフェに連絡。カフェスタッフがあずきちゃんをお迎えに行きました。相川さんのお兄さんは当初、自分がいるのに猫がよそへ行くことに戸惑っていましたが、遺言書にあった相川さんの言葉で納得することができました。
カフェに来た当初は緊張してシャーと威嚇していたあずきちゃんもいまでは新しい生活に慣れ、のんびりマイペースに過ごしています。里親募集もしていますがまだよいご縁がなく、10歳になったいまはカフェの看板猫のひとり。相川さんの友人佐藤さんも定期的にカフェを訪れ、あずきちゃんを見守っています。
本書には、ペット信託を締結するためにどうしたらいいかの具体的な方法や文面の例などが細かく紹介されています。ぜひ参考にしてみてくださいね!
富田園子(とみた・そのこ)
ペット書籍を多く手掛けるライター、編集者。日本動物科学研究所会員。編集・執筆した本に『決定版 猫と一緒に生き残る防災BOOK』(日東書院)、『野良猫の拾い方』(大泉書店)、『教養としての猫』『猫とくらそう』(ともに西東社)など。
私が死んだあとも愛する猫を守る本
著者 富田園子 監修 磨田薫
定価 1,650円(税込)
日東書院
文=富田園子、CREA編集部