
深い森に囲まれた、秋川渓谷にも近い東京・あきる野市の深沢エリア。その山奥で、妖精たちが道先案内人をしてくれる、不思議で可愛いアートスポットを見つけました♪
「深沢小さな美術館」は、造形作家・友永詔三さんが創り上げたギャラリー。江戸時代の古民家をリノベーションした幻想的な空間で、友永さんが紡いだ、やさしい物語の世界を楽しめます。
東京都・あきる野市に広がる、自然豊かな観光スポット「秋川渓谷」。その玄関口となる、JR五日市線の終着駅「武蔵五日市駅」から、さらに3kmほど離れた場所に「深沢小さな美術館」はあります。
道中、山道を進むと、白いヒゲをたくわえた小人があちこち現れます。彼らは、造形作家・友永詔三さんが作り出した森の妖精「ZiZi(ジィージィー)」。風に揺れる葉の影から顔をのぞかせたり、庭の片隅でそっと佇んでいたり。まるで森の守り人のように訪れる人を優しく見守ってくれます。
奥へ進むと、そこは緑に囲まれた別世界。緑、また緑。石畳の小路を進むと、周囲の木々が寄り添うように並び、やわらかな木漏れ日が足元を照らします。
しばらくすると、色とりどりの草花に囲まれた石の家が見えてきます。ここは、ギャラリーであり、アトリであり、友永さんのご自宅。江戸時代末期の古民家を購入し、友永さん自らがリノベーションしたのだとか。
驚くことに、石を埋め込んだ凸凹の壁も、不思議な形の窓も扉も、すべて友永さんの手づくり。今から40年以上も前に造り始めたのにも関わらず、まだ完成していない。物語の途中の家です。
高知県生まれの友永詔三さんは、40年以上前にNHKで放送された人形劇「プリンプリン物語」の人形を生み出したアーティスト。国内外で幅広く活躍し、ニューヨークでも個展を開催。創作への情熱は尽きることなく、80歳を迎えた今も、ひとつひとつの作品に生命を吹き込んでいます。
中に入ると、手しごとのぬくもりが空間を包みます。濃茶の梁は、江戸時代の名残をそのままに。愛らしさの中に、どこか不思議な驚きを秘めた造形が展示されています。
思わず目を奪われる綿帽子のような照明は、「樹の娘」と書いて「きのこ」と読む、1986年生まれの作品。これは、もともとお寺にあった桐の木の形を活かし、木と和紙で丁寧に作り上げられたものだとか。
そしてガラスの向こうに佇むお姫さまは、NHKの人形劇「プリンプリン物語」でおなじみ、プリンセス・プリンプリンです。
ホロホロチョウのまつげを持ち、繊細な日本刺繍の糸やインドの小物でおめかし。その精巧な造りに、思わず時間を忘れて見入ってしまいます。
くぐもった光が射す窓辺には、「プリンプリン物語」に出てくる「ルチ将軍」の原画が。実際にテレビに登場したキャラクターのスケッチが、今、目の前にあるなんて。物語に命を吹き込んだ“はじまりの線”に、心がほころびます。
小人たちが、スイカを割って、結婚式をあげて、温泉に浸かりながらお酒をぐびっと呑んで。こちらは、友永さんの子ども時代の記憶をもとに作り上げた、やさしさあふれる作品です。
小人たちは、とっても表情豊か。それぞれが静かに物語を秘めていて、眺めるだけでふんわりと優しい気持ちになります。
そんな友永さんの作品は、実は身近なところにも。明治神宮の干支鈴の原型も、友永さんの手によるもの。ねずみ年から続くこの楽しみも、今年でもう6年目になりました。
ここにいると、窓の向こうも作品の一部。作品を見ているのか、風景を見ているのか。気づけば、アートと自然の境界線が、ふわっと消えていくような不思議な感覚に包まれます。
美術館には、思わず深呼吸したくなる。自然豊かなテラスも完備。水面をすべる鯉の姿、木々を抜ける風の音、湿った森の香り。日常のスピードをゆるめてくれるこの場所で、五感をそっと開けば、静かで豊かな時間が味わえますよ。
作品はすべて、写真・動画撮影OK。 お気に入りの瞬間を切り取って、大切な思い出として持ち帰ってくださいね。