1990年頃、バブルの影響もあって海外旅行への機運が高まっていた時代。日本籍の大型客船が誕生し、クルーズ旅行は一部の富裕層のものから、頑張れば手が届く憧れとなった時代でもある。優雅で刺激的なクルーズ船旅は、数多くの文化人からも愛され、クルージングを楽しむ様子は作品を通してうかがい知ることができる。
今回は5名の作家や脚本家、イラストレーター、フォトグラファーのエッセイや著作から、船旅への愛情表現を紹介する。詩的で独特な表現を通して、船旅の真のよさを感じてもらいたい。
ミステリー作家の宮部みゆきさんが〈ふじ丸〉に乗り、小笠原クルーズを初体験した紀行文。ふじ丸は2013年に引退し、2021年にはスクラップとなってしまっただけに、今や貴重な体験記だ。その内容はデラックスルームをひとり占めし、クジラありカジノあり機関室見学から冷凍庫探険まで。まさしく“なんでもありの”船の旅を軽快に綴る。
オシャレにもグルメにも美容にも収集にも興味がないという文筆家・杉浦日向子さんの、唯一の道楽は「船旅」なのだとか。ギャラの換算は、「船何泊分」で考えるというから筋金入りの船好きだ。NHK『お江戸でござる』レギュラー撮りの関係で、6日以内の国内ショートクルーズが多かったそうだが、2度のがんの手術後に南太平洋クルーズへ出かけたという。最期まで船を愛していた人柄が偲ばれる。
夫婦で船に乗り互いにじっくり向き合うことにより、喧嘩をすることがあっても、逃げも隠れもできないし、海の上だから、嫌なことを水に流すのは簡単かも……と、夫婦での船旅参加を提唱する脚本家の橋田壽賀子さん。ご自身も、世界一周クルーズ、南極クルーズ、南米クルーズと4度のクルーズ旅を経験しているのだとか。旅の準備、持ち物や船上での人付き合いの話は、現代にも通じるものあり。乗る前に読みたい1冊だ。
1990年に〈にっぽん丸〉3代目の初航海に参加したフォトグラファーの石郷岡まさおさんが写真を、イラストレーター柳原良平さんが文章を寄せた、『船旅への誘い クルージング讃歌』。そのあとがきに記されているのは、クルーズ船に対する石郷岡さんの熱い思い。スナップフォトのような軽やかな写真からも船の魅力がひしひしと伝わってくる。
時は平成元年。クルーズ元年ともいえる、日本籍の大型客船の相次ぐデビュー。国内外問わずクルージングに魅了され続けてきたイラストレーター・柳原良平さんが、仲間たちとともににっぽん丸の初航海へ。食事、バーはもちろん、甲板でぼんやりと過ごしたかと思えば、船内プログラムにも顔を出し、客人との会話を楽しむなど、船を使いこなす技はお見事。「楽しませてもらおうと思うのではなく、楽しんでやるぞと思って船に乗ってほしい」という氏の言葉が思い返される。
editor profile
COLOCAL
コロカル編集部