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キャンプの恵み

Vol.89 不便な空間

  • 2015年9月3日

キャビン
山道
 キャンプ場は、少し不便にできています。
 キャビンの壁は薄く、虫の音や鳥の声がけっこう盛大に聞こえてきます。強い風が吹いたり、大粒の雨が降ったりすると、ちょっと怖いとおもうかもしれません。地面は舗装されていなくて、歩きにくいと感じることもあります。夜は真っ暗になるので、一歩外に出るにも懐中電灯が必要です。
 先日、そんなキャンプ場で3日間を過ごしました。確かに不便な部分はあるのだけれど、それはそれで楽しく、心地よい時間でした。そのキャンプ場は80年の歴史があるのですが、必ずしも古いから不便だというわけではありません。不便さを保っているのには、いくつかの理由があります。
 ひとつは、自然をできるだけそのままに肌で感じることが大切だから。以前、「考える」の語源とされる「か身交う」という言葉を紹介しました(Vol.77 自然の中で考ふ)が、自然を直に感じられる環境は、考える場として最適です。
 そして、工夫が求められるからという理由もあるでしょう。不便な空間で快適に過ごすためには、いろいろと試行錯誤してみたり、ほかの人と協力してみたりすることが必要となります。それはきっと考える力や苦境を乗り越える力を身につけるのに役立つはずです。
 不便な空間で過ごすのはちょっと疲れるというのも、理由のひとつかもしれません。「いつもよりいっぱい動いたなぁ。あぁ疲れた‥」と独りごちて眠りに落ちる。いかにも健康的です。

 もちろん、日常生活とあまりにかけ離れていると適応するのが難しくなるので、昔のままでよいとはおもいません。だから、時代の流れとともにキャンプ場が少しずつ便利になるのはしかたがないのですが、なにもかも便利にするのではなく、きちんと不便さも残っておいてほしいなぁとおもうのです。風の音や鳥の声がダイレクトに聞こえる簡素なキャビンでぐっすり眠って目覚めたとき、「どんなところでも生きていける」という自信をちょっとだけ持つことができますから。



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