
百円玉のたった一枚でも、小さい頃なら大はしゃぎするほどの大金。自動販売機の下にお金が落ちていないか、子供時代に気になったことがある人は少なくないだろう。そんな一見ほほえましい子供の小銭拾いの裏に、やりきれない悲劇が潜んでいた……。
ウォーカープラスでは、2022年にSNSで話題となった漫画作品を振り返って紹介。今回は昨年8月に「切ない…」「涙腺崩壊」と多くの読者から反響を呼んだ、ホラー漫画『僕が死ぬだけの百物語』(小学館 ※コミックス最新第5巻は2023年1月12日(木)発売)の一エピソードをピックアップしてお届けする。
■小銭を集める二人の少年、でもその目的は別々で…やるせないラストに震える
漫画家の的野アンジ(@matonotoma)さんが、「少年サンデーS(スーパー)」および「サンデーうぇぶり」で連載中のホラーオムニバス『僕が死ぬだけの百物語』。
的野さんは同作からエピソードを抜粋して自身のTwitter上でも公開しており、中でも8月に「小銭を拾って暮らす親友との最後の約束。」というキャプションとともに投稿した一篇は、少年二人のぞっとするほど悲しい結末に多くのユーザーが感想を寄せた作品だ。
自販機の下に潜り込んだ小銭に手を伸ばす男の子。「とれない~」と苦戦する少年を、もう一人の少年・トモキが枝を使ってアシストする。「めっちゃ良い感じの枝見つけた」「ワッ良いな!」と、遊びの一環のように笑いながら自動販売機を巡る二人。空振りに終わったり、時にはお札という大当たりを引いたり、一喜一憂しながら小銭拾いを続けていた。
トモキは貯めた小銭でサッカーボールを買う計画を立てていて、「サッカー選手になって超お金持ちになる」と将来の夢を語る。一方の男の子は、これまでのお金をすべて食費に使ってしまったという。父が不在で冷蔵庫の食べ物もなくなってきたからと、小銭拾いで日々の食事をまかなっていたのだ。
トモキは親友である男の子の事情を心配し、家に来るよう誘う。けれど男の子は「人の家に迷惑かけないように」という言いつけからそれを断り、さらには、その日見つけた千円札を、山分けではなくトモキが全部もらってほしいと言い出した。トモキがサッカーボールを買ったらたまには貸してほしいという男の子の言葉に、トモキは「2人のボールにする!」と、来週買ったボールで一緒に遊ぼうと約束を交わす。
一週間後、自販機の前で親友と再会したトモキ。会わない間に「男の子が死んだ」という話を聞いていたためほっとしたトモキだったが、そこで異様な光景を目撃してしまう。自販機の隙間をまさぐっていた男の子が、突然全身を潜り込ませてしまったのだ。
生きた人間にはできないすり抜けを見せた男の子は、「とれない」と繰り返しうなだれる。トモキは「そんなもんいいから!!」と、買ったばかりのサッカーボールを差し出すが、ボールは無情にも、男の子の手のひらをすり抜けてしまう。地面を転がるボールの音を聞きながら、トモキは「ちゃんと取ってくれよ…」とうちひしがれるのだった。
明るい夢のためだったトモキと、その日その日を生きるためだった男の子の小銭拾いが辿り着いた、物悲しい結末。男の子が亡くなった理由は察せられるだけに、家の前にお供えされた食べ物の数々がやりきれない。
本エピソードは、『僕が死ぬだけの百物語』第3巻収録の「第二十六夜 小銭拾い」という作品。Twitterでの投稿には1万2000件以上のいいねとともに、「ホラーなんだけど、怖いより切ない」「涙腺崩壊」と、切なさを感じたという感想が多く集まった。
また、「恨みや憎しみはないのが余計に…」「お金渡しちゃう少年も怖がらないでサッカーボール貸す少年も優しい」と、“死後も自販機にとらわれた幽霊”というホラー作品でありながら、親友の夢のために自らの生きる糧を託した男の子の心情や、お互いの友情に思いを馳せる読者の声も見られた。
『僕が死ぬだけの百物語』は、毎話異なる怪談を、語り手の少年・ユウマが百物語として披露するというオムニバス形式の作品。身の毛のよだつ怪異による正統派のホラーや、今回紹介したエピソードのように静かで報われない悲劇、時に怪奇現象よりも恐ろしい人間の怖さまで、多種多様な「恐ろしさ」が描かれるのが本作の大きな魅力の一つだ。
的野アンジさんは、今回紹介したエピソードのように「直接的な恐怖」が少ない回は「読み手の方がどう思うかに任せてしまうので、話へ入り込みやすいように、なるべく身近なところや題材を選んでいます。直接的な絵がない場合でも、話の中になにか驚きがあるよう心がけています」と意識している点を話す。
1月12日(木)にはコミックス最新第5巻が発売予定で、ますます注目を集める本作。各話ごとにテイストの異なる一篇一篇の読み応えはもちろん、コミックスでは百物語として語られる順番や流れも一層感じられるのもポイントだ。
連載で描く順番やバランスについて的野さんに話を聞くと、「全体的に偏りが出過ぎないように気をつけています。オムニバスで誰かが語る形なので、語り手の趣味嗜好によって話の傾向が変わると思い、意識しています」と、込められた意図を教えてくれた。
取材協力:的野アンジ(@matonotoma)