
地位も名誉もお金もない、情熱だけで今を生きていたあの頃。夢を叶えるためにギター1本で出てきた「東京」。しかし大人になると、そこは憧れた場所ではなくなっていた。ただただ惰性で人生の大切な時間を過ごすだけ。それでも忘れられない彼女との約束――世にある名曲を越えた「東京」作ろう。そんな思い出のかけらを大切に生きてきた主人公が曲を作り上げるまでの物語、くそごりさんの漫画「東京」が人生を積んだ大人に刺さる!と話題だ。
■東京に住めば自分らしい「東京」が見つかると思っていた
タイトルに「東京」がつく楽曲は総じて名曲が多い。2人は心に染みるような、人の心に残るような名曲「東京」を作りたいと話していた。自分のなりの「東京」ができたら教えてあげる。そんな約束をずっと忘れられずにいた主人公。
男は、サラリーマンとして会社に勤めてみたり、合コンに行ったり、終点まで寝過ごしたり、働いて体を壊したり――総じて「東京」に繋がりそうなことをやってみたけれど、自分らしい東京にはいまだ辿り着けずにいた。
結局、東京がなんなのかわからないまま。人の温かさを感じたり、冷たかったりする日々を過ごしていた。東京で何年も暮らしているのに、一体何が東京らしいのかわからなくなっていた。元カノは、自分なりの東京を作れたんだろうか。そんなことを時折思い出す。
そんな中、仲の良い女友達と出会った。彼女は結婚していて、旦那の転勤に合わせて東京を離れるという。男がずっと大切に追いかけ、作ろうとしていた「東京」。あの頃、誓った約束を彼女は覚えているだろうか?二度と会うことはない今なら答えてくれるような気がして、男は聞いてみる。すると、彼女は――。
■男が僕なりの「東京」を作り終えるまでの切ない物語
好きでもない人と付き合って同棲してみたり、惰性で過ごす日々が虚しかったり、なのに離れていくのを寂しく思ったり――東京のエモさを漫画で見事に表現し、2021年モーニングの月例賞で奨励賞を受賞した本作。くそごりさんに描くきっかけや受賞の喜びなどの話を伺った。
――本作を描くきっかけを教えてください。
多くのバンドが「東京」という曲を作っていて、総じて名曲であり、僕もいつか自分自身の「東京」を作って、その仲間入りをしたいなぁと思っていました。僕の場合、曲ではなく漫画ですが。
――モーニングの月例賞で奨励賞を受賞したと拝見しました。感想はいかがですか?
素直に嬉しいです。編集部の方が「自分にはめちゃくちゃ刺さった!」とおっしゃっていたのが印象的でした。
――働いて、合コンして、病んで、なんとなく付き合って、惰性した月日を過ごしてしまうなど、共感できる描写が数多くありました。
ありがとうございます。現時点での僕なりの「東京」をこの作品に注ぎ込んだので、共感してもらえて嬉しいです。上野とかで一緒に飲みたいです。
――1本の映画のような作品でしたが、本作の見どころやこだわったところを教えてください。
こだわりはないですが、前野健太さんの「東京の空」をずっと聴きながら描いてました。
――切なさや寂しさ、満たされない気持ちが最後のラストで回収されてよかったです。
ありがとうございます。切ない感じで終わらせたがりなんですよね。
――その他、どのような漫画を描いていますか?
葬式に流す曲を探す話とか、素直になれない男女の話とか。俗に言う「エモ」みたいな話を描いています。本来はごりごり異能力者バトルものを描きたいのですが、画力が追いつかず諦めている現状です。今後ともよろしくお願いします。
東京という曲を作ろうとする青年の物語。小説のような、ミュージックビデオのような描写が切なく、静かに心に刺さる。何かを追いかけて、諦めて、それでも心のどこかで諦めきれずにいる人にじわりと響くのではないだろうか。
取材協力:くそごり(@kusogoli)