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お約束の「ご当地愛」「地域創生」を捨てた?ご当地ヒーロー・ドゲンジャーズの生存術

  • 2020年7月19日
  • Walkerplus

特撮ドラマ「ドゲンジャーズ」は2020年4月12日より毎週日曜朝10時から九州朝日放送で放送されたローカル番組。いわゆるご当地(ローカル)ヒーローの番組でありながら、近年のスーパー戦隊や仮面ライダーシリーズと比べてもそん色のない視聴率を記録するとともに、毎週Twitterで「ドゲンジャーズ」が全国トレンド入りするなど注目を集めた。

そこで今回、同番組の制作に関わっている「株式会社 悪の秘密結社」の社長・笹井浩生氏に、ご当地ヒーローが社会で果たすべき役割、そしてスーパー戦隊シリーズやメタルヒーローシリーズの生みの親の1人となった東映の元プロデューサー、故・吉川進氏から受けた影響について聞いた。

■特撮界の「心のインフラ」を整えた吉川氏の功績

――先日、「秘密戦隊ゴレンジャー」をはじめとするスーパー戦隊シリーズや、「宇宙刑事ギャバン」「巨獣特捜ジャスピオン」などメタルヒーローシリーズを担当し、特撮ヒーロ―の生みの親の1人でもある吉川氏が死去されました。特撮界に携わる多くのクリエイターに影響を与え、指針となった同氏の功績とは?

【笹井浩生】まず初めに、ご逝去されました故・吉川進様のご冥福を深くお祈り致します。吉川様の功績に対して、私が発言すること程おこがましいことはありません。ただ、特撮界に携わって1年生の立場の私が思うことは、資金はもちろん制作環境においても「本当に大変だ」ということです。当時は今と技術も違うし、情報の量も違います。厳しい制約があるなかで、世界中に愛されているコンテンツをゼロから作られたということに深い尊敬と敬意を持ち、及ばずながら私もそこに辿り着く努力を行いたいと思っています。

――ゼロイチでコンテンツを世に生み出した吉川さんの手腕が、笹川さんの目指すべき指標となっているんですね。具体的に吉川さんから受けた影響は?

【笹井浩生】私は平成元年生まれで、「特撮ヒーロー」が当たり前に自分のすぐそばにあるという世代でした。つまり心のインフラが整った状態です。ヒーローが悪と戦う倫理観や概念だったり、特撮映像のフォーマット(お約束)など、特撮ヒーローの様式美はすでに完成している状態だったんです。幼少期は当然、まったく意識もしなかったんですが、自分が制作側の立場になってゼロから作品を生み出そうとしたときに、先人の方々の苦労であったり、残してくれたものの偉大さを痛く感じることができました。

■ドゲンジャーズの正義は「ここに生まれて良かった」という共感を広げること

――いま、全国には800体近くのご当地ヒーローがいるとも言われています。その元祖ともいうべき存在は?

【笹井浩生】海老名保さんが企画・制作に携わった「超神ネイガー」がローカルヒーローの草分け的存在かと思います。活動の根幹となっているのは「地域愛」なのですが、手作りヒーローがまだ多い2000年代初頭に、最高峰の造形レベルのヒーロースーツと、武器が「きりたんぽの剣(キリタン・ソード)」というカッコよさの中にもキャッチーな地方PRを盛り込んだ「超神ネイガー」はとても有名なコンテンツになったかと思います。その海老名さんDNAが派生して、「琉神マブヤー」を始めとした沢山のヒーローが誕生して、まさに地域愛・地方創生という言葉を使ったご当地ヒーローの存在が浸透していったかと考えます。私自身も、海老名さんの書籍を読み、この業界を志したひとりです。

――多くのご当地ヒーローがいるなかで、ドゲンジャーズが支持された理由というのは?
【笹井浩生】先ほど申し上げたように、ご当地ヒーローが掲げる理念としてまず挙げられる事項は「地域愛」だと思います。でもドゲンジャーズはそこを重視していません…(笑)。当然ゼロではありませんが「福岡最高!」みたいなことは誰も言わない。ドゲンジャーズのヒーローは普通に福岡で生活している存在です。それこそ他の市民と何も変わらない感覚で生きています。「福岡最高~!」って四六時中ずっと思いながら生活している人なんて多分いないと思います。ふとした瞬間に「ここに住んでいて良かった。ここで仲間に巡り合えて良かった」と思うことが自然ではないでしょうか。なので、「ドゲンジャーズの正義が生まれた場所が、福岡だった」というライトな地域性の提供が、福岡だけではなく全国の方にも自らの人生や地域を投影し、共感して頂けたのではないかなと思っています。

■子供たちに「悪を倒す」ヒーローよりも、「家族の健康を守る」ヒーローになってほしい

――ではドゲンジャーズがTVを通して届けようとしたものとは?

【笹井浩生】例えば仮面ライダーは「ヒーローになりたい」という子供の夢を叶えるために変身ベルトを売るのが目的の一つかと思います。一方、ドゲンジャーズの場合「子供たちがいる生活を応援する」をキャッチコピーにしています。具体的には、番組オリジナルのおくすり手帳である「やくいく手帳」を作成し、全国の方々に薬局を通じて無償配布しています。それによって薬の飲み残し(残薬問題)の解消と、子供たちが家族の服薬状態をチェックし、家族の健康を守るヒーローになってほしいと思っています。

――全国の薬局へ無償配布した「やくいく手帳」は100万部以上と聞きました。

【笹井浩生】当然、発行した100万部の「やくいく手帳」の印刷費や製作費等が必要になります。その部分を企業からの広告出稿費でマネタイズを行いました。

――つまりドゲンジャーズのビジネス形態は、いわゆる一般消費者向けのBtoCではなく、企業向けのBtoBということでしょうか。

【笹井浩生】はい。悪の秘密結社は、今はまだ吹けば消し飛ぶほどの零細企業ですが、やるからには企業としても成り立たなくてはいけない。すでに大手企業が長い年月と努力で作り上げた「子供たちへのおもちゃの販売」はレッドオーシャンです。今の能力で戦いを挑むことは会社として間違っていると思い、BtoBに振り切った戦略を組み立てました。

■心のインフラである「特撮の様式美」をあえて崩すという選択も

――その戦略は作品にはどのような影響を与えたのでしょうか。

【笹井浩生】おもちゃを売る場合、売上を上げるためにその商品を毎回映像の中で出さないといけません。私も絶対にそうすべきであると思います。ただ、BtoBで広告出稿をマネタイズのメインにおいている場合、もっとも必要なことは「露出と話題性」です。なのでドゲンジャーズは、これまでの特撮では考えられないようなシーンで終わったり、とんでもない演出が多々ちりばめられた作品になりました。結果、続きが気になる「引き」が多くなり、沢山の方に「次が気になる!」と言って頂けたことは何より嬉しかったです。製作委員会の主幹事の皆さんにも予め、この部分は強くお話をさせて頂きました。

――なるほど、ご当地ヒーローの番組でありながら視聴率が高かったのは、そうした「引き」の演出によるところが大きいわけですね。いま製作委員会の話が出ましたが、クリエイターにとってお金を出してくれる出資者とは常に戦いだと思います。

【笹井浩生】そこは常に挑戦だと思っています。冒頭の吉川様の話になりますが、恐らく吉川様は多くの成功とともに、プロジェクトの中で1番失敗を経験された方だと思うんです。ゼロイチを生み出すってそういうことで、めっちゃ失敗して、そのうえで成功があるかと思います。1番失敗している人だからこそ出てくる発言や、乗り越えた成功があるから出せる先導力でスタッフを引っ張っていかれたんだと思うんです。私は吉川様にお会いしたことはありません。でも、吉川様の作品で育ち、同じ特撮作品を作って、そう感じました。

――笹井さんも多くの失敗をされてきた?

【笹井浩生】本当に失敗しまくっています(笑)。なので、その失敗から導き出された正しいやり方を周りに伝えるのも私の仕事です。そして、その成功と失敗を積み重ねたうえで、視聴者に支持される作品をもっともっと作っていきたいと思っています。私の「心のインフラ」であった特撮作品、マクロでも活動ができる事を教えてくれたご当地ヒーローを経て、これまでに無かった新しい特撮の柱を作り上げたいと考えています。今後の構想もたくさんあるので、ご期待ください!

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