
季節によって畑仕事の内容は変わります。ここでは、冬におこなう、夏野菜の苗づくりに焦点を当てて、写真付きで解説していきます。水も温度も自然まかせ!地床でガッシリ苗を育てましょう!
徒長苗になりにくく根がよく張った苗をつくれる
夏野菜の苗づくりは、中間地では3月から始まります。ナスやトマトの育苗期間は約60日ですから、5月の連休あたりに定植を行えます。
「定植」とは、植物を苗床から畑に移して、本式に植えることです。
3月は夏野菜の育苗には気温が低いため、発芽温度や生育温度を確保するために、セルトレイや育苗ポットにタネをまき、加温、または保温して苗づくりを行います。
ただ、この方法ではある程度の経験を積まないと、ヒョロヒョロと節間が伸びた徒長苗になることがよくあります。失敗の原因は、水の与えすぎと温めすぎです。光が足りなくても簡単に徒長します。
今回おすすめするのは、地床育苗による夏野菜の苗づくり。畑の隅にコンパクトな苗床をつくって、タネを直まきして育苗します。
水やりは基本的に不要で、温度も自然におまかせ。手間をかけずに、根がビッシリ張った良苗を育てることが可能になります。

上の画像は、苗床にタネを直まきし、約60日かけて育てたナスの苗です。
土の量が限られた育苗ポットでの苗づくりと違い、地床育苗の場合は根が老化することがありません。とても丈夫な苗ができあがります。
発芽温度、生育温度の確保には、不織布とビニールを利用します。屋外での育苗なので日照は十分で、日だまりのポカポカした温度で苗はじっくり育ちます。
育苗ポットでの苗づくりがうまくいかない人は、地床育苗を試してみてはいかがでしょう。
1.苗床をつくる
畑の一角を耕して苗床をつくります。日当たりがよくて、じめじめしていない場所を選びましょう。
早い時期に高さ5cmくらいの平らな苗床をつくったら黒マルチをかぶせて、タネをまく日まで苗床の土を温めておきます。
野菜がよく育つ畑なら、堆肥や肥料をすき込む必要はありません。新規の畑や痩せている畑で苗床をつくる場合は、1m2あたり2~3Lの完熟堆肥と少量のボカシ肥料をタネまきの1か月以上前にすき込んでおき、黒マルチをかぶせてタネまきに備えます。
苗床のサイズは、つくりたい苗の本数によります。苗床の幅は60cmにして、長さを適当に決めてください。
2.タネをまいたら保温して発芽を待つ
*タネをまいて鎮圧したら被覆資材をべた掛けする
ナス、ピーマンは中間地では3月上旬にタネをまきます。覆っておいた黒マルチをはずし、条間10cmでスジまきします。トマトはナスと同時か、または少し遅らせて3月中旬にタネをまきます。
タネをまいたら不織布とビニールを重ねて苗床に敷き、地温を上げて発芽を促します。根を伸ばして地下の水を吸うので、水やりは不要です。
キュウリ、カボチャ、スイカは定植時に根を傷めたくないので、タネをまいた育苗ポットを苗床に埋め、不織布とビニールをかぶせておきます。土に埋めてあるためポットの土は乾きにくく、水やりの必要はありません。
ときどき被覆をめくって、芽が出始めているのを確認したら不織布とビニールをはずします。

①3月上旬 ナス、ピーマン
ナスとピーマンの育苗期間は60日で、ゆっくり育ちます。3月上旬にタネまきをすれば、5月上旬に定植サイズに育ちます。苗を掘り上げて畑に移植します。
②3月中旬 トマト
トマトは3月中旬にタネをまきますが、ナスとピーマンと同時でも構いません。早まきするとその分、トマトは大苗に育ちます。大苗を横向きに“寝かせ植え”すると、定植後の生育がよくなります。
③4月上旬 キュウリ、カボチャなど
キュウリ、カボチャの育苗期間は約30日、スイカは約45日です。キュウリは9cmポットにタネを1粒、カボチャ、スイカは12~15cmポットにタネをまき、苗床に育苗ポットを埋めます。
*不織布とビニールを重ね掛けして発芽を促す
01 堆肥と肥料を入れるなら1か月以上前に、耕すだけなら2週間前に苗床を用意します。黒マルチをはずしてタネをまきます。

02 ナスのタネまきは3月上旬です。

03 角材を押しつけてまき溝をつけ、タネを8~10cm間隔で落とします。

04 土をかけ、体重をかけてしっかりと鎮圧します。底の平らな長靴で踏んで鎮圧するのもおすすめです。水やりは不要です。

05 不織布を苗床にかぶせます。

06 さらにビニールをかぶせて発芽を待ちます。2週間くらいで芽が出てくるので、ときどきめくって観察してください。
3.発芽後は不織布と穴あきビニールの二重トンネルで育苗を続ける
*気温が上がってきたら風を通して蒸れを防止
全体の3割くらいが発芽しているのを確認したら、べた掛けしていた被覆資材をはずします。そして、すぐにトンネル掛けをして保温します。
トンネルは二重にします。トンネル支柱を立てて不織布をかぶせたら、その上に穴あきビニールをかぶせます。
トマトやナスは、発芽がそろったら間引きをして、株間を8~10cmにします。草が生えてきたら中耕を兼ねて除草し、育苗を続けましょう。
気温が上がってきたら、ビニールの裾をたくし上げて、トンネル内が蒸れるのを防ぎます。4月中旬からはビニールをはずして不織布だけにして構いません。

★Point
3月上旬~3月下旬:不織布+穴あきビニール
3月下旬~4月中旬:穴あきビニールの裾を上げる
4月中旬~:不織布だけのトンネルにする
定植前の1週間:不織布を開放して外気温に慣らす
4.苗採りをする
*定植の1週間前から外気温に慣らし始める
定植日が近づいたら、日中だけ不織布を開放し、苗を外気温に1週間ほど慣らします。夕方、トンネルを閉じます。
ナス、ピーマンは定植の3日前に根切りをしておきます。トマトの苗は引っこ抜いて苗採りして構いません。キュウリやスイカはポットを取り出し、それぞれ用意しておいた畝に定植します。
トマトは草丈30cmくらいに育った苗を寝かせ植えにするのがおすすめ。

ガッシリしたナスの苗が育ちました。
*トマトは“ゴボウ抜き”で定植当日に苗を採る
苗をつかんで引っこ抜いて苗採りをします。トマトの苗は丈夫で、根に土があまりついていなくても定植には問題ありません。

根がとても発達しています。これが地床育苗のいいところです。

定植
トマトの大苗を横倒しにして、茎の下半分くらいを土に埋める"寝かせ植え"を試してみましょう。埋まった茎からも新しい根がたくさん出て、トマトが丈夫に育ちます。収穫期間も長くなります。
*ナスは定植3日前に“根切り”をしておく
ナスとピーマンの苗は、定植日の3日前に、苗と苗の間の地面に包丁を挿して根切りをしておきます。

3日後に移植ゴテで苗を掘り上げる際、10cm角の根鉢をコロンとうまく取り出せます。根鉢が崩れないので、定植後の活着がスムーズになります。

定植
用意しておいた畝にナスを定植します。青枯病などの土壌病害を防ぐためにネギの苗を添えて植えておきます。3日前に根切りをしたおかげで新根の発生も盛んになり、しっかり根付きます。
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