「パンの街」として知られる神戸。開港した1868(慶応3)年の翌年には、居留地に住む外国人向けのベーカリーがオープン。以来、パン文化は徐々に神戸の人々の生活に定着していきました。1905(明治38年)年に「藤井パン」として神戸で創業した「ドンク」、1924(大正13)年開業の「フロインドリーブ」は、今も続く有名店。神戸だけで展開する1946(昭和21)年創業の「イスズベーカリー」をはじめ、各駅の周辺や商店街はもちろん、住宅街にも小さなパン屋さんがあって、遠方からパンを買いに来る人々も絶えません。
かく言う私も、地方に出かける時、山のようにパンを買い、手土産にすることも多いのです。
そんな神戸に、異色のパン屋さんが登場しました。2024年3月27日にオープンした「BAKERY K-PORT(ベーカリーケイポート)」。開業1年ですっかり街に根付いた様子。
場所は神戸市長田区。山陽電車の西代駅と板宿駅の中間あたりで、県道21号線に面したお店は対面販売スタイル。多い時には30種類ほどのパンがショーケースに並びます。店頭の黒板には、人気商品の1番目が「台湾爆弾パン」、2番目が「ルオソンパン」、さらに4番目は「台湾風クロワッサン」と、手書きされていて、興味をそそられるでしょう。
人気のパンをご紹介しましょう。
「台湾爆弾パン」は、爆弾というよりも、日本人にとってはラグビーボールを思わせる形の、ずっしり重いパン。カリッと焼いた生地に、ほんのり甘いシュガーバターが巻き込まれています。キメの細かいバターロールのような優しい味わいの生地を噛むと、シャリシャリ。懐かしい昭和な喫茶店の、バタートーストにグラニュー糖をまぶしたあの味!(笑)
小豆も一緒に巻き込んである「あずき爆弾パン」は、土曜日限定の一品です。
「台湾風クロワッサン」は、形はクロワッサンに似ていますが、食感は別物。台北に近い三峡の名物ともいわれる台湾独特のパン「金牛角(ジンニィゥジャオ)」で、表面はカリッとしていて、中はふっくら。有塩バターを使っており、日本人も大好きな優しい味。何個でも食べられそうです(三峡では、チョコレートやイチゴ、抹茶、パイナップルや黒糖など、いろいろな種類があるようです)。
台湾ならではのパンとしては、他に、トップの画像の「高雄ハニカムブール」と「ルオソンパン」があります。
「高雄ハニカムブール」は、台湾・高雄産の龍眼(ロンイェン)蜂蜜をたっぷり使用し、砂糖、油は不使用。ハニカム=ミツバチの巣のように蜂蜜がたくさん含まれている、しっとり、ふわふわのパン。噛むほどに広がる龍眼蜂蜜の風味が特徴。
大きくて食べ応えのある「ルオソンパン」は、ロシア発祥。バターロールのようなパンが台湾に伝わり、台湾産蜂蜜を使って菓子パンにアレンジされたもの。バターたっぷりの生地で、蜂蜜の華やかな香りも楽しめる、リッチな味わい。
さらに、「ベーカリーケイポート」には、台湾のパンだけでなく世界各国のパンがあります。
まず目を引くのは、ドイツの「プレッツェル」。カリッとした食感で、ビールのおつまみにぴったり。
「イタリアンクロワッサン」は、本場では朝食の定番だとか。発酵バターを使い、外はサクサク、中はエアリー。エスプレッソと一緒に楽しみたい。
東欧発祥のパンで、アメリカでブームとなったベーグルは大きくてふんわり。1個でお腹いっぱいになりそう。
シナモンが香る、ボリュームたっぷりの「シナモンロール」は北欧代表でしょう。
香港やマカオなど、中華圏で愛されている「エッグタルト」。たっぷりのカスタードにサクサクのペイストリー風生地で、おやつにオススメ。
まだまだあります。クロワッサン生地を薄く伸ばして焼いた「韓国風カリカリクロワッサン」。アメリカ生まれのちぎりパン「モンキーブレッド」。そして、フランス代表「クロワッサンクラシック」は、国産小麦に発酵バターをたっぷり使った、サクッ、モチッとした食感。どれもおいしくて、ボリュームたっぷり。
もちろん、食パンやハード系のパンも、次々焼きあがって、ケースに並びます。あれもこれもと、気になるパンをいっぱい買ってしまいそう。
そうそう、お店の袋がまたユニーク。
『この袋に入っているパンは「オイシイ」よ』『神戸でパンの世界を』と書かれているのです。
「ベーカリーケイポート」でパンを作っているのは、台湾出身の呉(ウー)克己さん。台湾、上海でも5店舗を展開してきた人物。
呉さんは、1980年生まれ、台湾・高雄市出身。大学卒業後、台湾に進出していた日本のパンチェーン・ドンクに入社。ドンクやヤマザキが、台湾のSOGOや新光三越といったデパートに出店し、バゲットなどハード系のパンも販売し始めた時期。
「2008年には神戸のドンク本社で研修しました」と呉さん。「神戸の街は、高雄と同じで山と海があり、街のパン屋さんのパンもとてもおいしくて、印象的だった」とにっこり。
元々、台湾でパンが食べられるようになったのは日本統治時代。日本のパンをベースに、ヨーロッパの影響も受けながら、徐々に地元の食材も使われるようになって、台湾ならではのパン「台式麺包」が生まれ、広まっていきます。
そして、呉さんがドンクで働き始めた頃から、台湾のパン事情はすごいスピードで進化しました。
2010年以降、ベーカリーのワールドカップに出場して2人も世界チャンピオンが誕生。呉さんは、その一人、王鵬傑(ワンポンジエ)さんを含む3人で起業し、高雄で「ブーランジュリーシェイクスピア」を開業。5店舗を展開する人気店となりました。
その後、呉さんは2014年にフランスで研修。「ブーランジェリーシェイクスピア」を離れて、2017年、桃園で「ブーランジェリーアンソニーズ」を開業。その後、上海にも展開。
「ドンクの研修で神戸に来た時から、いつか神戸で店が持てたらという夢があった」と呉さんはにっこり。
同じく高雄出身の、高校時代の先輩で、関西学院大学を卒業した黄祥銘(ファンシャンミン)さんと起業。2023年に家族と神戸に来て、2024年に「ベーカリーケイポート」をオープンさせました。
「日本人の口に合う様々なパンを作っていきたい」
バゲットや田舎パン、ライ麦パンなどのサワードウのパンが好きという呉さん。低温で長時間熟成し、砂糖や油脂、具材を加えた「台式軟欧(台湾式ソフトヨーロピアンパン)」は、天然酵母の生地の酸味を減らした、甘みを感じる優しいパンで、そのまま食べられると、すでに台湾では大人気。日本人の好みにも合っています。
台湾式にアレンジされた「ベーカリーケイポート」のパンは、ヨーロッパや日本のパンをベースにしながらも、独自のアイデアがプラスされ、何でもあり。それがとても自然で無理がない。どれもとてもおいしくて、何度も食べたくなるのです。
「今まで、ドイツ、フランス、イタリア、アメリカ、韓国などで研修しました。スペインや東ヨーロッパにも行って各国のパンを学びたい」と呉さんは意欲的。ますますパンの種類が増えそうです。
長田本店に続いて、今年5月、阪神電車の大石駅から徒歩5分ほどの場所に、灘店がグランドオープン。こちらも地域の人気店になるでしょう。
日本にいながらにして、台湾発の世界のパンで、朝食やおやつタイムができるなんて、幸せ!
BAKERY K-PORT(ベーカリーケイポート)長田本店
所在地 兵庫県神戸市長田区御屋敷通6-3-12
電話番号 078-600-9616
営業時間 10:00〜18:00(売り切れ次第終了閉店)
定休日 日・月・火曜
Instagram @bakery_kport
灘店
所在地 兵庫県神戸市灘区鹿ノ下通2-4-11
電話番号 078-600-9685
文・撮影=そおだよおこ