さすらいのボタニスト、ヤガメです。こんにちは。
推理小説のネタバレほど無粋なものはないかと思いますが、
ぼかして書きますので、どうぞご了承ください。
というのも、どうも、ひっかかっちゃったんですよ。
某ベストセラー作家の小説に、登場する植物。
いや、死体が埋められている場所を教えてくれる植物、ってことなんですが。
ミステリファンでなくとも、多くの日本人にはおなじみのベストセラー作家、
某氏の作品に「花の●」という小説があります。
(ほら、ホテルマンの経歴を生かして、デビュー作は「高層」で起こる事件のハナシを書いた、あの方ですよ)
この小説、いくつもの出版社から、新書や文庫も何度も発行されていて、
その多くの表紙には、植物の姿が描かれています。
それが、この植物。
今回紹介する植物、ギンリョウソウです。
●小説の内容は……
小説の内容は、
『人が来ない、さびれた寮の庭や構内の一隅に、殺された人の遺体が埋められている、という設定。
当然死体の存在など、本来なら分かるはずなどない。
しかし……。
死肉を分解し生育する、ギンリョウソウという草が花を咲かせ、
死体の場所が分かってしまう』
というお話です。
お話としてはとてもスリリングな内容ではあるのですが、
このギンリョウソウって植物、何者よ? って思いますよね。
●別名ユウレイタケ
ギンリョウソウはツツジ科の植物で、
別名ユウレイタケなどというキノコのような名前がついている、
奇妙な生物です。
植物のくせに緑色の葉がなく、光合成を一切していません。
雑木林などで比較的普通に見ることができ、梅雨時期に花を咲かせます。
掘り上げてみると、こんな感じ。
根は、まるでタワシのようになっています。
細かい根がかたまりになっているので、ルートボールと呼ばれています。
さて、ここで問題。
ギンリョウソウは本当に、動物の遺体を分解するような性質を持っているでしょうか?
答えは「否」。です。
確かにまぁ、名前といい、見てくれといい、
そういったおどろおどろしい雰囲気はありますけど……。
●自分では光合成をしないかわりに
ギンリョウソウは、キノコから養分を得て生育している植物です。
さらに、このギンリョウソウが寄生するキノコは、近くに生えている樹木と共生しています。
樹木からはキノコは光合成産物をもらい、キノコは樹木に土中の養分を供給しています。
樹木とキノコは仲良しで、お互い共生しあって生きているわけです。
ギンリョウソウはこの関係にうまく入り込み、キノコと、キノコの共生相手の樹木からも養分を奪って生きているのです。
なんとも巧みな生き方をしているものですね。
ですから。
ギンリョウソウの下に死体が埋まっているなんてことありません。
雑木林でもしギンリョウソウを見かけても、怖がる必要はないわけです。
結構美しい花ですから、のんびり観察してみてください。
ちなみに。
この作者、実は、けっこういろいろな作品で、フィクションとノンフィクションが微妙に分かりづらいというか、
着想から力技で結末にもっていく傾向があることを指摘する人もいます。
ギンリョウソウについては、初版発行から約四半世紀を経た2003年、
作者のウェブサイト上で、作者自身が「著者解説」として言及しています。
興味のある方は、そちらも、あわせてどうぞ。