マスクは削減の先にあることが見えていない?
ビル・ゲイツはFinancial Timesのインタビューで、「世界一の金持ちが、世界で最も貧しい子どもたちを殺している図式は美しいものではありません」と、イーロン・マスクの仕事が地球上で最も弱い立場にある人たちを傷つけていると述べています。
さらにはニューヨーク・タイムズの取材でも、マスク氏は偉大な慈善家になる可能性はあると言いながらも、「その間にも、世界一の金持ちが世界で最も貧しい子どもたちの死に関わっている」と述べています。
ゲイツ氏は、マスク氏によるアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)への予算削減に焦点を当て、想像していたよりもはるかに悪いものだと発言。
「20パーセント程度の削減だと思っていました。しかし実際には、現時点で80パーセントもの削減になっています。そんなことになるとは予想していませんでした。USAIDの予算を削減したのはイーロン・マスク氏で、USAIDを粉々にしてしまったのです」と削減の責任が直接マスク氏にあると説明しています。
この削減は壊滅的なものになると言われています。そもそもアメリカ合衆国国際開発庁が何をしているのかというのが、誤解されていたことから始まっているのかもしれません。
例えば、マスク氏の「政府がハマスにコンドームのために5000万ドルを費やしている」と訳のわからない主張をして、モザンビークのガザ州にある病院への助成金がキャンセルされたとゲイツ氏は説明しています。この病院はHIVの子どもへの感染を防ぐための取り組みを行っていたのに、です。「マスク氏には、自分が資金を削減したためにHIVに感染してしまった子どもたちに会いに行ってほしい」とも語っています。
ゲイツ氏はマスク氏の仕事の結果がどうなるかについてもかなり踏み込んだ発言をしています。
ニューヨーク・タイムズに「この予算削減のせいで、何百万人もの子どもたちがさらに亡くなることになるでしょう」と語っています。破壊するのは簡単でも修復するのは難しいというのを考えなければいけないですね。
ゲイツ氏は資金提供が4年から6年にわたって中断すると予想しています。自分が関わる支援団体が長期的には子どもの死亡率を減らすことができるという見方をまだ持ってはいるようですが、「削減があまりにも劇的なので、たとえ一部が復活したとしても、厳しい時期になるでしょう」と危機感を表しています。この状況は、人道支援が世界的に減少している現状をさらに悪化させることになりそうです。
マスク氏は、援助削減による多くの死を「政府効率化省(DOGE)が実行する本質的な削減のためには必要な痛手」として見ている可能性があるとも言われていますが、実際のところはそこまでもなさそうです。マスク氏は当初、政府支出から2兆ドルを削減すると主張しましたが、現時点でわずか1620億ドルを削減したと主張しています。しかし、専門家たちがそのうち検証できたのはわずか50.2億ドル(当初の目標の0.25%)だけでした。
億万長者のマスク氏が理解しようともしなかった必要不可欠な人道的取り組みへの資金提供を停止したために、何百万人もの子どもや大人が死亡する可能性があります。世界で最も裕福で、最も傷つきやすい男のエゴを守るためにたくさんの人間を死なせていると言うのは、大げさな表現ではなさそうです。
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