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「“何でもできる親”でなくなる母を間近に見ると…」渡辺満里奈が“母との同居”に思うこと

  • 2025年5月30日
  • CREA WEB

 50代の大人の女性の“モヤモヤ”を明るくオープンに語った新刊『不機嫌ばかりな私たち』を5月29日に上梓した渡辺満里奈さんにインタビュー。

 15歳で芸能界デビューされた渡辺さんは、老いとどう向き合ってきたのでしょうか。子どもへの向き合い方もお聞きしました。


更年期にまつわるエッセイを綴った渡辺満里奈さん

――新刊『不機嫌ばかりな私たち』は、更年期にまつわるエッセイです。渡辺さんはご自分が歳を取ることをどのように受け止めておられましたか?

渡辺満里奈さん(以下、渡辺) あまりそこに対して意識したことはありませんでした。でも、40代後半くらいになった時に、なんだかすごく自分が歳を取ったな、と感じることが多くなって、ちょっと鏡を見るのがいやだなあ……と思った時期はありました。


――Chapter4「老いと不機嫌」では、ほぼ一緒に暮らしているお母さまについて書かれています。年齢を重ねるお母様のそばで過ごすことはいかがですか?

渡辺 私は15歳でアイドルとしてデビュー。すごく早くから自立して生活してきたので、母への依存や期待は低いと思っていました。でも、息子や娘を出産した時、私が仕事や家事で疲れないように全力でサポートしてくれた母の愛は、心にしっかり刻まれています。

 そういう記憶がある一方で、10年前にできていたことができなくなったり、物忘れが多くなったりするなど、「何でもできる親」でなくなる母を間近に見ることは、少し寂しい気持ちになります。でも「私もこうやって同じ道をたどっていくんだろうな」と思っていると、受け入れられる気がしています。

 もともと母は、私以上にざっくりした性格なので、一緒にいると肉親の甘えもあって、つい強く言ってしまうこともあるのです。ただ、私も絶対将来、娘にこんなふうに言われるんだろうなと思うと、冷静になれます。そうやって、母は私が行く道を先に見せてくれていると考えたら、なんてありがたいことかと思います。

 それに、大人になってからまた母のそばで一緒に過ごせる時間が持てるなんて、よく考えたらすごく幸せなことですよね。今は、「完璧でなくていい。老いるのは順番」。そんな大切なことを母に教わっている気がしています。

「ママは間違えるから、必ず自分でもチェックしてね」

――ご自分のお子さんたちには「完璧な母」でいたいと思いませんか?

渡辺 昔から子どもたちに対しては、情けない姿や頼りない姿を堂々と見せてきたので、「完璧な母親像」については、まったく考えたことがありません。

 いつだったか、娘が英検を受験する時に車で送っていった時も、私、会場を間違えちゃったんです。受験が終わった娘がものすごく不機嫌で帰ってきたので、理由を聞いたら「ママが会場を間違えた」と……。でも、それは自分で会場確認をしなかった娘にも責任がありますよね。だから「ちょっと待って。確かに会場を間違えたママも悪いけれど、きちんと確認をしなかったあなたも悪い。ママは間違えるし忘れるので、これからはあなたもちゃんと気をつけて。でも、今日はごめんね」と謝りました。

――お子さまに自分の非を認めて謝れる親って素敵ですね。

渡辺 子どもたちには、「強くて間違えない親」ではなく、頼りないところも情けないところも見せていくことが大事だと思っています。だから「ママは間違えるから、必ず自分でもチェックしてね」といつも話しています。

 完璧な親でいなきゃいけないと思うと自分でも苦しくなるし、そもそも「完璧な親」なんて私にはできません。それに、私、子どもの前でよく泣いたりもするんですよ。子どもたちから見た私が「強くて完璧な親」である必要はまったくないと思っています。


――「親だからこうあらねばならない」というのは「女性だからこうあるべき」というジェンダー格差にも通じます。

渡辺 私の夫は、古い昭和タイプの人間だったので、結婚した時は「女性がご飯をつくるもの」という価値観を持っていました。でも日々感じていることを伝え合い、ニュースを見て感想を言い合うなど、細かいことを何でも話し合うようにしてきた結果、少しずつ変わってきました。

 Chapter2「家族の不機嫌」の「夫婦の不機嫌」でも書いていますが、世の中は毎日変化しています。以前は大丈夫だった発言や振る舞いも、今では許されない、というケースも増えました。いつまでも「男性だからこうあるべき」「女性だからこれをしなくてはいけない」という考え方ではなく、アップデートしていくことが必要だと思います。

――お子さまたちはジェンダー不平等に敏感ですか?

渡辺 そう思います。でも息子がまだ小学生の時、続けてきたラジオの仕事に出かけようとしたら、息子から「ママ、いつまでラジオの仕事するの?ママは家にいてご飯作ってくれればいいのに」と言われたことがあります。きっと、毎週木曜の夜に私がいなくなってしまうのが寂しくて、つい言ってしまったのだと思いますが、これを聞き入れてしまったら、これまで子どもの前で、夫婦で話し合う姿を見せてきたことは何だったんだろう……、という気持ちになりました。

 だからその時は、「寂しい気持ちもわかるけれど、ママはこういう仕事をずっとしているし、仕事ができるうちはちゃんとやりたいと思っている。女性が家にいてご飯を作らないといけないというルールはどこにもないし、ご飯は自分で作ってもいい。ママを家にとどめておく権利は誰にもないんだよ」と話して聞かせました。

17歳の息子と14歳の娘の変化

――その後お子さまは変わりましたか?

渡辺 もう私に話をされている時点で「しまった……!」という顔はしていました(笑)。まだ小さかったので、夜母親がいなくなる日があるというのが、本当に寂しかっただけなのだと思いますが、その後は、それまで以上に気がついたことや私の不満を細かく伝えるようになりました。

――ご夫婦間でもお子さまとの間でも、対話を大事にされているのですね。

渡辺 家族のなかで母親だけに負担が多い姿を見せなくないと思ってきたので、うるさいくらい「あれやって」「これやって」と家族に家事を割り振りながら、話をするようにしています。

 今は息子が17歳、娘が14歳になって、私が仕事で疲れてウトウトしてしまった時に、何も言わなくても自主的に片付けをしてくれたり、学校で「女子なんだから」と言われたことに対して「それっておかしいよね」と話したりするようになりました。大半は「やらないとママうるさいから」という理由で、各自ができる家事をやれる時にやる、というくらいですけど、それでも言い続けることって大事なんだなと感じています。


――素敵ですね。いくら話しても努力しても、夫も子どもたちも家事を協力してくれないという方も多いと思います。アドバイスをお願いできますか?

渡辺 そういう方にこそ、この本を読んでいただきたいです。男性も女性も今は外で仕事をしている方が多いのに、家の中が円滑に回るために女性が果たす役割は今でもすごく多いと思います。でもだからこそ、我慢しないで家族にできることを分担してもらうって大事なんじゃないかと思います。

 そして小さな違和感を見逃さずに、きちんと話し合う。それが、自分にとっても家族にとっても、不機嫌の種をなくす一番の方法だと思います。

ヘアメイク、スタイリング=三上津香沙
文=相澤洋美
写真=今井知佑

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