睡眠時間が長くてもダメ? 睡眠の質が悪いと認知症リスクは上がるのか

  • 2025年5月6日
  • All About

【脳科学者が解説】睡眠は認知症予防にも効果的だと考えられていますが、重要なのは睡眠時間の長さではなく、質だと発表されました。分かりやすく解説します。
睡眠は認知症予防にも重要なことが明らかになっています。そして「睡眠を十分に」といっても、長時間眠ればよいわけではないようです。

大切なのは睡眠の総時間よりも、「入眠してからレム睡眠に移行するまでの時間」であるという研究結果が発表され、注目されています(Alzheimer’s & Dementia, 21(2): e14495, 2025)。分かりやすくご紹介しましょう。 

■レム睡眠への移行時間と認知症発症リスクの関係とは
睡眠は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類に分けられます。眠りに入ると大脳皮質の活動が次第に低下し、体も脳もぐっすりと休んだ状態の「ノンレム睡眠」になっていきます。ノンレム睡眠が1時間ほど続くと、体は休んだままの状態で大脳が活動を再開し、「レム睡眠」の状態になります。

夢を見ることが多く、眼球がぐらぐらと素早く動くのが認められる状態です。そしてこのレム睡眠中に、日中に体験した出来事の振り返りが行われ、記憶がしっかりと作られると考えられています。十分な睡眠をとることで、体験した出来事が記憶され、しっかり覚えておけるようになるということです。

そして、この記憶処理に重要な役割を果たすレム睡眠への移行には、個人差があります。アメリカと中国の共同研究チームの調査によると、レム睡眠への移行が遅い人は、アルツハイマー病の発症に関連する「アミロイドβ」や「タウタンパク質」などの異常を反映した指標が、高値を示すことが分かりました。

つまり、アルツハイマー病の発症リスクが高い状態にあるということです。また、脳の機能維持に関わる「脳由来神経栄養因子(BDNF)」のレベルが低下していることも示されました。

この結果を単純に解釈すれば、入眠してもなかなかレム睡眠に移行しない睡眠パターンの人は、認知症を発症しやすくなると考えられます。しかしこの研究では因果関係を調べているわけではないので、脳の機能低下が、認知症発症につながると同時に、睡眠の質の低下にもつながっているだけかもしれません。

相関関係が認められたことは事実ですので、「睡眠状態の検査」は、認知症発症のリスクを推し量るマーカーに加えてもよいのかもしれません。

■レム睡眠への移行を遅らせないために避けるべきこと・注意点
レム睡眠への移行が遅くなってしまう要因はいくつか考えられます。例えば、睡眠薬の利用や、過度の飲酒には注意したほうがいいでしょう。睡眠薬にはさまざまな種類がありますが、ぐっすり眠れる一方でレム睡眠を減らしてしまうような強い睡眠薬を使用し続けていると、アルツハイマー病のリスクが上がる可能性があります。

また、なかなか寝付けないからと、いわゆる「寝酒」が習慣化している方がいるかもしれませんが、飲酒もレム睡眠の遅れをもたらします。強い睡眠薬と同様、認知症予防の観点からもやめたほうがいいでしょう。

さらに、生活環境の乱れや悩み事なども、睡眠の質に影響します。できるところから改善に努め、睡眠の質を上げていきましょう。

▼阿部 和穂プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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