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知っておきたい、日本を代表する三種の蛍の詳しい生態

  • 2025年5月31日
  • ウェザーニューズ

2025/05/31 05:00 ウェザーニュース

日本の初夏の風物詩の代表ともいえる蛍(ホタル)。幻想的な光を放ちながら舞い飛ぶ姿は、古典文学から現代の詩歌や俳句などに至るまで、印象的に描かれてきました。

日本に生息する蛍の種類や特徴などについて、代表的な種であるゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルを中心に、東京ゲンジボタル研究所代表の古河義仁(ふるかわ・よしひと)さんに解説して頂きました。

日本の蛍は全部で51種類、世界では2700種類が生息

日本にはどれくらいの種類の蛍が生息しているのでしょうか。

「世界中に生息している蛍はおよそ2700種類で、日本には現在51種類が生息しているとされています。

ただし、蛍の分類は取り扱いが研究者によって異なったり、存在が確認されなくなったりするなど、種類の数が変動しているのが実情です。

DNAと形態を含めた個体レベルの特徴を見直す必要などもありますので、種類の数や科、種の分類は今後改変される可能性もあります」(古河さん)

日本の蛍には、どんな地域的な分布、生態の違いなどがあるのでしょうか。

「日本の蛍の種類のほとんどは少数ずつ南西諸島に分布していて、北海道、本州、四国、九州では、おおむね9種類が『よく見られる』存在といえます。

蛍のほとんどは陸生で、陸地で一生を過ごします。ゲンジボタルとヘイケボタル、沖縄県の久米島に生息するクメジマボタルの3種類のみ、幼虫が水中で過ごします。水生の蛍は、世界的にも珍しい存在です。

湿地に生息するスジグロボタルは半水生とされ、餌のカワニナを食べるときだけ水中に入り、普段は湿った陸上で過ごしています。

ホタル科の幼虫はすべて発光しますが、成虫になると主に昼間活動して、夜間はほとんど発光しない種も多く存在します」(古河さん)

日本の代表的な3種類の蛍、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルについて、特徴や生態などを教えてください。

(1)ゲンジボタル

「ゲンジボタルは特に日本を代表する蛍といえる存在で、一般的に蛍といえばこの種類を指しています。

体長はオスが15mm、メスが18mm前後で、本州、四国、九州に分布しています。体色は黒で、前胸背板に黒い十字形の紋がある赤斑(せきはん)を有しています。

ゲンジボタルの成虫は、東京では6月中旬から7月下旬にかけて飛び交います。この間に交尾がなされ、メスは水辺のコケなどに卵を産みます。

孵化(ふか)した幼虫は水中に潜り、水深10〜50cm程度の、ある程度の流れがある水中で、主に淡水性巻貝のカワニナを餌(えさ)として成長します。ゲンジボタルの養殖用として輸入されたコモチカワツボが各地に広まっており、これを食べる幼虫が観察されています。

幼虫は翌年の4月中旬頃に岸へ上って土の中に潜り、蛹(さなぎ)になります。約50日間を経たのち、羽化します。

ゲンジボタルの発光で最も興味深いのは、活動最盛期のオスに顕著にみられる、同調したリズムで光る集団同期明滅です。オスのホタルは光りながら飛び回り、川辺の草にいるメスを探します。

その際にオスが発する光の明滅周期が、近年の研究で西日本と東日本とで相当に異なることがわかってきました。いちど光ってから次に光るまでの平均時間は西日本型が約2秒、東日本が約4秒、中部の一部では中間型の3秒の周期といわれています」(古河さん)

(2)ヘイケボタル

「ヘイケボタルの体長はオスが8mm、メスが10mm前後。体色は黒で、前胸背板の赤斑に黒くて太い縦条(じゅうじょう=縦方向の縞模様)があります。

分布エリアは広く、南西諸島を除く日本全域に加えて、千島列島やサハリン(樺太)、朝鮮半島から中国東北部、東シベリアに及びます。

ヘイケボタルの幼虫は、里山の流れがとても穏やかな小川や湿地、水田などに生息しています。もともと陸生で、幼虫が湿地から水中へと生活場所を変化させたと考えられていますが、その時期はわかっていません。

幼虫の餌は地域によって特性が違い、カワニナやタニシのほか、場所によっては死んだオタマジャクシやドジョウ、サワガニやイトミミズ、ツリガネムシなども食べます。

ヘイケボタルの一生は、基本的にゲンジボタルと同じですが、畦(あぜ)の斜表面という不安定な環境で蛹化(ようか)するため、上陸から羽化までの期間が約20日間とゲンジボタルに比べて短くなっています。

配偶行動時の発光パターンは複雑で、オスとメスとの間でさまざまなやり取りを行っています。北海道では発光間隔が約1秒、本州以南では約0.5秒で、間隔の差は気温が影響しているようです。

ヘイケボタルは水田の宅地化で生息場所が失われている他、耕作放棄などによって湿地化した生息場所も、いずれは乾燥して陸地化する可能性がありますので、ゲンジボタルよりも早く絶滅してしまうかもしれません」(古河さん)

(3)ヒメボタル

「ヒメボタルは本州、四国、九州の海抜数メートルから標高1,700mまで分布しており、人里離れた山奥だけでなく、市街地近くの林に生息している地域もあります。

体色は黒で前胸部には赤斑と、黒褐色の半円形があります。赤斑の形は地域ごと、同じ地域でも個体により異なっている場合があります。幼虫も陸上で生活する陸生です。

神奈川県の箱根付近を境として、東日本には大型、西日本には大型と小型が分布しています。大型でもゲンジボタルやヘイケボタルより一回り小さく、体長はオスが9mm、メスが6mm前後しかありません。

メスはオスに比べてずんぐりしていて、他の蛍と違ってオスより小さく、後翅(こうし=2対の羽根のうち後方の一対)が退化していて、飛ぶことができません」(古河さん)

「ヒメボタルはオス、メスともに腹部に黄白色の発光器をもち、黄金色のフラッシュ光の点滅が特徴です。発光するオスの数が増えるにつれ、ばらばらだった光の明滅がそろってきます。

発光は0.7〜1秒間隔で、発光時間は地域により違いがあります。東北地方のヒメボタルは発光時間が長いため、写真では点でなく、少し尾を引いたように写ります。

ゲンジボタルのように南から徐々に北上する『ホタル前線』の傾向はみられません。

活動時間は地域により大きく違い、日没30分後頃から発光を始めて21〜22時頃まで活動する場所と、23〜24時頃から発光活動を始める“深夜型”の個体もいます。深夜になってから光る場所では、生息していることが知られていない場合も多いです。

ヒメボタルは『森のホタル』とも呼ばれますが、実際の生息地は雑木林、竹林、ブナ林、河川敷などさまざまです。全国的に見れば、ゲンジボタルやヘイケボタルよりも身近なホタルかもしれません」(古河さん)

温暖化による豪雨や渇水で蛍の幼虫やカワニナに回復不能の被害も

地球温暖化が蛍の生態に、何らかの悪影響を与えているのでしょうか。

「気温の上昇が蛍の生態に直接的な悪影響を与えているとは考えられません。ただし、近年頻繁にみられる台風の大型化やヒートアイランド現象による集中豪雨で、多くの蛍の幼虫やカワニナに回復の見込みがないほどの被害がもたらされています。

逆に渇水で湧水が枯れてしまったり、水量の減少による水質悪化や水温上昇が発生したりして、幼虫やカワニナが死んでしまうという事象も起きています。

私たち一人ひとりの温暖化防止行動の積み重ねが自然環境を保全することになり、結果として蛍の保護にもつながるのです」(古河さん)

蛍が乱舞するピークが東日本にも近づいてきました。蛍は光に弱いため、懐中電灯やフラッシュなどは使わず、静かに蛍の観察を楽しむようにしましょう。

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