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コーヒーで旅する日本/九州編|自分にとってなにが一番豊かなのか。考え、悩みたどり着いたありのまま。「nageia coffee」

  • 2025年6月2日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。

なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

不定期でコンサートなども行っている
不定期でコンサートなども行っている

今回、Cafe一雨からバトンを繋いでもらった「nageia coffee」。実は以前、本連載でも紹介した熊本市のCOFFEE BLUEの店主・木下さんに「大分県竹田市にステキなロースタリーがあるので、もしお近くに寄られた際には」とおすすめされていた。

駅のそばにあり、城下町の散策前に立ち寄るのにぴったり
駅のそばにあり、城下町の散策前に立ち寄るのにぴったり

レコメンドしてくれたCafe一雨も、COFFEE BLUEも、ともに静かで穏やかな空気感をまとったコーヒーショップであり、かつ「nageia coffee」は竹田市という自然豊かな町に店を構えていることから、きっと喧騒とは無縁のコーヒーショップだろうと想像していた。

屋号は“梛(なぎ)”という植物の学名で、海で風や波が穏やかな状態を指す“凪(なぎ)”にも通じる。

JR豊後竹田駅の目と鼻の先。竹田の城下町に新しくも優しい風を吹き込んでいる「nageia coffee」の魅力に触れてみたい。

店主の志賀翔太さん
店主の志賀翔太さん

Profile|志賀翔太(しが・しょうた)
大分県久住町生まれ。高校卒業後、農機具メーカーに就職。地元や大分市内などで働く中で、結婚。少しずつ日々のライフスタイルが変わっていく中で、自分が本当にしたいことは?と自問し、飲食の道へ。その後、コーヒーのおもしろさに開眼。大分市のロースタリーで働いた後、2020年10月に「nageia coffee」を開業。

■高原を吹き抜ける穏やかな風のような
店ではハンドドリップとエアロプレスで抽出
店ではハンドドリップとエアロプレスで抽出

デスクワークのお供にコーヒーをたっぷり注いだマグカップ、登山やキャンプなどアウトドアでの休息で湯を注ぐだけと手軽なドリップバッグ、移動中に車内で飲むコンビニコーヒーや缶コーヒー。種類、淹れ方、シチュエーションもバラバラだが、コーヒーを飲む行為という点では同じ。ただ、コーヒーは飲む環境や時間、誰と、といった要素で味わいの感じ方が変わる飲み物だと思う。

一杯一杯、丁寧にドリップ
一杯一杯、丁寧にドリップ

そういった意味で「nageia coffee」で飲む一杯のコーヒーは、心を落ち着かせ、穏やかな気持ちにさせてくれる。その一番の理由は、店主の志賀翔太さんが醸し出す雰囲気。落ち着いたたたずまいで物静かだが、会話をすると言葉の端々に凛とした人柄が垣間見える。一つひとつの言葉に深みがあり、話していて不思議と穏やかな気持ちになった。

志賀さんは大分県久住町生まれ。くじゅう連山、久住高原に代表される高地に位置する町で、冬は九州では珍しく日常的に積雪するほど。幼少期から自然豊かな小さな山村でのびのびと暮らした。

高校卒業後は農機具メーカーに就職し、作曲家としても活躍する佐賀県出身の小由実さんと結婚。暮らしの本質的な豊かさを大切にする彼女と一緒に暮らす中で「本当に自分がやりたいことってなんだろう」と考えるように。

「漠然と飲食店をやってみたいと考えていて、転職を決意しました。いろいろ経験する中で、家で豆から挽いて、ハンドドリップして日々コーヒーを楽しむ妻の影響もあって、コーヒーに強くひかれたんです」

シングルオリジンをメインに、ブレンドも1種用意。焙煎度合いは浅煎りが多い。「なるべく同じ生産者さんの豆を取り扱いたい」と志賀さん
シングルオリジンをメインに、ブレンドも1種用意。焙煎度合いは浅煎りが多い。「なるべく同じ生産者さんの豆を取り扱いたい」と志賀さん

当時、大分市に住んでいた志賀さん。いまや大分のスペシャルティコーヒーを代表するロースタリー、スリーシダーズコーヒーが西大分にオープンし、そこで飲んだエチオピアのコーヒーに衝撃を受けた。

「確かプロセスはウォッシュドだったと思うのですが、ジンジャーやレモンのような華やかな香りで。その出会いがあって、もっとコーヒーのことを勉強したい、おいしいコーヒーを淹れられるようになりたいと思い、スリーシダーズコーヒーで働かせていただきたいと考えました」

悩んだ日々があったからこそ、今はちゃんと心の豊かさを大切にしたいと考えられるようになった
悩んだ日々があったからこそ、今はちゃんと心の豊かさを大切にしたいと考えられるようになった

その当時から近い将来、ロースターとして独立したいと考えており、開業資金を貯めるために夜はホテルでダブルワーク。志賀さんは苦笑いで当時をこう振り返る。

「お恥ずかしい話しですが、当時はすごく焦っていました。30歳を過ぎて転職を決意して、コーヒーの世界に入ったのは32、33歳。将来的に独立することを考えると、遅すぎたと考えていました。そんな時にコロナ禍になり、ダブルワークで入っていたホテルの仕事がなくなって。1日でも早く焙煎のスキルを身に付けたいと考え、まだ早いとはわかっていましたが焙煎に挑戦させてもらいました。もちろん店の商品のローストはできませんので、あくまで自身の勉強のために焼き始めました」と志賀さん。

コロナ禍というだれも予想できない状況下、焦燥感があったのは非常にわかる。きっと、なにかアクションを起こさないと、少しでも前進しないとと誰しも思うはずだ。裏を返せばそれだけコーヒーに対して本気で取り組みたいと思っていたということ。そこからは、志賀さんは自身の素直な声を大切にすることにした。
■便利さよりも、豊かさを大切に
スリーシダーズコーヒーで2年ほど働き、志賀さんは奥さんの小由実さんとも相談し、生家がある久住町にUターンすることを決めた。

ハンドドリップで淹れたコーヒー(600円〜)。ミルク系ビバレッジはエアロプレスで濃く抽出
ハンドドリップで淹れたコーヒー(600円〜)。ミルク系ビバレッジはエアロプレスで濃く抽出

「コーヒーの店をやるなら昔から住み慣れた久住町を拠点にしたいと考えました。市街に暮らすことは、便利ではあるのですがどこか息が詰まると感じていて。自分にとって何が一番心地よくて、豊かな暮らしができるかを考えてみると、やっぱり心が休まる環境で大切な人と暮らすことが一番大切だと感じたんです。私のように久住町や竹田市で暮らすことを選ばれた方々にとって、当店のコーヒーがほんの少しでも豊かさの一助になれたら。そんな気持ちで竹田市に『nageia coffee』を開きました」

空き地の店舗も、1回目の移転の古民家も、現店舗もすべて竹田の城下町にて
空き地の店舗も、1回目の移転の古民家も、現店舗もすべて竹田の城下町にて

オープンしたのは2020年10月。まだまだ世間はコロナ禍にあったこと、実店舗を持つには準備が足りなかったこともあり、ポップアップ的な屋台店舗からスタート。現在店がある同じ竹田城下町エリアの空き地で店を開いた。背伸びをしない、自分たちのサイズ感での開業。この無理のないスタートを切ったのが、本来の志賀さんらしさだと感じた。天候にも左右される屋外という環境は時に難しくもあるが、その厳しさ、不便ささえ楽しみ、慈しむ。志賀さんが市街地ではなく、竹田市という山間の小さな町に店を開いたのはそんな理由もあってのことだと感じる。

■飾らず、背伸びせず、自然体で
空き地での屋台営業を経て、同じ竹田市の古民家に移転。そして2023年3月、現在の店舗となった。屋外から古民家、そして現地と、店舗は少しずつ広くなり、環境は整ってきたが、今の店舗には小さなイスとテーブル、そしてピアノ以外、余計なものはほとんど置かれていない。

【写真】外のベンチに腰掛けてコーヒーを飲むのも気持ちいい
【写真】外のベンチに腰掛けてコーヒーを飲むのも気持ちいい

「装飾はできるだけせず、空間としての余白や隙間は大事にしたい」と志賀さん。
その独特な感覚はコーヒーのラインナップにも見てとれる。生産国は中南米やアフリカが中心。プロセスはウォッシュトやナチュラルといったトラディショナルなものがほとんどなのは、日常的に飲める味わいで、暮らしに溶け込むコーヒーでありたいからというのが理由。この素朴な考え方も、自然体を大切にする志賀さんらしい。

オレクトロニカが手掛けた店舗の完成イメージ模型。「近い将来焙煎機も据えたい」と志賀さん
オレクトロニカが手掛けた店舗の完成イメージ模型。「近い将来焙煎機も据えたい」と志賀さん

店があるのはJR豊後竹田駅の目と鼻の先のFORESTという複合施設で、もともと農機具等を扱う店舗をフルリノベーションしている。同じ施設内にギャラリーを構えるオレクトロニカという2人組の美術ユニットが「nageia coffee」の店舗デザインをしており、シンプルながらところどころにアーティスティックな要素が垣間見える。

奥さんは古賀小由実名義でアーティストとして活動。店で流れる楽曲を収録したアルバム「nagi」は店頭でも販売
奥さんは古賀小由実名義でアーティストとして活動。店で流れる楽曲を収録したアルバム「nagi」は店頭でも販売

そしてそんなステキな空間に流れる、小由実さんが手掛けたインストゥルメンタル。「nagi」というアルバムで、すべて小由実さんの祖父母の家にあった古いピアノを使って録音されたそうだ。

奥さんのInstagram(@sayumin530)にはこう綴られていた。

「夫のお店nageia coffeeの店内に、こんな音があったらいいなあ。と想像して。
コーヒーの香り、雨の音、おしゃべりの声、季節の匂い
聴く人の日常のふとした間(ま)に柔らかく漂うような、音のインテリアのような。
そんなイメージで1年半、録音を重ねました」

心癒やされるコーヒー体験
心癒やされるコーヒー体験

このピアノの調べがまた「nageia coffee」にとてもしっくりくる。心を落ち着かせ、穏やかな気持ちにさせてくれるBGM、空間、そしてコーヒー。
なにも考えず、ただただ“ありたいようにあれる”時間が「nageia coffee」には流れている。

■志賀さんレコメンドのコーヒーショップは「SAFARI COFFEE ROASTER」
「大分県大分市にある『SAFARI COFFEE ROASTER』さんは、大分にスペシャルティコーヒーを広めてきた一店です。オーナーロースターの秋吉さんは熱い人で、どのコーヒーを飲んでもこだわりや情熱を感じられると思います」(志賀さん)

【nageia coffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT UG22(シェアロースト)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60)、エアロプレス
●焙煎度合い/浅煎り〜中煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/200グラム2100円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=坂元俊満(To.Do:Photo)

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