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コーヒーで旅する日本/関東編|危うさをはらみ、混迷を極めているから。「堀口珈琲」が目指すのは日本のスペシャルティコーヒーの基準

  • 2025年5月28日
  • Walkerplus

刺激にあふれていて、常に先端のモノ・コトが集まっている、日本一の大都市・東京。また、東京近郊の街にもそれぞれに個性があり、その分だけ衣食住を彩る店も多数。コーヒーショップも然りだ。
「暮らしやすい街にはいいコーヒー屋さんがある」
そのことを実感できるコーヒーのバトンリレーの旅へ。

2013年のリブランディングを機に、広くその名が知られるようになった
2013年のリブランディングを機に、広くその名が知られるようになった

コーヒー好きなら一度は耳にしたことがあるであろう「堀口珈琲」。コーヒーは嗜好品ゆえに好き嫌いは分かれるものだが、はっきりと言えるのは同店がコーヒー業界で唯一無二な存在であるということ。

「最高の一杯は最高の素材から始まる」という考えに則ってコーヒーと向き合う
「最高の一杯は最高の素材から始まる」という考えに則ってコーヒーと向き合う

創業は1990年。喫茶店ブームが落ち着き、より多様性のあるカフェブームへと移行していた時期で、“自家焙煎”を謳った喫茶店も多かった。その中で喫茶ではなく、豆売りをメインに「珈琲工房ホリグチ」の名で開業。喫茶店との線引きを明確にするために“ビーンズショップ”と独自にカテゴライズしていたというエピソードも当時から“我が道を行く”同店らしい。

焙煎前後に色差選別機でチェックするが、最終的には人の手でソーティング
焙煎前後に色差選別機でチェックするが、最終的には人の手でソーティング

生豆の品質の良し悪しを重視してきた「堀口珈琲」はスペシャルティコーヒーを普及させた先駆けとして広く知られ、ロースター企業としてその自負もある。

2023年に催されたスペシャルティコーヒーのイベント・SCAJ2023に10年ぶりに出展し、2024年も続けて出展。2年連続でブースを設けたのは「スペシャルティコーヒーってなんだろう?」ということを改めて発信し、考えてもらう機会とするため。

スペシャルティコーヒーという言葉が市民権を得て10年以上が経った今。連載初回となる今回「堀口珈琲」を通して、コーヒーの未来を見ていきたい。

代表取締役社長の若林恭史さん
代表取締役社長の若林恭史さん

Profile|若林恭史(わかばやし・たかし)
埼玉県生まれ。1999年に堀口珈琲のコーヒーセミナーを受講したのを機に、2005年に堀口珈琲に入社。上原店の立上げを担当以降、焙煎・ブレンド作り・生豆バイヤーとして経験を積む。生豆調達部門、焙煎豆製造、流通部門の統括者を経て、2020年7月に代表取締役社長に就任。

■ブレない芯を持ち続ける
足を運んだのは横浜市の臨港地区に2019年に新設された「横浜ロースタリー」。現社長の若林恭史さんが出迎えてくれた。

生豆の現地調達・輸送手段の手配も若林さんの大切な仕事
生豆の現地調達・輸送手段の手配も若林さんの大切な仕事

焙煎所にはフジローヤルの直火式20キロ釜が2基据えられ、日曜日を除き、ほぼ毎日焙煎を行っている。個人が始めたロースタリーでここまでの量を焙煎しているところは全国的に見てもほとんどない。つまりそれだけたくさんのファンがいるということだ。

定温倉庫から近いという理由もあって臨港地区に新設された横浜ロースタリー
定温倉庫から近いという理由もあって臨港地区に新設された横浜ロースタリー

まず特徴的なのは、焙煎度は浅煎りから深煎りまで幅広く、ブレンドが主力商品であること。もちろん商品としてシングルオリジンもあり、「シングルオリジンならではのおもしろさは当然ある」と若林さん。一方でこう続ける。

「シングルオリジンのみだと、おいしさ、表現といった価値づくりを、すべて産地に丸投げすることにならないだろうか、と考えました。せっかくロースターをやっているんだったら、焙煎はもちろんブレンドすることで、自分たちなりの価値を創出していくべき」

その考えから生まれたブレンドは3つのシリーズに分かれており、中でも定番なのがCLASSICシリーズ。浅煎りから深煎りまで、#1〜#9を準備し、いつでも同じ味わいを楽しめるというコンセプトを掲げている。

2013年にリブランディングする以前はもっと数が多かったそうで、ブレンドを飲めば「堀口珈琲」が考えるスペシャルティコーヒーらしさを随所に感じることができる。

【写真】シリンダからバーナーの距離を遠ざけるといったカスタムが施された2台の焙煎機。2025年秋頃にフジローヤルの新焙煎機も導入予定
【写真】シリンダからバーナーの距離を遠ざけるといったカスタムが施された2台の焙煎機。2025年秋頃にフジローヤルの新焙煎機も導入予定

焙煎は前述したようにレンジが広い。

「おいしいコーヒーを追求していくうえで、深煎りがよい、浅いが正解といった考えは一切持っていません。私たちはよく“取り出す焙煎”という表現をしますが、焙煎とはその生豆が秘めている味わい(香り・味・テクスチャー)を取り出す作業。生豆それぞれで“取り出す”のに適した焙煎度があり、そこにアジャストしているだけ。例えば、どの産地も品種も浅煎りのみで提案していくのは、ある意味で比較テイスティングしやすくておもしろさもあると思うのですが、裏を返せば原材料のテイスティングでしかない。ロースターの仕事は飲み手にただ原材料を比較させるのではなく、一杯のコーヒーのおいしさとしてどう伝えるかが本質」

粒が美しくそろった焙煎豆
粒が美しくそろった焙煎豆

それぞれの原料に適した、よい火の入れ加減を考え、適した味わいを“取り出す”。これがロースターの仕事という考えだ。
■最高の素材を探求し続けた35年
「堀口珈琲」の現会長の堀口さんは1990年代後半、さまざまな商社・問屋から仕入れた生豆を焙煎し、独自に評価し、それをインターネット上で情報として発信するということを行っていた。そういった取り組みの中で、おいしい、おいしくないは原材料が大きく左右することを実感。当然、おいしいコーヒーを作るためには、品質の良い生豆を手に入れる必要がある。

スペシャルティコーヒーの前提条件はクリーンであると考えている
スペシャルティコーヒーの前提条件はクリーンであると考えている

その考えから自ら産地へ足を運び、よい生豆を選ぶ方法にシフト。これが現在の「堀口珈琲」のおいしさの原点だ。これを20年以上前から続けており、しかも長期的に付き合うことを前提としている。

どういった製品に仕上げられる可能性があるか、という視点でカッピング
どういった製品に仕上げられる可能性があるか、という視点でカッピング

「テイスティングし、ポテンシャルの有無を見極めるのをはじめ、長くお付き合いできるかどうかも、生豆を買い付けるうえでの大切な判断材料です」と若林さん。

20年、15年、10年と付き合いがある生産者がほとんどで、それだけの付き合いがあるからこそ信頼関係も構築され、よりよい原材料が手に入るという構図もできあがるわけだ。一方でコーヒーチェリーはあくまでも農作物のため、天候などその年の状況で品質の良し悪しは必ず出てくるはず。

生豆の水分量をロットごとに計測し、記録。生豆の温度管理から徹底している
生豆の水分量をロットごとに計測し、記録。生豆の温度管理から徹底している

「私たちが考える品質の最低ラインを下回ったら、仕入れないというルールを設けています。ただ、おいしさは白か黒かで判断できるものではなく、グラデーションです。例えば昨年より品質がよくないというケースがあった場合、まず理由を尋ねます。もしくは生産者さんが例年よりよくない理由を事前に伝えてくることもある。彼らの怠慢ではなく、不可抗力で品質低下が起こる場合は当然あって、そんな時は理由を理解したうえで、味わいをジャッジします。なかにはその状況下でクオリティを維持したのは素晴らしい努力と判断できる場合もある。密に長い関係性があるからこそ、彼らの努力に対して、生豆を買うことで評価したいんです」
シンプルで当たり前のことだが、信頼関係とはこうやって生み出される。

■日本のコーヒーの指標になる
さらに品質のよい生豆を買い付けるためには、バイイングパワーが重要になってくる。個人経営の街の小さなロースタリー1店舗では消費できる量に限りがあり、買い付けに必要な最小ロットに届かない。そこで初期の段階でスペシャルティコーヒーを日本に持ち込んだマイクロロースターたちは買い付けグループを作り、共同買い付けを行うのが一般的だった。

横浜ロースタリーは生豆の温度管理や清潔度に応じたゾーニングを徹底
横浜ロースタリーは生豆の温度管理や清潔度に応じたゾーニングを徹底

「堀口珈琲」でも2000年代初頭にリーディングコーヒーファミリー(LCF)というグループを立ち上げ。当初は仲間を募るだけでなく、開業支援を行い加入者を増やしていた。現在LCFに加盟している店舗は全国に120余り。

買い付けた生豆は当然「堀口珈琲」とLCFメンバーに分配されるためのものだが、「構想段階ですが、メンバー以外にも広く生豆を提供できる仕組みが作れたら」と、若林さんは将来のビジョンを語る。その言葉の裏側に「スペシャルティコーヒーってなんだろう?」を投げかける同店の思いが垣間見えた。

色づきの悪い豆や焦げている焙煎豆を選別機で排除
色づきの悪い豆や焦げている焙煎豆を選別機で排除

若林さんは「おこがましいかもしれませんが」と前置いたうえで、こう話す。

「気候変動などの影響を受け、コーヒーは高価なものになっていくでしょうし、現在のような高品質な生豆が手に入りづらくなる可能性は大いに考えられる。そういった中で、スペシャルティコーヒーと謳って商売する以上、しっかり最低限の品質は担保していくのは私たちの義務ではないでしょうか。そう考えた時に多くの業界人にとって、コーヒーのベンチマークになれるようなロースターでいたいと考えています。『堀口珈琲』の味わいが好きか嫌いかは一旦置いておいて、当店のコーヒーを飲んでみて、生豆を使ってみて『堀口珈琲はちゃんとしている。このレベルを目指したい』と思われるような存在でいたい。その積み重ねはきっと日本のコーヒーのベースの底上げになると考えています」

1階中央部がガラス張りになっており、要予約で見学会も実施している
1階中央部がガラス張りになっており、要予約で見学会も実施している

日本のコーヒーの指標(ベンチマーク)となる。これは言葉を選ばずに言うと、日本におけるスペシャルティコーヒーの基準になるという宣言だ。

コーヒーは多様でいい、これは豆の個性だ、風味特性だ、多様性こそがスペシャルティの魅力なんだから、いろいろなコーヒーがあっていい。今まで、そんな言葉ですべてを片付けていたかもしれない。

でも「堀口珈琲」の考えは「それではいけない」だ。ちゃんと品質は維持しよう、スペシャルティコーヒーと謳うなら、最低限のクオリティは意識しよう。

これは「その指標になれるよう、これからも品質管理をますます徹底していく」という「堀口珈琲」の意思表明。

公式サイトの横浜ロースタリーページで品質管理、焙煎のこだわりをわかりやすく紹介
公式サイトの横浜ロースタリーページで品質管理、焙煎のこだわりをわかりやすく紹介

「堀口珈琲」は、「もしかしたらネガティブな風味さえも特徴、個性と一緒くたにしていませんか?」と問うている。

それは「スペシャルティコーヒーという言葉を便利に使っていませんか?」という意味にも聞こえた。

次回は創業店でもある「堀口珈琲 世田谷店」を紹介。コーヒーはもちろん自家製ケーキ、季節替りのパフェなどスイーツも充実する喫茶スタイルの店舗で、もちろん豆売りも。「堀口珈琲」の魅力に触れる入口に最適だ。

【堀口珈琲(横浜ロースタリー)のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式20キロ 2基
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り

取材・文/諫山力(knot)
撮影/大野博之(FAKE.)

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