
「赤いガンダム」 / (C)創通・サンライズ
『ガンダム』シリーズを手がけてきたサンライズと、『エヴァンゲリオン』シリーズで知られるスタジオカラーが初めてタッグを組んだ話題作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下、ジークアクス)。その第3話「クランバトルのマチュ」が、2025年4月22日に放送された。X(旧Twitter)では「ミライさん」「愛媛みかん」といった関連ワードがトレンド入りし、大きな話題を呼んでいた。
■ジークアクスが「初代ガンダム」を次世代に繋げる萌芽に
2025年1月17日に劇場版が公開されて以降、ジークアクスは「ガンダム」と馴染みの薄かった層、特に令和世代の若者たちのあいだで意外な波紋を広げている。SNSでは“初代ガンダム”の視聴を始めたという投稿が相次ぎ、1979年刊行の富野由悠季監督による小説版『機動戦士ガンダム』が重版されるなど、シリーズ原点への“原典探訪”の動きが熱を帯びている。
2025年4月8日より放送中!TVシリーズ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』 / (C)創通・サンライズ
これは単なる懐古ではない。ネットミームや“緑のおじさん”ことシャリア・ブルとシャア・アズナブルの“原典探訪”、そして物語の奥深さに触れて再評価する姿勢、それはまさに“令和的な作品の味わい方”である。ジークアクスを起点とした“過去作視聴”の動きは、ガンダムというIPを次世代に繋げていくための萌芽となるはずだ。
今回は、その現象を象徴する存在として、イラスト投稿をきっかけに初代ガンダムへとハマった令和世代の絵師見習い・たぬきちさんにインタビューを実施。作品に触れるまでの経緯からSNSでの反響、そして“今だからこそ響いた”ファーストの魅力について語ってもらった。
■「ガンダム、見てなかったんです」きっかけは劇場版鑑賞とSNS
「もともとガンダムには全然興味なかったんです」。そう語るたぬきちさんがXを始めたのは、劇場版『ジークアクス』の公開を控えた2024年、イラストの練習を目的としてだった。
映画『ルックバック』に刺激を受け、Xで絵師やイラストレーターをフォローしていた彼女が出会ったのが、『ストリートファイターII』『∀ガンダム』のキャラデザインや、『コードギアス』『Gのレコンギスタ』のロボデザインを担当し、近年では美少女プラモデルシリーズ『GODZ ORDER』も手がけるデザイナー・あきまん(安田朗)さんだった。
「配信でガンダムの話題がよく出ていて、私も話についていきたくて……それで“履修”することにしたんです」
実は『Zガンダム』や『ZZ』といったシリーズも“つまみ食い”していたが、なかなかハマれなかったという。そんな中、父からの誘いとX界隈での盛り上がりを受けて、『ジークアクス』を劇場で観ることにした。
「シャアとアムロくらいしか知らない状態で観に行きました。映画は面白かったんですが、周囲が語るほどの“衝撃”までは感じられなかった。それが、ちょっと悔しくて(笑)」
■“視聴の壁”を越えた瞬間「え、これめっちゃ面白いじゃん!」
その“悔しさ”をきっかけに、たぬきちさんは改めて初代『機動戦士ガンダム』のアニメ版を視聴し始めた。いわゆる“ファーストガンダム”と呼ばれるシリーズだ。
「最初は“作画が古いな”“ちょっと不安定かも”って思っていたんですが、見ていくうちに『こいつ、動くぞ』『当たらなければどうということはない』『二度もぶったね』……。聞いたことのあるセリフが次々に出てきて、ネットミームの元ネタが連続で登場する感じが面白くて(笑)」
名セリフのインパクト、テンポの良さ、キャラクターの個性、「めちゃ殴る」当時の空気感を感じさせる演出に時代を感じながらも、それが逆に新鮮だったという。スレッガー中尉の“波止場ポーズ”に笑い、ミハルの死をきっかけに変わっていくカイ・シデンの成長に心を打たれた。
「キャラで好きなのはシャアとカイさん。機体で好きなのはアッガイ。かわいいですね(笑)。アムロは最初イジイジしていた印象ですけど、もう終盤になってくるとまさに化物か!みたいに進化してますね。そういう成長が見える部分も好きです」
こうした初代視聴の動きはたぬきちさんだけでない。SNS上では『ジークアクス』をきっかけに初代ガンダムを視聴し始めた新規勢たちの声が数多く見受けられる。
「先日ガンダム未履修ながらジークアクスを観に行ってきたら面白かったので初代ガンダムを見始めて40話で観たところです」(@skchkko)
「ジークアクス上映後に見始めたファースト43話完走した感想は、絵が古くてもシナリオが面白いからどんどん引き込まれてしまった このままZも見ていく」(@yoikono_ofuro)
これらの声からも、『ジークアクス』が新たな視聴者層に初代ガンダムへの興味を喚起し、“視聴の壁”を越えさせるきっかけとなっていることが伺える。
■「父とアニメの話をすると…すごく話が長いんです(笑)」アニメで繋がる令和の親子
「ビデオ戦争」お父さん世代がビデオの規格を語りだすと止まらない? / たぬきちさん(@Tanukichi_mingo)
たぬきちさんは「1日30分ずつ初代を見る」と決めて、Xで感想やイラストを発信し続けた。その結果、フォロワー数は約3000人増加。SNS上での反響は、ただの“いいね”にとどまらない広がりを見せた。
とくに象徴的だったのは、『パトレイバー』などで知られる漫画家・ゆうきまさみさんが、たぬきちさんのポストに「たぬきちさんのガンダムの感想が楽しい」と反応したことだ。プロのクリエイターまでもが共鳴する現象が起きている。
「“感想楽しみにしてるよ”“イラストすごくいいね”って声をいただくのが本当にうれしくて。上の世代の方とも共通の話題ができて、会話が広がるのが楽しいですね」
ちなみに、たぬきちさんの父親もかなりの“元オタク”だという。自宅には漫画が「100万冊ある(らしい)」という冗談が飛び出すほど。ガンダムにもかなり詳しいそうだが、実は親子でガンダムトークを交わすことはあまりない。
「父と話すと、知らない単語がいっぱい出てきて……すごく話が長いんです(笑)。ちょっと面倒で、あまりガンダムの話はしないようにしてます」
それでも、『ジークアクス』をきっかけに親子で映画館に足を運ぶなど、リアルとSNSをまたいで“世代を越えて繋がる”体験が、彼女の日常の中に生まれている。
一方で、リアルな生活圏では“ガンダムを語れる同世代”がなかなか見つからないという課題も感じている。
「私みたいに絵師さんを探していてガンダムに触れたり、親に誘われて観に行く機会でもなければ、そもそも興味を持つきっかけすらないのかもしれません。だからこそ、Xで“ガンダム初心者さん”を探して、語り合える相手を見つけるようにしてるんです」
■「もしも」の物語が導いた“原典探訪”という功績
新旧ファンを繋ぐ「ジークアクス 」の役割とは? / たぬきちさん(@Tanukichi_mingo)
『ジークアクス』は、「もしもガンダムがこうだったら?」という視点で描かれるIF(仮想)作品でありながら、結果的に令和世代の新規層を“原点=初代ガンダム”へと導く導線を担っている。これは、シリーズの歴史においても稀有な現象だ。
これまで初代『機動戦士ガンダム』は、「作画の古さ」「昭和の時代感覚」「設定の複雑さ」という三重のハードルによって、新規ファンから敬遠されがちだった。しかし、『ジークアクス』はその壁をあえて乗り越えようとはしなかった。むしろ、“言葉足らずな演出”や“語られない関係性”を散りばめることで、観る者の知的欲求を自然と生ませる構造になっている。
たとえば、シャアとシャリア・ブルの関係性を知りたいと思ったとき、答えは現時点の『ジークアクス』の中にはない。世界観や人物背景の断片に触れた視聴者は、「元ネタを知りたい」「原典を見て確かめたい」というモチベーションを抱くことになる。実際にその流れは数字としても顕著に表れ、シャリア・ブルとシャアの関係性がより深く描かれた小説版『機動戦士ガンダム』が重版されるなど、“原典”への関心が可視化されている。
そこにこそ、本作の真の功績がある。
「IFから入って、原典にたどり着く」という、かつてなかったその視聴動線を創出した『ジークアクス』は、令和の時代において“ガンダムという作品”と新規層を繋ぐ、極めて戦略的かつ意欲的な試みなのではないだろうか。
(C)創通・サンライズ
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