醤油の“鮮度”に着目!世界初の「鮮度保持容器」を生み出したヤマサ醤油の挑戦とは?

  • 2025年4月28日
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日本の基礎調味料である醤油。多くの家庭に常備され、煮る・焼くなどの料理に使ったり、刺身につけたり豆腐にかけたりしているおなじみの調味料だ。その醤油が2010年ごろからとある変化を遂げていることはご存知だろうか。

それまで醤油といえば、びんやペットボトルで1リットルに近い容量での販売が中心で、購入した醤油は醤油さしに移し替えて食卓に並んでいた。しかし、昨今は300ミリリットルほどの鮮度保持ボトルで販売されるのがスタンダード。そんな容器の変化のきっかけとなったのが“醤油の鮮度”だ。

“醤油の鮮度”とは何を指すのか、鮮度保持が可能な容器の開発にはどのような工夫や苦労があったのか。“鮮度”にフォーカスを当て、世界初の「鮮度保持容器」を開発したヤマサ醤油株式会社(以下、ヤマサ醤油) マーケティング部宣伝広報室の西谷綾さんに話を聞いた。
日本食になくてはならない醤油。ヤマサ醤油が提唱した“醤油の鮮度”とは?
日本食になくてはならない醤油。ヤマサ醤油が提唱した“醤油の鮮度”とは?


■時代の移り変わりによって醤油の容器も変化
日本人の食文化と共にある醤油の由来には諸説あり、最古のルーツとして考えられているのが、中国発祥の塩漬けした発酵食品「醤」(ひしお)だ。

「鎌倉時代、禅宗の僧侶の覚心が中国の径山寺(きんざんじ)で修行を終え、紀州で『径山寺味噌』を伝えたことが、日本における醤油の誕生のきっかけと言われています。江戸時代には、関東では寿司や蕎麦などの食文化により濃口醤油が、京都を中心としただし文化の関西では色の薄い薄口醤油が発展しました。そのほかにも、たまり醤油や白醤油、再仕込み醤油といった醤油が日本各地で親しまれています」
醤油は原料を混ぜ合わせれば出来上がるわけではなく、麹菌の酵素により発酵と熟成が進み、醤油の色や香りが生まれる
醤油は原料を混ぜ合わせれば出来上がるわけではなく、麹菌の酵素により発酵と熟成が進み、醤油の色や香りが生まれる

ヤマサ醤油の工場。実際に醤油づくりに使用されていた大桶が設置されており、迫力がある
ヤマサ醤油の工場。実際に醤油づくりに使用されていた大桶が設置されており、迫力がある


では、今回の疑問点でもある容器についてはどのような変化を遂げてきたのだろうか。元来、醤油の容器には木の樽や陶器の壺、竹筒にびんといった容器が活用されてきた。量り売りが中心となっていた時代で、各家庭から容器を持ち寄って商人から醤油を入れてもらうという方式だったため、容器は多種多様だった。

「容器の変化は売り方の変化でもありました。室町時代には一定の規格で醤油が販売されるようになり、当時使用されたのは木の樽で、この方式は大正時代まで続きました。その後、ガラスびんが普及すると木の樽は姿を消し、長らく醤油はびんで販売されるようになりました」
木樽での販売もされていた
木樽での販売もされていた


1970年代になると、軽くて利便性も高いペットボトルが用いられるようになった。そんななか、2010年にヤマサ醤油から「鮮度保持容器」が登場。ヤマサ醤油の生み出した「鮮度保持容器」が、それまで見過ごされていた醤油の鮮度への注目を集めるきっかけとなった。

■ヤマサ醤油が着目した“醤油の鮮度”
それまで一般的ではなく、問題意識も持たれていなかった醤油の鮮度。ヤマサ醤油はこれに着目して、よりおいしく食事を楽しめるように鮮度保持の課題に取り組むことにした。

「そもそも“鮮度のよい醤油”とは、赤みがかった褐色、華やかな香り、キレのある味わいといったできたての醤油が本来持っているものを指します。醤油は、空気、光、温度に弱く、1カ月ほど常温のペットボトル容器で保管していると、酸化が進んで色は黒くなり、香りは薄れて味にも変化が出てしまうのです」
時間経過による変色は、醤油において当たり前とされていた
時間経過による変色は、醤油において当たり前とされていた


2009年に発売した「鮮度の一滴」は、鮮度が落ちる要因である空気に触れない構造のパウチ型の容器を採用(現在は販売終了)。容器全体が二重構造になっており、空気の接触を最小限にしている。特殊な注ぎ口により、何度注いでも空気を入れず醤油の酸化を防ぐ、世界初の容器設計だという。
【画像】醤油の鮮度を保つために開発されたパウチ型の「鮮度の一滴 特選しょうゆ」(現在は販売終了)
【画像】醤油の鮮度を保つために開発されたパウチ型の「鮮度の一滴 特選しょうゆ」(現在は販売終了)


「味のよさと鮮度の重要性に気づいた人が徐々に増え、パウチ型の『鮮度の一滴』はじわじわと売り上げを伸ばしていきました。醤油の鮮度を一般的に認識してもらうきっかけとなった商品だったと思います。ただ、それまでボトル型が中心だったこともあり、『パウチ型が使い慣れない』という声が寄せられたことで、パウチ型と同じ二重構造のボトル型容器を開発することにしました」

この二重構造という仕組みをボトルで再現するため、外側の“持ちやすい硬さ”と内側の“密封性を高める袋の柔らかさ”のバランスに苦労し、開発は難航した。現在では当たり前となっている「鮮度保持容器」は、ヤマサ醤油がペットボトル素材を工夫して作った、持ちやすさと気密性の高さを併せ持つ容器となっている。
コスパや時短、省スペースなど、時代によってニーズも変わるため、容器や内容量もそれに対応している
コスパや時短、省スペースなど、時代によってニーズも変わるため、容器や内容量もそれに対応している

特殊な二重構造によって醤油と空気が直接触れないようになっている
特殊な二重構造によって醤油と空気が直接触れないようになっている


■家族の形の変化も容器に影響
少子高齢化の進む現在の日本は、核家族化したり、単身世帯が増えたりと、家族の形が昔と大きく異なっている。醤油の容器の変化は、そういった時代背景も要因となっているようだ。

「例えば、以前は大きな容量の醤油を購入し、醤油さしなどに移し替えて使うことが多かったのですが、現在は調味料が多様化して、便利な合わせ調味料もたくさんあります。醤油を多く使うシーン自体が減ってきているんですね。そうなると、大きな容量では使い切れないこともあり、食品ロスにつながってしまいます」

そういった要因から、ヤマサ醤油では現在、鮮度を保持しながら程よく使い切れるサイズの商品開発を行っているという。

「近年は醤油の使い方にも変化が起きています。煮物などの調理に使うよりも、醤油を『つけ・かけ』する使い方が中心となっているのです。『鮮度保持容器』は一度に多くの量を出したり、1滴ずつ垂らして使ったりと調整できるので、子どもからご高齢の方まで使いやすくなっています。こうした家族構成や使い方の変化が『鮮度保持容器』とマッチした結果、定着したのではないかと思います」

今後も醤油という調味料をおいしく楽しんでもらうために、使い勝手がよく、環境にも配慮した容器の開発を継続していくとのこと。さらに、2025年で創業380年という老舗だからこその挑戦として、醤油をベースとした新たな調味料のラインナップも追加。さまざまな料理に使える醤油メーカーならではのアイデアを提案し続けている。
「万能クッキングたれ Yummy!」は老舗醤油メーカーだからこそ挑戦した新シリーズ
「万能クッキングたれ Yummy!」は老舗醤油メーカーだからこそ挑戦した新シリーズ


いつもの食事をワンランクアップさせるために、普段使っている醤油の鮮度に目を向けてみるのもいいかもしれない。

取材・文=織田繭(にげば企画)

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