
現在では当たり前に飲まれているスティックタイプのコーヒーだが、今から20年以上前はまったく一般的なものではなかったことをご存じだろうか。この形の飲料を定着させたのが、味の素AGF株式会社(以下、味の素AGF)が販売している「ブレンディ(R)」スティックだ。
「ブレンディ(R)」スティックは粉をお湯で溶かすだけで、気軽においしいコーヒーが飲めるという優れもの。誰でも簡単に作れることから、世代を問わず人気の商品だ。しかし、発売当初はまだ生活者の間にスティック型の商品そのものが広く認知されておらず、また中に何がミックスされているのか分かりづらいという声もあり、販売は苦戦を強いられていたという。
今回は、味の素AGFコンシューマービジネス部 マーケティング第1グループ グループ長代理の桐山雅亘さんに、商品の誕生秘話や市場に受け入れられるまでに行ったマーケティング戦略などについて話を聞いた。
■変化する時代に合わせて登場!ブレンディスティック誕生秘話
「ブレンディ(R)」スティックとは、コーヒーとミルク、砂糖がひとつのスティックに入っていて、お湯を注ぐだけで簡単においしいカフェオレが作れるというもの。この商品が誕生したのは今から22年前の2002年。その背景には、日本人の生活スタイルの変化があった。
「当時、お店で売られていたコーヒー商品は大容量の瓶や袋タイプが大半でした。一方で、人々の生活スタイルは小世帯化の流れや、家庭の中でも個食化などが進んでいて、コーヒーは生活者の変化に対応できているとは言えない状況でした。そんななか、1本ずつ個包装されてお湯を注ぐだけで飲めるおいしいコーヒーがあれば喜ばれるのでは?と思い、開発に至りました」
開発中には、現在のスティックタイプだけでなく、ピラミッド型や粉を固めたキューブ型などさまざまな価値を試したのだとか。結果として最も使いやすかったスティックタイプが選ばれることになったという。また、消費者は比較的大きめのマグカップに入れて飲んでいることが多かったため、マグカップの量に合わせた粉量や冷めてもおいしい味わいなどにもこだわった。
「そして、最も力を入れているのが、コーヒーとミルク、砂糖を最適なバランスで組み合わせる
レシピの設計ですね。開発が始まったころは、インスタントコーヒーをミルクで割って飲む方が多くいました。牛乳で作るカフェオレって、ミルキーで濃厚なのでとてもおいしいのですよね。そういった飲み方に匹敵するおいしさにこだわり、クリーミーでコクのある味わいをいかに出せるかを追求しました」
■スティックタイプを浸透させたブランド戦略とは?
2002年の登場以降、2010年から14年連続で売上金額、販売杯数No.1に輝き、2024年4月時点で累計販売杯数150億杯を突破するヒット商品となった。だが、発売当初はまだ生活者の間にスティック型の商品そのものが広く認知されておらず、また中に何がミックスされているのか分かりづらいという声もあり、普及に苦労したのだとか。そこからロングセラーに至るまで、どのようなマーケティング戦略を行ったのだろうか。
「発売当初から今までずっと大事にしているのは、生活者にしっかり寄り添い続けることです。最初は王道のカフェオレから始まりましたが、味わいの好みの多様性や健康ニーズといった生活者の動向を捉え、カフェオレカロリーハーフやカフェオレ大人のほろにが、とろけるミルクカフェオレ、紅茶や抹茶といったコーヒー以外のフレーバーまでさまざまなフレーバーラインナップを展開してきました。現在は16種類が販売されており、お客様がピッタリのおいしさを見つけられるようになっています」
また、味の素AGFが大事にしている生活者とのコミュニケーションのひとつに、「スティック♪スティックスティック♪ブレンディスティック♪」のフレーズでおなじみのCMを2007年ごろから展開。「スティック」というワードを連呼しながらスティックならではの価値を訴求することで、まだスティックタイプのコーヒーが一般的でなかった世の中に、徐々に浸透させていった。
このような取り組みの結果、一般的な存在となったスティックコーヒー。これを牽引した「ブレンディ(R)」スティックは業界のパイオニアとして、2024年現在でも売上金額や販売杯数No.1の座を守り続けている。瓶や袋のものが一般的だったコーヒー市場で新規開拓できたのは、ひとえに味の素AGFが生活者に寄り添い続けたことが大きい。
「最近では、生活者の気持ちに寄り添うことを目的に、一言メッセージをデザインしたスティックを展開しています。このメッセージ付きスティックを手に取っていただいた方々からはこれまでに、『本当に励まされた』というお言葉や『癒された』というお声をたくさん頂いています。このようなお声を見聞きする度に、生活者の日常に少しでも寄り添えていることを実感し、とても嬉しく感じています」
■生活者に寄り添い、新しい商品にチャレンジ
「生活者に寄り添う」を続けて、商品展開がされてきた「ブレンディ(R)」スティック。発売当初のメインターゲットであった主婦・主夫からは「忙しい家事の合間に簡単に作れる」と好評で、近年ではオフィスワーカーが仕事の合間に一息つくために利用したり、学生が勉強のお供に飲んだりなど、さまざまなシーンで活躍している。
そんな「ブレンディ(R)」スティックは、2024年には新しい市場の開拓に挑戦を始めた。それが、春から発売された「マイボトルスティック」だ。この商品はマイボトル専用のスティックタイプのパウダードリンクで、マイボトルの普及が急速に進んでいる反面、マイボトルドリンクで飲むフレーバードリンクのラインアップが少なかったことから生み出された。
「スティックタイプ自体は生活者の方々に認知していただいているので、これをいままで以上にさまざまなシーンでご活用いただきたいと思い、商品開発に至りました。日常的なご飲用はもちろんのこと、特にレモンV.CやアセロラV.Cはこれからの暑くなる時期の熱中症対策にもピッタリです。また、近年ではSDGsの観点からペットボトルゴミが問題になっています。マイボトルスティックを使えばゴミの量を少なくできるので、ぜひ試してみてください!」
これからも新しい挑戦を続けていく「ブレンディ(R)」スティック。今後の野望について、桐山さんに聞いた。
「今まで以上に生活者の皆様に寄り添い、商品をより身近な、日々のパートナーのような存在にしていくことが野望ですね。そうすることで、今もお飲みいただいている方にはもっともっと『ブレンディ(R)』スティックのことを好きになってもらいたいですし、一方で、まだまだブレンディスティックを飲まれていない方もたくさんいらっしゃると思っていますので、ぜひそのような方たちにもお飲みいただけるようにしていきたいと思っています。本当の意味で、すべての人にぴったりなフレーバーや味わいを届けていけるようなブランドにしていきたいですね!」
発売より22年、今やスティックタイプコーヒーの代名詞といっても過言ではないブレンディスティック。今後も生活者の需要に応えたり先回りをしたりしながら、使用されるシーンの幅を増やしていくことだろう。これからの新しいフレーバーやコンセプトの商品の登場が楽しみだ。
取材・文=福井求(にげば企画)