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コーヒーで旅する日本/九州編|シンプルにおいしさを伝え、広めてきただけ。これからもそれは同じ。「自家焙煎珈琲専門店 伽楽」

  • 2023年10月30日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第82回は福岡市高宮にある「自家焙煎珈琲専門店 伽楽」。1988年(昭和63年)に高宮通り沿いの小さな店舗で開業し、ちょうど10年を機に現在の高架下に移転。現在はカフェスペースを設けているが、10年ほど前までは豆売り専門。一般家庭への販売、オフィスなどから定期的に注文を受けてきたほか、ボンラパスといったスーパーにも卸を行うなど、福岡においてコーヒーの裾野を広げてきた独立系コーヒーショップの先駆的な存在だ。

2代目の前川周三さんは「以前よりも種類は減らした方ですよ」と話すが、豆は12種のブレンドを含めて30種以上と豊富。それだけの種類のコーヒーを置いているのは、一つひとつのコーヒーにファンがいるということ。コーヒーラバーを自分たちのやり方、スタイルで増やしてきた「伽楽」の過去、今、そして目指す未来とは。

Profile|増田繁紀(ますだ・しげき)さん、前川周三(まえかわ・しゅうぞう)さん、増田明美(ますだ・あけみ)さん
もともとコーヒーの卸を主体とした福岡の商社に勤めていた増田繁紀さんが、1988年(昭和63年)、親戚と共に「自家焙煎珈琲専門店 伽楽」を創業。奥さんの明美さんも一緒に店を切り盛りしてきた。最初は高宮通り沿いで営業し、西鉄天神大牟田線高宮駅そばの高架下に移転。移転当初も以前の店同様、豆売り専門だったが、常連からの要望もありカフェスペースを新設。今に至る。

■家庭で気軽にコーヒーを
「伽楽」はレコメンドしてくれたCoffee Beans GO STRAIGHTのロースター・山領さんが口にする「福岡においてコーヒーの裾野を広げてこられた店」という説明に納得の自家焙煎店。創業33年目という歴史の長さに加え、店頭に並ぶコーヒー豆の種類の豊富さ、さらに一部スーパーでも購入できるという間口の広さ。こんなスタイルを開業時から続けてきたのがその理由だ。

同店がオープンした昭和後期、“自家焙煎コーヒー”というと、喫茶店で嗜むようなこだわりの飲み物というイメージがあった。ゆえに自宅でコーヒーを点てて飲むのは相当なコーヒー好きで、知識もある程度持っていないといけないという敷居の高さがあったことは否めない。つまり自家焙煎コーヒー店で豆を買うのは少し勇気が必要だったような時代だ。

今も現役で焙煎士として店に立つ初代の増田繁紀さんは「そういう時代だったから、逆に自家焙煎コーヒーがこれから家庭に広く普及していくと思ったんです。単純ですがそれが開業理由」と話し、さらにこう続ける。「“こだわりの自家焙煎”みたいな売り方をしているから敬遠されちゃうわけで、もっとカジュアルに『おいしいコーヒーですよ。家でも簡単に淹れられるんですよ。もちろん価格もお手ごろです』って伝えていけばいいと開業したときから考えていて、それは今も変わりません。スーパーのボンラパスさんに豆を卸すようになったのもご近所さんだったことと、ちょっとしたご縁があったから。私たちとしては当店のことを知ってもらうきっかけになりますし、商品を置かせていただいたのは幸運でした」と朗らかに笑う。

そんな明るく、あっけらかんとした増田繁紀さん、明美さん夫妻の人柄もあり、小売りも順調に伸ばしていき、着実にコーヒーラバーを増やしていった。

■手ごろな価格を追求
そうやって多くのファンがついたことで、豆の種類もそれに比例し増えていき、多いときはブレンドを含めて40種以上の豆を用意していたそうだ。ピーク時よりも数は減らしたとはいえ、現在店頭に並ぶ豆の種類は30種以上。ここまで多くのコーヒーを扱っている店はなかなかないだろう。

なによりうれしいのが、価格がリーズナブルなことだ。2023年10月現在、屋号を冠した伽楽ブレンドは100グラム432円、モカブレンド、ライトブレンド、ハードブレンドは100グラム454円、深煎りでコク重視のクラシカルブレンドは100グラム486円など、ブレンドに関しては500円アンダーが大半。そこには増田さん夫妻、2代目の前川周三さんの思いが色濃く反映されている。

前川さんは「『伽楽』の漢字が“珈”ではなく“伽”なのは、『コーヒーは王様の飲み物じゃなくて、庶民が日常的に楽しむもの』という思いを込めています。ですから“いつものおいしいコーヒーを”という観点から品質は下げることなく、価格はできる限り上げないよう努力しています」と説明。だからこそ同店には30年近く通い続ける常連がたくさんいるんだと実感した。

■大切なのは継続していくこと
生豆は昔から付き合いのある3つの商社から仕入れられるのも「伽楽」の強み。どの商社も実績と信頼がある老舗なので、扱っている産地・農園の種類が多彩で、仕入れられる生豆の選択肢が多いというわけだ。

春と秋の年2回行っている頒布会は、まさにそんな強みを生かした特別なコーヒーを購入できるチャンス。毎回、この頒布会を楽しみにしている常連も多いという。

「先代が築いてきたお客さまの日常に寄り添うスタイルは変えることなく、これからもおいしいコーヒーをできるだけお求めやすい価格で提供できるよう努力していくだけです。お客さまのために私たちができること、していかなければならないのは継続することだと考えています」と前川さん。トレンドにとらわれることなく、客が求める味わいを追求し続けてきた「伽楽」らしい未来へのビジョンだと感じた。

■増田さん夫妻、前川さんレコメンドのコーヒーショップは「Morrow珈琲」
「『Morrow珈琲』の店主、三宅さんはとにかく人柄がいい。もともとサラリーマンで、週末の休みを使って当店でコーヒー店で働く経験をされていたのですが、そのままうちで働いてほしかったくらい(笑)。今や押しも押されぬ小郡市の人気コーヒーショップですよ」(増田さん)

【自家焙煎珈琲専門店 伽楽のコーヒーデータ】
●焙煎機/富士珈機半熱風式10キロ、3キロ
●抽出/ハンドドリップ(HARIO V60)
●焙煎度合い/浅煎り〜極深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム432円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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