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約30年で122頭からたった3頭に減少…日本の水族館でラッコが見られなくなるかもしれない話

  • 2023年9月1日
  • Walkerplus

愛らしい芸を披露する姿がSNSなどで大バズリしている、ラッコのメイとキラ。「鳥羽水族館」(三重県鳥羽市)で飼育されているそんな2頭のおかげか、日本では久々にラッコブームが起こりつつあるという。しかし、国内で飼育されているラッコは、わずか3頭しかいないことを知っているだろうか?

今回は日本国内でのラッコ飼育の現状について、約40年にわたり「鳥羽水族館」のラッコ飼育に携わる“ラッコおじさん”こと、石原良浩さんにお話をうかがった。過去にラッコブームが巻き起こり、日本各地の水族館で見られたラッコが、どうして3頭にまで減ってしまったのだろうか。

■近い将来、国内の水族館ではラッコが見られなくなる可能性も
30年ほど前には日本国内で28カ所、122頭ものラッコが飼育されていたというが、現在国内で飼育されているラッコは全部で3頭。うち2頭を鳥羽水族館で飼育している。

「ラッコの飼育頭数が減少している理由はいろいろとありますが、過去に122頭いたラッコの半数以上が国内で生まれた個体で、世代を重ねるうちに繁殖能力という点で障害が出てきたことが1つの原因です」(石原さん)

国内で飼育されているラッコ3頭のうち、メスの1頭はすでに繁殖が難しいとされる16歳以上となり、残りのオスとメスは同じ両親から生まれたきょうだいなので繁殖させることはできない。現状のままでは、日本国内でラッコを繁殖させることは至難の業だ。

それならば新しいラッコを輸入すればいいのかというと、そう簡単な話ではないのだという。日本では主にアメリカから野生のラッコを輸入していたが、アメリカの国内法でラッコを含む海洋哺乳類の捕獲が禁止されたため、輸入することができなくなったのだ。

現在では国内に3頭というラッコだが、なにも急に数が減ったわけではない。

「かつて、今以上のラッコブームがあり、多くの方がラッコに注目してくれていました。しかしブームが終わると、ラッコに対して皆さんの興味や関心が向かなくなりました。その間もラッコを取り巻く環境は変化し、国内での飼育頭数が少しずつ減っていったんです。3頭になった今、再び注目を浴び、皆さんがその少なさに驚かれているというのが現状です。数が減ってしまったことは残念ですが、皆さんに再び興味を持ってもらえたことはうれしいですね」(石原さん)

また、日本国内では一時絶滅したとされていた野生のラッコが、北海道東部沿岸に近年戻ってきており、繁殖していることも確認された。石原さんは、メイやキラなどに興味を持ってもらうことで、野生のラッコも気にかけてほしい、ラッコのためにも海を綺麗に保とうと思ってもらえたらうれしい、と話す。

「今も昔も変わらないんですよ、ラッコのかわいさはね。ずっとかわいいんです。今また、こうやって皆さんにかわいいと思ってもらえることが本当にうれしいです」(石原さん)

■鳥羽水族館のラッコが芸達者である意外な理由
日本国内で飼育されているラッコ3頭のうち、2頭を飼育している「鳥羽水族館」。その愛らしい仕草がSNSで拡散され、今や“鳥羽水族館のアイドル”となったメイとキラは、芸達者なラッコとして話題だ。

1日3回の食事の時間には、2頭と飼育員によるパフォーマンスを見ることができる。食事の前になると、水槽前には多くの人だかりが。特に土曜・日曜・祝日には、1時間前から場所取りをする人もいるほどの人気ぶりだ。


2頭が行うパフォーマンスは実に多種多様。飼育員が投げて水槽のガラスにくっつけたイカを、ジャンプして取ったり、プールに投げ入れられるオモチャを回収してバケツに入れたり、どのパフォーマンスも思わず笑みがこぼれるほどかわいらしく、そして身体能力の高さに驚かされる。

主に食事の時間にトレーニングをして、さまざまな動きを身に付けていく2頭。時には新技も披露してくれるが、こういった「動き」は観客に見せるために練習しているわけではないのだという。

「私たちはラッコに芸を仕込んでいるわけではないんです。自然界にはいろいろなものがありますから、それに応じて彼らは動くわけですが、水槽には何もない。だからラッコたちの身体の状態をチェックするために、人為的にできるだけ多くの動きをさせているわけです」(石原さん)

ラッコたちはショーのためにパフォーマンスをしているわけではなく、あくまでも健康状態を確かめるためにトレーニングをしているのだ。昨日までできたパフォーマンスが今日できなかったとしたら、飼育員はケガや病気が潜んでいるかもしれないと気付くことができる。そうして筋力や関節の可動域など、身体の状態をチェックするために、さまざまな種類の動きをトレーニングしているのだという。

「健康を管理する一環としてさまざまな動きをさせている中で、いろいろことができるようになったということです。ラッコはどこか悪いところがあっても、ここが悪いよなんて言ってくれないですからね(笑)」(石原さん)

食事の時間をよく見ていると、泳ぐ・歩く・掴む・叩く・噛むなど、たしかに多様な動きをして、全身を使っていることがわかる。同時に、飼育員はラッコたちの身体の状態を確認しているのだ。

■ラッコ飼育40周年イベントを開催
2023年10月にラッコ飼育40周年を迎えるにあたり、鳥羽水族館ではさまざまなイベントを実施。2023年10月3日(火)には、鳥羽水族館でのラッコ飼育の歴史を1冊にまとめた、ラッコ飼育40周年記念ブック「ラッコメモリアルBOOK with 鳥羽水のラッコたち」(2200円)を販売する。

近い将来、日本の水族館では見られなくなるかもしれないラッコ。しかしながら、ラッコへの関心が高まることで、現状は好転する可能性もあるという。メイとキラをキッカケにラッコに興味を持った人は、ぜひこの先もラッコを応援し続けてほしい。


取材・文=民田瑞歩/撮影=古川寛二

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