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コーヒーで旅する日本/東海編|ベストではなく、ベターを目指す味づくり。「OISEAU COFFEE(オワゾー コーヒー)」

  • 2023年6月28日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第28回は、愛知県知多市にある「OISEAU COFFEE(オワゾー コーヒー)」。東海エリア屈指のマリンリゾートである新舞子に2015年にオープンした、スペシャルティコーヒー専門店だ。輝く海を彷彿とさせるコバルトブルーの外観が目印。店主の花村友樹さんが「常連の方にとっても、お出かけのついでに立ち寄ってくださる方にとっても、日常を少し豊かにする店になれれば」との想いで営んでいる。花村さんは、東海エリアのコーヒー好きなら誰でも知っている名店「ペギー珈琲店」で技術を磨いた本格派。おだやかな笑顔にほんわかとした柔らかさをまといつつも、その瞳の奥にはピリッとした緊張感も垣間見えた。コーヒーに関して「ベストではなく、ベターを目指す」と話す真意が、その佇まいに表れていた。

Profile|花村友樹(はなむら・ゆうき)
1989年(平成元年)、愛知県名古屋市生まれ。高校時代、愛知県半田市の「Voyage(ボヤージュ)」のコーヒーに感動し、コーヒーマンを志す。名古屋・池下の「ペギー珈琲店」で5年間勤務し、豆の知識や抽出の技術に留まらず、サービスや店舗経営のノウハウまで学び、多大な影響を受ける。2015年に、奥さまの地元である愛知県知多市に「OISEAU COFFEE」をオープン。焙煎技術は、独立してから試行錯誤しながら磨き上げてきた。

■日常に飲むコーヒーを、少し豊かなものにしたい
伊勢湾に面し、明治時代から別荘地として栄えてきた愛知県知多市の新舞子エリア。現在はマリンスポーツのメッカとして知られており、青い海と白い砂浜、緑の芝生が広がるマリンリゾートとしても人気がある。「OISEAU COFFEE」は、そんな新舞子に似合うコバルトブルーをキーカラーにしたスペシャルティコーヒー専門店だ。

店のカラーは新舞子の海をイメージしたのかと思いきや違っていて、店主の花村友樹さんは「もともとフランスが好きで、旅行したときに立ち寄ったカフェをイメージしているんです。まぁ、結果的にはちょうどよかったですよね」と笑う。店内のインテリアや壁に飾られた絵を見て、フランスのカフェにインスピレーションを受けていることに納得。店名のOISEAUもフランス語で、鳥を意味している。

「当店が開業した2015年には、知多半島にスペシャルティコーヒー専門をうたうコーヒー店はありませんでした。だから、ぜひこのコーヒーのおいしさを地域の方々に知ってほしいと思ったんです。自分にとってコーヒーとは、日常にあるもの。地域に根ざした店として、当店を訪れる皆さまの日常が少し豊かになればと思っています」

店頭にはコーヒーと一緒に焼き菓子が並んでいた。スイーツやフードをおもに担当している奥さまが現在産休のため種類を絞っているが、不定期で販売を続けている。

豆を買いに来る人ももちろんいるが、カフェとして利用する人も多いのだとか。それならば、とカフェメニューのイチオシを尋ねると、「エスプレッソレアチーズケーキですね。これは僕が作っているんですよ」との答えが返ってきた。口溶けのいいなめらかな食感と、チーズの風味にふわりと混じるエスプレッソの香りが特徴的で、コーヒーとのペアリングも抜群。今年の夏から自家製アイスクリームをスタートさせ、ケーキへのトッピングも可能になるという。「フレーバーは、ノーマルなバニラと、コーヒー店らしいエスプレッソを準備しています」と花村さん。メニューに加わる日が待ち遠しい。

■コーヒーへの道を示してくれた2つの名店
花村さんがコーヒーに興味を持ったのは高校生の頃。「カフェが好きだったので、よくカフェ巡りをしていたんです。それで、愛知県半田市の『Voyage』で飲んだコーヒーにびっくりしてしまって。忘れもしません、ブラジルのカルモシモサカです。第一印象は『甘い!』でした。苦くて重いコーヒーのイメージが一変したとともに、当時悩んでいたことが報われたというか、もやもやが晴れたというか、深呼吸したようなすっきりとした気持ちになりました。『この体験を多くの人に届けたい』という想いは、今も変わりません」

それから、コーヒーマンとしての道を志すようになった花村さん。「コーヒーについて学びたいと『Voyage』で相談したところ、名古屋・池下の『ペギー珈琲店』を紹介してもらいました。こちらでは、抽出技術や豆に関する知識だけでなく、サービス面の重要性や経営手法についても学ばせてもらいました。一番大きかったのは、“喫茶店は地域に必要な文化であり社交場である”という実感を持てたこと。親に連れられてやってきた子供が、やがて成長し、自分の子供を連れて店にやってくる。そんな光景が当たり前に繰り広げられていて、自分も『ペギー珈琲店』みたいな地域に根ざした店を作りたいと思いました。それには、長く続けることが重要。その秘訣のひとつが、昔からのお客様を大切にしつつも、技術の進化やトレンドの変化を敏感にキャッチしてどんどんアップデートしていく『ペギー珈琲店』の姿なのだと思います」

■焙煎度合いは意識しない
焙煎は、独立を決めてから独学でブラッシュアップしてきたという花村さん。「特注カラーに仕上げたギーセンの焙煎機を、店の入り口に設置しています。ギーセンを選んだ決め手は、サンプルとしてロースト体験をさせてもらったときに、自分が求めていた味を出せたことです。熱を利用して焙煎するので、気温や室温、湿度などの環境によって温度の上がり方が変われば、おのずと豆の反応も変化します。イメージしているものと実際の反応を比較しながら、『今日はこういう感じがベターかな』と調整しながら焙煎しています」

花村さんは、焙煎において、再現性はあまり気にしないという。「『味が変わったね』と言われることもありますが、それは当然のことと捉えています。なぜなら、常に最高点を目指すのではなく、そのときの状況でベターな選択をしているから。焙煎でも抽出でも同じですが、気を付けているのは、調和の取れた味わいであることなんです。フレーバーや酸味、甘味といった豆の個性を追いすぎると、厳格な品質主義に陥ってしまうような気がしています。僕は、ベストではなくベターな味を目指したい」

結果として、この豆は浅煎りにしよう、この豆は深煎りにしよう、というような焙煎度合いを意識したことがないのだとか。「お客様から焙煎度合いを聞かれることがありますが、いつも困っています(笑)。僕にとってのコーヒーは日常の飲み物なので、ストレスなく飲める味をイメージして焙煎するだけです。酸味や苦味が強いと、ストレスを感じる人もいるでしょう。そういったことを考えながらバランスを狙うと、だいたいこのくらいに落ち着く、という幅は、だんだん分かってきました。当店の焙煎度合いは、あえて当てはめるなら浅煎りから中深煎りくらいまでになると思います」

再現性を求めない、焙煎度合いも決めない、と聞くと、フワッとした感覚だけで焙煎しているように感じる人もいるかもしれない。だが、花村さんの焙煎には、数値や手順では伝えられないものの明確な基準が伝わってきた。その基準とは、花村さんの語る「ストレスなく飲める味」にヒントがありそうだ。

■根幹にあるのは、普遍的なイメージ
ストレスなく飲める味とは一体どのような味なのか。バランスの取れた味、調和の取れた味、と、何度か同じような意味の言葉が花村さんから聞かれるが、突き詰めてみると「主観的なおいしさ」と話してくれた。「毎日飲める味というか、飲んだときに素直に『おいしい』と感じられる味というか、言葉にすると難しいですね…。でも究極的なことを言えば、僕がおいしいと思った味です。そこに共感してもらえればうれしいですね!」

「当店の代表的なラインナップから例を挙げるならば、グァテマラはボディーのある感じ、エチオピアは華やかさと軽やかさがある感じ。この2つは対照的な飲み口ですが、根幹にあるイメージは同じなんです。それをあえて言葉で表現するのであれば、飲んだときに『あぁ、おいしい』と思える味になるかな、と」

おいしいと感じる気持ちはもちろん主観的なものだが、花村さんは、これを普遍的なイメージとして捉えることができている。この普遍的なイメージが核であり、ここに当てはまるようにコーヒーと向き合ってきた。「こういった向き合い方は、数値や手順で表現できない分、非常に難しいです。成し遂げるためには、知識と経験が必要。でも、例えば抽出のときには豆の状況やお客様とのコミュニケーションからどんな味にするのかというゴールを設定できるし、そこから逆算していけばどんな道具を使っても抽出ができます」

これは、抽出方法がドリップであってもエスプレッソであっても同じ。店ではドリッパーはコレスのゴールドフィルター、グラインダーはマルケニッヒ、エスプレッソマシンはビクトリアを使っているが、選んだ理由は味づくりというよりサイズ感や使い勝手によるところが大きい。「金属フィルターは何度も繰り返し使えるエコなところがいいですよね。グラインダーとエスプレッソマシンは、スペースを取らないサイズ感と、デジタル操作が決め手でした」

「エスプレッソに使う豆は特に決まっておらず、時期によっていろいろと変えています。エスプレッソでも、バランスの取れた味になるように意識していますよ。だから、毎日メッシュ調整をしてから、その日の挽き目とグラムを調節しています」

開業当初のラインナップはシングルオリジンのみだったが、徐々にブレンドや品評会の豆も扱うようになった。ここ数年では、クオリティが上がってきたカフェインレスのデカフェも定番に加わった。「いろいろな豆を使って風味やボディー感を伝えています」と話す花村さんだが、その根底にあるイメージはどれも同じ。ストレスなく飲める味を作り続け、これから先何十年も地域に愛される店を目指していく。

■花村さんレコメンドのコーヒーショップは「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」
「愛知県安城市の『FUKUSUKE COFFEE ROASTERY』は、2023年4月にオープンしたばかり。店主の三浦さんは当店のお客様で、彼が店を始める前から交流を持っていました。いろいろと話せる仲になった頃に、奈良市にある『ROKUMEI COFFEE CO.』で焙煎をしていたと知り、驚きました。個人的に大好きな店だったので、『三浦さんが焙煎してたんだね⁉』と(笑)。彼のコーヒーは飲んでいてもストレスがなく、落ち着く味です。同じ愛知県内という身近なところにオープンしたこともあり、今一番気になるお店ですね。これからいろいろなトライを始めると思いますので、期待しています!」(花村さん)


【OISEAU COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/ギーセン半熱風式2キロ
●抽出/ハンドドリップ(コレスゴールドフィルター)、エスプレッソマシン(ヴィクトリア・アルドゥイーノ E1プリマ)
●焙煎度合い/浅煎り~中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム850円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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