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コーヒーで旅する日本/東海編|どんなお客も魅了する、ハイレベルな抽出技術と楽しいトーク。「Logique(ロジック)」

  • 2023年4月12日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第17回は、名古屋・亀島にある「Logique(ロジック)」。日本のカフェにはあまりない、レストラン並みの料理も提供するフレンチカフェだ。ともに留学経験があり語学堪能な店主夫婦は、ご主人の健太さんがエスプレッソと料理、奥さまの五香さんがドリップとお菓子とトークを担当。それぞれが持つ高い抽出技術と、ふたりが繰り広げるアットホームで楽しい時間に、店を出る頃には「絶対にまた来よう」と再訪を決意させてしまうほど素敵な店だ。

Profile|伊藤健太(いとう・けんた)、五香(いつか)
伊藤健太さんは1985(昭和60)年、岐阜県海津市生まれ。五香さんは1983(昭和58)年、愛知県名古屋市生まれ。大学ではふたりともフランス語を専攻し、2010年に結婚。夫婦一緒にイギリスへ留学した際にヨーロッパ各国のカフェを回り、ふたりとも「いずれはカフェをやりたい」という思いを強くした。帰国後、健太さんは日本のトップバリスタからレッスンを受け、3年ほどイタリアンバールで働きながらエスプレッソを勉強。五香さんは2年ほどドリップコーヒー専門店に勤務し、ハンドドリップの技術に磨きをかけた。2019年、食事もしっかりと提供するフランスのカフェをコンセプトにした「LOGIC」をオープン。2022年に英語表記から仏語表記の「Logique」へ改称。

■外国人も通うかっこいいカフェ
名古屋の玄関口である名古屋駅から線路沿いに北へ徒歩約15分。地下鉄亀島駅と、名鉄栄生駅のちょうど中間あたりに、黒い壁に真っ白な外観が目をひく瀟洒(しょうしゃ)なカフェ「Logique」がある。外観には日本語がひとつもなく、この一角だけヨーロッパの空気が漂っているのは通りかかる皆が感じることだろう。自転車でサッと乗りつけて窓からコーヒーを受け取り、そのまま去っていくヨーロッパ系の外国人を見て「ここは本当に日本なのか」と驚いた。店に入る前から映画のワンシーンのような絵になる風景を目にし、否が応でも期待が高まる。

ときめく気持ちを少しなだめながら扉をくぐると、店内にいたのは素敵な店主夫婦。相変わらず日本語は目につかない。木とアイアンの質感を絶妙な塩梅で取り入れ、ドライフラワーが所々に華やぎを添えるかわいらしい空間が広がっている。オープンキッチンで調理をしているのがご主人の伊藤健太さん、カウンターでオーダーを聞いてくれるのが奥さまの五香さん。ふたりともバリスタであり、カフェの開業を見据えてそれぞれが違ったジャンルのコーヒーを学んできた。

■ご主人はエスプレッソと料理を担当
健太さんの担当はエスプレッソと料理。イタリアンバールで勉強しながら経験を積んだり、日本有数のバリスタのレッスンを受けたりしながら技術を磨いた。

「エスプレッソを淹れるのはマシンですが、そうは言ってもいろいろな要素が影響します。例えば、フィルターに豆を詰めるタンピングという工程がありますが、どういう風に詰めるのか、どういう風に空気を抜くのかといったポイントで、味の仕上がりが違います。また、抽出時間もタイミングをずらしてしまえば味はガラリと変わるんです。そのため、抽出のストップは機械任せではなく目で見てタイミングを測ります。具体的には、エスプレッソで飲む時は酸味が強すぎるとパンチがきつくなるので、時間経過的に後から出てくるはずの苦味をちょっとだけ被せて酸を和らげる。カプチーノで飲む時はミルクと合わせることで酸味が消えて相性がよくなるので、ちょっと少な目に抽出する。そういうずらし方をしています」

料理は、店を始めてからフランスの食文化としてのシャルキュトリにハマり、仲のいいフレンチシェフなどから教わっている。「サンドイッチに使うハムやパテの仕込みをしているカフェなんて、日本にはほとんどありませんよね。でも、フランスではレストラン並みの仕込みをして、テーブルセッティングをするカフェが多いんです。実際にフランスでそういうカフェに出合い、『こういうかっこいい店をやりたい』と思ったんです」

サンドイッチはプレートにサラダ、ポテトと一緒に盛り付けて提供。確かに、こういう提供スタイルは食事としてのイメージが強まるかもしれない。コーヒーやエスプレッソと一緒に味わえば、フランスの街角にいるかのような気分になれそうだ。

■奥さまはドリップとお菓子とトークを担当
一方、五香さんの担当はドリップとお菓子とトーク。「なぜトーク?」と不思議に思うかもしれないが、五香さんのドリップにとってトークは必要不可欠な技術のひとつなのだ。

「焙煎した豆が目の前にある状態というのは、絵の具の全色セットをもらったような状態なんですね。そこからどの色を使って何を描くのかは、抽出する人にかかっている。でも、抽出する人が描きたい絵を描いても、飲む人がおいしいと思うかどうかはまた別問題ですよね。初めてのお客様は難しかったとしても、常連さんなら会話をするうちに『こういうのが好きだよね』という趣味趣向がわかってくる。よく来てくれるほどに『今日は疲れてるね』とか、その日の調子も何となくわかってきます。だから、疲れている人には『パンチの効いたやつを作っておこうか』みたいな感じで、お客様のほしいポイントをトークから探って、抽出技術によってそのポイントに持っていくようにしています」

もちろん、お客のなかにはコーヒーが飲めない人もいる。だが、コーヒーが苦手な人でも好きだと感じるコーヒーがあるかもしれない。そんな時にも、五香さんの冴えわたるトークが威力を発揮する。会話の中で自然と「コーヒーのどういうところが苦手なの?」と聞いてみると、いろいろな要因が上がってくるそうだ。単純にカフェインに弱い人もいる。なんか苦くて好きじゃないという人もいる。

「苦味がダメだと思っているだけなら、コーヒーが嫌いなわけじゃない。コーヒーにはいろいろな味わいがありますから。だから『カプチーノもあるよ』とか『浅煎りを飲んだことある?苦味はほとんどないと思うよ』とか、いろいろな選択肢を提示します。もちろん無理強いはしませんし、会話の雰囲気を見ながらですけど。そして、『もし浅煎りが気に入ったんなら、こういう店も好きかもね。インスタをやっているからチェックしてみて!』とか、次の行動に繋がるように話しています。『苦いのはあまり好きじゃないけど、実は試したい』という人もやっぱりいるんですよ。誰でも初めてのことに挑戦する時は勇気がいるし、やらずに済むならそのままというケースもある。でも、ちょっとしたきっかけがあると可能性が広がりますよね」

レベルの高い抽出技術も、五香さんの強みだ。「抽出技術を磨けば、お客様の好みに近づくように味わいをカスタマイズすることもできるんです。コーヒーの苦味を試してみたいと思っている人には『うちのドリップのオリジナルブレンド、ちょっと苦味があるけど、柔らかい感じで作ってみるね』とおすすめするなど、選択肢を広げるような感じですね。お客様を見て、素材があって、『どういう味を飲んだらおいしいと思ってもらえるか』みたいなところをいろいろと自分で探れるのが楽しい」

コーヒーに合うお菓子も、五香さんの担当。焼き菓子などに使うジャム、練乳、キャラメルなども一から作っている。

■自分たちで焙煎しないからこそ大切にしてきたこと
ハンドドリップを、絵を描く作業に例えた五香さん。「当店が自家焙煎の店ではないからこそだと思いますが、いろいろな焙煎士の方の仕事に触れる機会が増えて、だんだん焙煎する人の気持ちがわかるようになってきました。例えば、蒸らしの時にお湯を注いだ瞬間の雰囲気。レールをバシッと引いてくれて『ここにたどり着いてね』と導いてくれる人や、いきなり空中にポンッて放り出されて『好きなところに行っていいよ』と自由にさせてくれる人など、いろいろです。でも、先ほど焙煎士の役割を、絵の具をそろえることだと例えましたが、『この絵の具を使おう』と決められるのは私なんですよ。『焙煎士として想定した終着駅はここなんだろうけど、私は手前がいいんだよね』といったように、絵を描く人にゆだねられる部分がある。せっかく綺麗な絵の具を渡しても、全部使ってもらえないのは、焙煎士の方にとっては残念なのかもしれないですね。それでも、抽出の仕方によって、バリスタが思うおいしいポイントにつけることもできるし、お客様がおそらく好きだろうというポイントにつけることもできるので、やっぱり私はお客様がほしいポイントに近づけるようにしています」

「コーヒーに力を入れる店には自分たちで焙煎もやるところも多いと思いますが、僕らがフォーカスしているのはそこじゃない。どちらかというと空間を作りたかったので、商品は一要素でしかないんです」と健太さん。オープンしてからいろいろと営業時間や営業スタイルを変えているのも、自分たちのやりたいことを追求してきた結果だ。普段はランチから夕方の営業だが、金曜日だけは夜営業のみになるところも一般的なカフェとは異なる。ワインやビールがあり、ビストロに近いような雰囲気になるという。この体制になったのは、2022年10月から。オープンから続けていたモーニングをやめたことで、仕込みの時間も十分取れるようになった。「今のスタイルが自分たちにとってとてもいい感じです。やりたいことが全部できているし、やりたくないことは全部排除できた。あと5年くらいはこのまま続けたいですね」

コーヒー専門店というわけではないが、おいしい料理やお菓子のお供には当然のようにおいしいコーヒーがある。そんなカフェやレストランがこれからもっと増えていけば、コーヒーカルチャーの裾野はさらに広く、深くなっていくだろう。

■伊藤さんレコメンドのコーヒーショップは「MAGNI'S COFFEE TRUCK(マグニーズ コーヒー トラック)」
「名古屋・名駅の『MAGNI'S COFFEE TRUCK』は、ヴィンテージのワーゲンを改造したキッチンカーのような店。雰囲気が好きで、ああいったおもしろい店は名古屋にあまりないのではないかと思います。店主の藤澤さんとのおしゃべりもとても楽しく、ゆるい雰囲気のなかでお互いの子供についての話などをしていますよ。藤澤さんはドイツに住んでいたことがあるそうで、ドイツ系ソーセージを挟んだバゲットドッグもあります。コーヒーを始めとしたドリンクはバリエーション豊富で、当店にないようなメニューもいろいろと楽しませていただいています」(五香さん)


【Logiqueのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60)、エスプレッソマシン(ラ・マルゾッコ FB-80-2)、ウォータードリップ(カリタ水出し器)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/なし

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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