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コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーを介して人のつながりを広げる、小さな店にあふれる“新しい出会い”の芽。「COCO COFFEE」

  • 2023年3月21日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第57回は、奈良県香芝市の「COCO COFFEE」。店主の西村さんは、関西で活躍する数少ない女性バリスタの一人。二上山の麓、のどかな駅前にある店には、多彩なアレンジコーヒーと西村さんの朗らかな人柄に惹かれて通う常連客も多く、和気あいあいの空気が満ちている。開店後は、コーヒーショップに加えて、ギャラリーやイベントなどを行うスペースを併設するなど、年々、新たな活動の場を広げている西村さん。ユニークな店作りで存在感を発揮しながらも、一杯のコーヒーを介した出会いを大切に、育んできた人のつながりの輪こそが、“小さな町の拠り所”が厚い支持を得る所以だ。

Profile|西村由佳 (にしむら・ゆか)
1990(平成2)年、大阪府生まれ。大学卒業後、ドトールコーヒーショップに入社。研修でエスプレッソの魅力を体感し、本格的にコーヒーの世界へ進む。東京の支店勤務を経て、開業資金準備のため繊維会社に転身。2015年に奈良県香芝市で「COCO COFFEE」をオープンし、会社員の仕事と並行しながら営業をスタート。2019年頃から、店向かいの長屋や隣接する物件を活用したギャラリーも開設し、2022年から、新たにカフェ&ギャラリー「ei」を準備中。

■日々の何気ない会話が絶えない、町の小さな拠り所
奈良県と大阪府を分かつ、金剛山系に連なる二上山の麓。のどかな駅の線路端にある、楕円形の窓が印象的な「COCO COFFEE」の店構えは、車窓からでも目を引く。わずか4坪の店には、開店と共に常連客が入れ替わり立ち代わり、コーヒー片手にしばし四方山話を交わしあう。店主の西村さんの朗らかな人柄も相まって、笑顔の絶えない店内には親密な空気が満ちている。

「いつか小さなお店を持つことに憧れてました」という西村さんは、大学卒業後に大手コーヒーチェーンに就職。「外国語大学にいたので、当初は海外での接客業を目指していたんですが、この時のご縁は、コーヒー好きの母親の影響もあったのかもしれないですね」と振り返る。入社自体は偶然の綾もあったかもしれないが、その後に受けた社員研修で、コーヒーの世界にすっかり魅了されることになる。「トレーナーさんが淹れてくれたエスプレッソのおいしさに衝撃を受けました。その時まで、適切に抽出したエスプレッソを飲んだことがなかったんでしょうね、砂糖を入れたら、さらにおいしくなって。その味を体験してから、自分でもコーヒー豆や器具の勉強を始めたんです」

中でも、西村さんが習得にのめり込んだのが、ラテアートの技術だ。「幼い頃から絵を描くのが好きだったこともあり、“コーヒーとミルクだけで、いろんな模様が作れるラテアートってすごい!”、と感じたことが、バリスタを一生の仕事にしようと決めた大きなきっかけでした。最初はなかなか上手く描けなくて、夜通し練習したり、朝練したり、あの頃は“コーヒークレイジー”という感じでしたね(笑)」。さらに、バリスタの競技会にも出場するなど、がむしゃらにスキルアップに明け暮れたという。

とはいえ、会社であるからには、仕事のウエイトは店舗のマネジメントが多くを占める。それでも、「バリスタとして、自らがコーヒーを淹れて、直接、お客さんに届ける立場にいたかった」という西村さん。その思いに突き動かされるように、自店の開業へと動き始め、その過程でも、前職で見せたバイタリティを発揮。まずは、開業資金の準備と、飲食店以外の社会経験を積むことを兼ねて、大阪の制服メーカーに2年半勤め、その間、店の立ち上げも並行。2015年のオープン当初は、平日に会社勤めをしながら、水・木曜の夜と土・日曜は自店を営業する、ダブルワークを半年ほど続けた。さらには、当時、Knoppの吉田さんがいたシェーカーズ カフェラウンジでも経験を積んだというから恐れ入る。「今、同じことをやろうとしても無理ですね(笑)」と振り返るハードな日々を経て、「COCO COFFEE」は地元に根付いたコーヒーショップとして歩みを始めた。

■季節ごとの多彩なアレンジがコーヒーを楽しむ入口に
コンパクトな店ゆえに、メニューはドリンクのテイクアウトが主体。常時5~6種をそろえるコーヒーは、神戸のLANDMADEに所属しながら独自に活動するAMAZING COFFEE ROASTERから仕入れ、時季替わりでシングルオリジンを提案する。実は開店当初は、ほぼコーヒーのみで豆の個性を前面に打ち出していたという西村さん。「その頃はまだ、コーヒーに取りつかれていたような状態だったので(笑)。専門店的なカラーを前面に出していたんですが、お客さんの声を取り入れてアレンジドリンクを試してみたら、いろんな素材を使って作れることに気付いたんです。それ以来、いきなりコーヒーを勧めるではなくて、アレンジも含めてお客さんが自由に楽しめることで、コーヒーに関心を持つきっかけもできるのでは、と思い直したんです」

季節ごとに入れ替わる素材は、ブルーベリー、ライム、スモモなどのフルーツに、トマト、赤紫蘇、梅、ベルガモットといった意外な組み合わせも。いまや店の壁に貼られたメニューには、約40種を数えるまでにバラエティが広がった。「他の食材を合わせることで、コーヒーだけでは出せない味を作れるのが魅力。そのバランスは、レストランなどで料理の味合わせの中から学ぶこともあります。以前よりコーヒー豆の質が上がり、クリーンな味わいで、素材に寄り添ってくれる酸味の個性があるからできること」と西村さん。近隣の農家から届く素材も多く、地元産のレモンや梅を使った自家製シロップは、看板メニューの一つともなっている。

そのシロップを使った、定番人気のレモンコーヒーは、ヨーグルトのようなさっぱりとしたコクと酸味が爽やかな一杯。また珍しい取り合わせとしては、台湾の香辛料・馬告(マーガオ)のラテも好評。ほのかな辛味と苦味、レモングラスに似た芳香が、ラテの甘味をぐっと引き立てる新感覚の味わいだ。さらに、店内でも販売しているベトナムのシングルオリジンチョコレート専門店・MAROUのパウダーを使ったカカオモカも、後を引く華やかなカカオの香りと、まろやかな甘みが印象的だ。「コーヒー好きでなくても楽しめるよう、今は豆の説明も一切、書いてません。お話しながらお伝えできるからいいかなと思ってます」という西村さんの心境の変化も手伝って、リピーターも徐々に増え、今では季節ごとのメニューに固定のファンが少なくないという。

■コーヒーを通して、人と人のつながりが広がっていく場に
ただ、ここを訪れるお客の目的は、多彩なアレンジドリンクばかりではない。店内ではお菓子や雑貨の販売に加えて、開店時からアーティストの作品展示を定期的に開催。さらには、3年前に、店の向かいの長屋を改装してギャラリーに、2年前には店の隣の空間を物販兼展示スペースにと、年々、活動の場を広げている。「店内で展示するアイデアは、開店前から考えていたこと。お店も慣れてくると面白みがなくなるので、どこかに非日常の体験を入れたかったんです」と西村さん。店の造りにも仕掛けがあり、隣につながる通路は、まるで秘密の抜け穴のよう。小さく身を屈めてくぐると、大人も思わず童心に帰ってしまう。

自らもギャラリー巡りが好きで、展示を続けているうちに、方々の作家から声がかかるようになったという西村さん。今では県外の作家とのつながりも広がり、ジャンルもイラストから器まで多岐にわたる。長屋のギャラリーでは、時にライブドローイング、マルシェが行われ、アーティストのレジデンスになることも。「今は、長屋にコーヒーのセミナールームも準備中で、焙煎やラテアートの教室とかしたいですね。長屋で開催するいろんな展示やセミナーを通じて、寺子屋みたいに人が集まる場所になれば」と、構想を膨らませる。さらに、2022年からは、近隣の古いビルに新たなコミュニティースペース「ei」を準備中という西村さん。ナチュラルワイン&コーヒーの店と、ギャラリーの2フロアで、さまざまな広がりを持つ場にするべく、日々アイデアを温めている最中だ。

かつて憧れた“小さな店”は、徐々に広がり、10年の節目も近づいてきた。「とにかく長く続けることが一番の目標。10年目には、毎年周年で作品を作って下さる中村ムーチョよしてるさんの展示会をしたいですし、いろんな場所でつながりを得て、この店に関わってくれた方々と、何か大きなことをしたいですね」。一杯のコーヒーを通して広がっていく、新しい出会いを楽しみに訪れたい一軒だ。

■西村さんレコメンドのコーヒーショップは「TOBERA」
次回、紹介するのは兵庫県宝塚市の「TOBERA」。
「店主の森川さんは、開店される前にここを訪ねて来てくれて以来、交流が続いています。コーヒーはもちろん、サンドイッチなどのフードやスイーツまで、メニューの一つ一つが丁寧に作られているのが伝わります。お店はINNO.TOWN(イノタウン)と呼ばれる一角にあって、雑貨屋さんや本屋さんなど、いろんな店が集まっていて、ロケーションの面白さも魅力の一つです」(西村さん)

【COCO COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(アメイジングコーヒーロースター)
●抽出/ハンドドリップ(カリタ)、エスプレッソマシン(サンレモ)
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/なし

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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