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コーヒーで旅する日本/東海編|コーヒーとは、人々に寄り添うもので在ってほしい。「カフェ・アダチ」

  • 2023年1月25日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第6回は、岐阜県関市にある「カフェ・アダチ」。スタッフとして働いていた小森敦也さんが後継者となったのは、2016年のことだった。「創業者から店を託されていますから、自分で店を経営するというよりも大切なものを預かっている感覚です」と話す小森さん。受け継いだ店の大枠を守りながらも中身をブラッシュアップし、自家焙煎珈琲店らしくコーヒーを大事にした店舗運営を進めてきた。小森さんが抱く「コーヒーを大事にする」という考え方の根幹には、日本一の自家焙煎コーヒー店と名高い「カフェ・バッハ」のトレセンで得た学びがあった。

Profile|小森敦也(こもり・あつや)
1982(昭和57)年、岐阜県加茂郡坂祝町生まれ。幼いころに感じた「自由な大人」の象徴である喫茶店のマスターを夢見て、カフェのオーナーを志す。2016年、「カフェ・バッハ」のトレセンへの参加をきっかけにQグレーダーを受験し、合格。「カフェ・アダチ」の事業を受け継いだ。以来、カフェの経営とともに豆の販売体制を見直し、コーヒー教室から発展してカフェ開業支援を行うなど、コーヒーカルチャーの普及に尽力している。

■店主は岐阜県初のQグレーダー
刃物のまちとして有名な岐阜県関市の閑静な住宅街にある、自家焙煎珈琲店「カフェ・アダチ」。2004年にオープンし、現在に至るまで地域の憩いの場所として親しまれている。重厚な日本家屋に、ハイカラなステンドグラスやアンティーク家具を配置した空間は、初めて訪れたにも関わらずなぜかホッと安らぐ心地がする。「小さいころから喫茶文化が身近にあり、漠然と、将来的にはカフェを経営したいと思っていました」という小森さんは、2016年に創業者から店を受け継ぐ形で「カフェ・アダチ」の店主となった。その経緯には、岐阜県で初めてQグレーダーの資格を取得したことが大きな要因として挙げられる。

「焙煎についていろいろな人から話を聞いていた時に、とある筋からご縁をいただき、コーヒー界のレジェンドといわれる『カフェ・バッハ』のトレセンに参加できることになったんです。そこに集まっていた人々は、とにかくレベルが違っていました。人生で一番の衝撃でしたね。置いていかれないように必死で食らいついていました。そこで偶然にも自分の強みを見つけました。テイスティングの授業で、ほかの参加者を凌ぐ好成績を収めることができたのです。それからQグレーダーの資格試験を勧められ、見事に一発合格。岐阜県のコーヒーショップでは初めてで、まさに快挙でした」

Qグレーダーとは、SCA(スペシャルティコーヒー協会)が定めた基準・手順に則ってコーヒーの評価ができるとCQI(コーヒー品質協会)が認めた技能者のこと。ワインでいうソムリエのように、コーヒーの知識はもちろん味覚や嗅覚からも客観的な評価を行う。

「コーヒーは、品質評価・焙煎・抽出などのレベルが上がるほどに、いかにマイナスを消せるかどうかが重要になってきます。ところが、自分自身の『好き』という気持ちが強すぎると、ダメな部分、マイナスの部分がわからなくなってしまうことがあるのです。その点、私は味そのものというよりも、職業的に深められるものとしてコーヒーに魅力を感じていました。だから、素材のレベルを見る時も、味わいを評価する時も、先入観なく判断することができるんだと思います」

■コーヒーは独自性の高い飲み物
Qグレーダーである小森さんが店主となり、これまで以上にコーヒーを大事にした経営へと徐々にシフトしていった「カフェ・アダチ」。コーヒーを目当てに来店する客が増え、豆の販売量も増えていった。そこで、焙煎量を増やすため、2017年から世界中の焙煎士が愛用するドイツの老舗メーカー・プロバットのタイプ2を導入した。

「プロバット社の製品は、最新モデルになるにつれて豆を焦がさないことを重視するようになりました。豆が焦げるということは、嫌な苦味につながるからです。焦がさず熱を加えるために、筐体とシリンダーのバランスが変わり、蓄熱や熱風で豆を焼く構造になりつつあります。そのため、中浅煎りから中深煎りという領域においてはフレーバーや素材の個性を引き出しやすくなりました。一方、火に焙られるからこその香りや苦味、伝統的なコーヒーの味わいを作るのは少し大変かもしれません」

そうはいうものの、甘味や苦味、香りをしっかりと感じさせる深煎りから、明るく爽やかな酸味の浅煎りまで、幅広いラインナップは創業当時からほぼ変わぬままキープ。少し大変でも深煎りをラインナップから外さないのは、「苦味だけじゃなく香りや甘味も感じられる『カフェ・アダチ』の深煎りが好き」と言うファンが数多くいるからだろう。コーヒーが持つキャラクターに寄り添い、その内容の複雑さを楽しむよりもわかりやすさを意識した焙煎からは、「コーヒーとはもともと日用飲料。人々に寄り添うもので在ってほしい」と願う小森さんの思いもうかがえる。大手企業や量販店ならばともかく、ストレートコーヒー15種類、ブレンド5種類を年間通して安定したクオリティで販売できる個人店は多くないだろう。

「コーヒーはそもそも独自性が高く、内容の複雑さ、個性、こだわりは豆によってまちまちです。だから、自分の焙煎方法、自分の抽出方法、といった自分のこだわりを追うのではなく、豆に寄り添い、飲む人に寄り添いたいと思っています。私がコーヒーに求めるものは、飲み疲れない、ホッとする優しい味わい。これは、『カフェ・バッハ』のトレセンで感じ学んだ想いや技術と地続きなんだと思います」

■「豆に寄り添う」ということ
豆の販売量が増えるということは、自分でコーヒーを淹れる人が増えたということ。「少しコツを掴むだけで、おいしく淹れられるようになる」と始めたコーヒー教室は、今や「カフェ・アダチ」の魅力の一端を担っている。

「抽出の良し悪しを判断するためには、まずコーヒーの味について知る必要があります。濃い、薄い、苦い、酸っぱい、という味わいだけではなく、そもそもの豆の個性を把握したうえで、自分が狙ったところに着地できているのかどうかを判断します」

コーヒー教室で学べる抽出方法は、カフェでの提供方法と同じくハンドドリップが基本。ドリッパーにはハリオV60を使用する。淹れ方の大枠は手順化しているものの、分量や温度、時間をガチガチに決めない。「マシンではなく人が淹れるのだから、アナログな部分が楽しいのです」と、小森さんは豆の膨らみ方やお湯ののり方など細かな変化に向き合う方法を伝えている。これが「豆に寄り添う」ということかと深く納得した。

コーヒー教室では次第に、参加者から「もっと知りたい」とリクエストを受けるようになり、生産地の気候風土による味わいの変化、焙煎することによって起こる味わいの変化なども話すようになった。ときには経営にまで話が広がることもあり、「カフェ・アダチ」のコーヒー教室を経て独立開業する人も出てきている。「コーヒーをおいしく淹れて飲んでほしいとの想いから始まった教室ですが、それだけはなく自分なりの歩みを見つける人が増えているのは喜ばしいことです」と小森さん。コーヒー界のレジェンドといわれる「カフェ・バッハ」で学んだ小森さんから学びを得た人々が、これからどのような系譜を描いていくのか楽しみだ。

■小森さんレコメンドのコーヒーショップは「カフェ茶房 宗休」
「私がおすすめしたい『カフェ茶房 宗休』は、ここから車で10分ほどの場所にあります。店主はもともと当店のコーヒー教室に参加していた生徒さんで、『カフェ茶房 宗休』が後継者を探していた時に私が紹介しました。自家焙煎ではありませんが、コーヒーに丁寧に向き合っています。ご夫婦で営まれていて、人生にとてもストーリー性のあるお2人です」(小森さん)

【カフェ・アダチのコーヒーデータ】
●焙煎機/プロバット タイプ2半熱風式12キロ
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム600円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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