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コーヒーで旅する日本/東海編|多くの人の日常に溶け込む、優しいコーヒーの在り方。「CAFE re:verb」

  • 2023年1月11日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第4回は、カフェとヘアサロンが一体となった店舗形態が個性的な、岐阜市の「CAFE re:verb」。名古屋市内でバリスタとして働いていた福井諒さんは、美容師として独立を考えていた友人の田口智大さんに誘われてタッグを組むことにした。「最初に声をかけてもらった時は、お断りをしたんです。それでも1年ほど熱心に口説いてくださって、『やってみよう!』と決心できました」と福井さん。最初はコーヒー1本で勝負すると意気込んだものの、すぐに「コーヒーだけではダメだ!」と軌道修正。培ったバリスタ技術やコーヒーそのものの魅力をどうやって生かすのか、福井さんの挑戦が始まった。

Profile|福井諒(ふくい・りょう)
1987(昭和62)年、岐阜県岐阜市生まれ。コーヒーをあまり飲まない家庭に育ったため、初めてコーヒーを飲んだのは20歳ごろ。ワーキングホリデー制度を利用して留学したカナダ・バンクーバーでのことだった。現地のカフェで半年ほど働いて、エスプレッソマシンの扱いなどを習得。帰国後、名古屋の老舗コーヒー会社「ボンタイン珈琲」でバリスタとしての経験を積み、2015年には「JBC(ジャパン バリスタ チャンピオンシップ)」のセミファイナリストになった。2018年に「ボンタイン珈琲」を退社し、同年11月に「CAFE re:verb」をオープン。

■バンクーバーでの衝撃から、バリスタを志す
JR岐阜駅から、繁華街である柳ヶ瀬商店街方面に歩いて約10分。ビルやショップの立ち並ぶ岐阜市のメインストリート、国道256号線沿いにカフェとヘアサロンが一体となった「re:verb」がある。カフェの店内を通過しないとヘアサロンに行けないレイアウトになっていて、カフェスペースはオーナーバリスタの福井さん、ヘアサロンはオーナースタイリストの田口さんが営業する、ちょっと変わった店舗形態をとっている。

福井さんが初めてコーヒーカルチャーに触れたのは、バンクーバーに留学していた2007年のこと。「バンクーバーは、日常にコーヒーが溶け込んでいるような街でした。街行く人はみんなコーヒーを手に歩いていて、隙あらばコーヒースタンドに立ち寄ります。そんな街の空気にあてられて、現地のシアトル系コーヒーチェーンに行ってみたんです。オーダーしたカフェラテには美しいアートが施されていて、そのクリーミーな味わいにも衝撃を受けました。それから1、2カ月はカフェに通い詰めて、半年ほど働くことができました」。バンクーバーのカフェではエスプレッソ系のメニューが中心。エスプレッソマシンの扱いを学ぶうちに、バリスタになりたいと思うようになった。

■いちプレイヤーからオーナーバリスタに
バンクーバーから帰国した福井さんは、名古屋の老舗コーヒー会社「ボンタイン珈琲」で働きながらバリスタとしての経験を積んだ。「2015年、バリスタとしての技術を競う『JBC』でベスト16に入ったところで、いちプレイヤーとして満足していました。ところが、このころから少しずつ会社の方向性と自分のやりたいことにズレが生じてしまったんです」と当時の悩みを語る福井さん。自分にとってのコーヒーの在り方は、バンクーバーで感じたような“日常に溶け込むもの”。そのため、幅広い層に気軽に飲んでもらえるようなコーヒーを広めたい、という思いがあった。会社が理想とするクオリティの高いコーヒーでは、裾野を広げることは難しいと感じていた。

福井さんが思い悩んでいた時に声をかけたのは、現在タッグを組んでいる田口さんだった。「ずっといちプレイヤーとして頑張ってきたので、最初はオーナーになった自分をとても想像できませんでした。だから、無理だと思ったのです。ところが、田口さんはどうしてカフェと組みたいのか、どうして私と一緒にやりたいのか、何度も話してくれました。そして『ヘアサロンでは、施術の待ち時間がどうしても発生してしまう。その時に提供されるドリンクも、ヘアサロンとしての満足度のひとつ。だからカフェと組みたいんだ。カフェ側も、ヘアサロンと組むことで今までと違った層にアピールできるじゃないか』と言われ、やがて素直に共感できるように。自分の向かう方向性が、だんだんはっきりとしてきました」

■スイーツがコーヒーのよさを際立たせる
店名の「reverb」は音楽用語で、残響という意味。田口さんとの出会いが音楽だったこともあって、2人で決めた。コーヒー豆は、「ボンタイン珈琲」の先輩だった名古屋「note coffee house」に協力を仰いで用意したオリジナルブレンド。「相手の心に何かを残して響かせたいという思いから、抽出ではコーヒーの余韻を大切にしています。『re:verb』のオリジナルブレンドは、華やかなエチオピアとバランスの取れたブラジルの組み合わせ。飲んだ時に、余韻がどうキレイに消えていくのか感じてほしい」と福井さん。納得のいくクオリティに仕上がったため、開店した当初はコーヒーだけで勝負できると考えていた。

ところが、喫茶店の多い東海地方においても、岐阜市街地は指折りの激戦区。ヘアサロンの前後にカフェへ立ち寄ったり、施術中の休憩にコーヒーを楽しんでもらったりできるだろうと相乗効果を狙ったものの、これだけではうまくいかなかった。「繁盛する店や生き残る店とはどんな店なのか、研究しました。そして、『コーヒーだけではダメ。何かプラスアルファが必要』という結論に達したのです」。ケーキ、食事、モーニングなど、いろいろなアイデアを試した結果、自分の抽出するコーヒーに合う味わいを念頭においた自家製スイーツに活路を見出した。「バリスタが考案した、コーヒーをもっとおいしくするバスクチーズケーキを作ったのですが、これが大好評。濃厚な食べ応えが、コーヒーの香りや味わいと非常に相性がよかった。おかげさまで、チーズケーキ専門のオンラインショップや持ち帰り専門店も手がけるようになりましたが、これらの事業もすべてカフェのため。コーヒーを日常に浸透させるための一手です」

■抽出方法の違いによる味の変化を表現したい
プラスアルファの重要性を考えるようになったとはいえ、あくまでも中心はコーヒー。コーヒーカルチャーの裾野を広げることを目指す福井さんは、抽出技法にも独自の思いがある。「私の強みはバンクーバーで学んで以来磨きをかけたエスプレッソの抽出技術ですが、日本ではハンドドリップでの抽出が主流。それなら、エスプレッソにもハンドドリップにもあえて同じ豆を使うことで、抽出方法による表現の違いを知ってもらおうと考えました」

ギュッと圧力をかけるエスプレッソでは、酸味、苦味、甘味などの味わいがすべて丸く収まるように抽出。豆を挽くスピードや歯の回転、お湯のかかり方などによって微妙に味わいが変わるので、毎日の微調整は欠かせない。

エスプレッソに注ぐミルクは、対流の起こるきめ細かな質感がポイントになる。「どのタイミングと角度で注いでいくと、イメージしている対流が起こるのかを見極めるためには、自分の手の感覚と、経験の蓄積が重要になります」と、話しながらも手元に集中すること数十秒。できあがったカフェラテ(550円)には、美しいラテアートが完成していた。ほんのりミルクの甘味に、コーヒーの香りやジューシーな酸味が加わった、優しい味わいにホッとする。

一方、ハンドドリップでは、焙煎を依頼している「note coffee house」の手法を踏襲。バランスのいい飲み口を意識して、あまり時間をかけずに手際よくお湯を注ぐ。抽出されたコーヒーはサラッと飲みやすく、あと味の余韻がキレイに消えていく。飲み口がすぼまったアロマカップを採用しているのも、香りを大切にする福井さんの抽出方法にはぴったりだ。

フードペアリングや抽出方法など、さまざまな角度からコーヒーの魅力を伝えることでコーヒーに親しむ人を増やそうと考える福井さん。「コーヒーとクラフトジンの組み合わせもおもしろいですよ」と楽しそうな様子からも、まだまだ違った角度から新しいコーヒーの世界を見せてくれそうだ。

■福井さんレコメンドのコーヒーショップは「cafe 旅人の木」
「同じ岐阜市内にある『cafe 旅人の木』では、ご主人が焙煎と抽出、奥様がスイーツを担当しています。ほぼ同時期にオープンしていて、店舗の場所もここから歩いて5分くらい。スペシャルティコーヒーを使った焙煎や抽出にもこだわりを感じますし、コーヒーとスイーツの組み合わせに力を入れていることからも、親近感を持っています。ご近所さんですし、ご夫婦とも仲良くしていただいています」(福井さん)


【CAFE re:verbのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/エスプレッソマシン(シモネリ アウレリア ウェーブ)、ハンドドリップ(ハリオ V60)
●焙煎度合い/中煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム870円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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