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コーヒーで旅する日本/東海編|日々の経験を積み重ね、夫婦でゆっくりと歩んできた18年。「coffee Kajita」

  • 2022年12月21日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第1回は、愛知県名古屋市にある「coffee Kajita」。ご主人の梶田真二さんがコーヒー、奥様の智美さんがスイーツを担当し、二人三脚でカフェを営んできた。地道に、着実にファンを増やし、東海エリアで”コーヒーのおいしい店”として必ず名前が挙がるほどの人気店に成長。全国的な知名度も高く、今では焙煎作業が追いつかないほどコーヒー豆の注文が舞い込むため、カフェの営業は週3日のみになっている。数少ない営業日でも客足が絶えないのは、真二さんが抽出したコーヒーと智美さんが作るスイーツの相性のよさに、一度味わえば忘れられなくなる魅力があるからだろう。また、真二さんが「どんな道具も、使いこなすことが大事」と話すように、焙煎機もドリッパーも創業時から愛用するものばかり。店の隅々まで、梶田さん夫婦の思いが息づいている。そんなぬくもりにあふれたカフェで2人が積み重ねた日々を振り返り、コーヒーへの思いに迫ってみたい。

Profile|梶田真二(かじた・しんじ)、智美(ともみ)
1967(昭和42)年、愛知県春日井市生まれ。智美さんのパティシエ技術を生かしたうえで夫婦一緒にできる仕事を考えた結果、自家焙煎コーヒーに思い至る。自分で生豆を入手して焙煎してみるなど独学でコーヒーについて学ぶなかで、堀口珈琲の堀口俊英さんが執筆した書籍を読み、堀口珈琲研究所のセミナーに参加するようになった。これら10年にわたる研鑽ののち、2004年に「coffee Kajita」を開業。

■パティシエの技を生かすための自家焙煎
名古屋、栄などの主要エリアを結びながら名古屋市内を東西に横断する地下鉄東山線。その東部に位置する一社駅界隈には、おしゃれでこだわりのある店が多く集まっている。「coffee Kajita」も、そんなこだわりのある店のひとつ。住宅街にポツンとある小さなカフェに、次々と人が集まってくる。

商品ラインナップやレイアウトを見ていると、コーヒーとスイーツのペアリングに重きを置いていることがよくわかる。大きな冷蔵ショーケースの向かって左にはコーヒー豆、右にはケーキなどのスイーツが並ぶ。ギフトの人気も高く、コーヒーと焼き菓子の詰め合わせもさまざまに展開。そして、販売スペースとの空間を区切るように一段高くなった右奥のエリアが、カフェスペースだ。

そもそも、真二さんが自家焙煎を始めたのは、智美さんがパティシエであることが大きく影響している。「私自身がすごくコーヒーに興味を持っていた訳ではないのです。夫婦でカフェをやろうと決めてから、コーヒーについて勉強を始めました。ですから、ほとんど知識のない状態からスタートしています。たくさん本を読むなかで、堀口俊英さんの本が非常にわかりやすかった。そこで、直接連絡を取って『生豆を購入したい』と相談したところ、堀口珈琲研究所を立ち上げてセミナーを始めることを聞き、参加することにしたのです。抽出や焙煎の基本は、このときに学びました」と真二さん。

現在も使い続けているフジローヤル直火式5キロの焙煎機も、コーノのグラスポットも、セミナーでの学びを通じて買いそろえたものだ。ちなみに、直火式焙煎機の魅力を尋ねたところ、「ほかのものを使ったことがありません」との答えが返ってきた。「道具はあくまでも道具。どんなにいい性能を持っていたとしても、使いこなせるかどうかが私にとって大事なのです。同じ道具を長年使い続けていると、毎日の作業で細かいことが少しずつわかってくるようになります。そこから、どうやって自分のイメージに近づけていくのかを考えています」。真二さんのコーヒーやカフェに対する考え方の根本に触れた気がした。
■豆の個性をわかりやすく伝える
「coffee Kajita」のコーヒーの特長は、豆の個性をストレートに表現するクリーンな焙煎と抽出にある。「生豆の仕入れは、堀口珈琲が運営する買い付けグループ、リーディングコーヒーファミリー(LCF)を通して行っています。選ぶポイントは、産地の特長がはっきりしているかどうか。同じ産地や農園であっても、そのときによって毎回豆の状態が変わりますから、必要であればバイヤーから話を聞きながら選びます」。常時8種類をそろえるシングルオリジンのうち、マンデリン、グアテマラ、エチオピアは定番でラインナップ。「ここ2、3年の品質のよさに驚いています。エキゾチックなフレーバーがおもしろい」というイエメンも、ほぼ定番になっている。豆の個性を引き出すことに注力しているため、焙煎は浅すぎず深すぎず、シティローストあたりで仕上げることが多い。例外は、シングルオリジンの中で唯一フレンチローストで仕上げるマンデリン。「深めに焙煎しないと、らしさが出しにくいのです」。あくまで、どうやったら豆の個性を引き出せるかに意識を向け、それが飲む人にも伝わるように心がけている。

ところで、真二さんの使う焙煎機は5キロ窯だが、焙煎作業が追いつかないほどコーヒー豆の注文が舞い込む現状を鑑みると、もっと大きな窯にしたほうが効率がいいのでは。「私には、5キロ窯がちょうどいいのです。1日に大体10回くらい焙煎しますが、1回20分ほどで焙煎して、ピッキングなどの作業をして、また次の焙煎をしています。窯を大きくすると、また焙煎の感じを一から積み重ねていかなければならないので、かえってやりづらい。現在のルーティンが効率的にもベストです」と真二さん。データや数値を頼りに焙煎のプロファイルを作るのではなく、手に伝わる感触や豆の焼ける音、漂う香りなどの五感をフル稼働させて状態を把握し、日々の作業の積み重ねから豆にとってのベストな状態を探り当てる丁寧な焙煎方法はまさに職人技。繰り返しの作業のなかで、知識と経験を積み重ねていくのが真二さんのスタイルということだろう。

こうしてできあがった豆は、智美さんももちろん試飲する。「このコーヒーならこういうケーキが合うかな、などと考えながら、2人でコミュニケーションを取ってメニューやラインナップを決めています」。コーヒーとケーキのペアリングが絶妙な理由に納得である。

■数値に頼らず、五感で微調整
カフェで提供するコーヒーはすべて、真二さんが1杯ずつハンドドリップで抽出。カウンター内は客席よりも一段下がっているので、どの席からも抽出の様子がよく見える。豆は中粗挽き。お湯は明確に温度を決めないもののおよそ90度以上に調整。なるべくコーヒーの味を邪魔しないよう、ペーパーは漂白したものを使っている。

「最初に豆を蒸らすときに、香りをチェックします。ローストしたばかりの豆はよく膨らむので、加減を見ながらの微調整が必要です」と真二さん。抽出が終わったら、改めて香りによる最終確認を行う。焙煎と同じく、温度や時間といった数値に頼るのではなく自らの五感を頼りに抽出するからこそ、環境に合わせた柔軟なチューニングが可能になる。

■日々の積み重ねが生み出すもの
このように、データではなく感覚を重視した焙煎、抽出を積み重ねてきた真二さん。ところが、2020年にオープンした姉妹店「チーロバ」ではコーヒーに関して真逆ともいえるアプローチに挑戦している。豆は真二さんが焙煎したチーロバブレンドを使用しているが、抽出に関しては最先端のマシンを導入し、"誰が抽出してもおいしいコーヒー"を目指したのだ。

「姉妹店を始めようと考えていたころ、日本ではまだほとんど導入事例のないコーヒーマシン『セラフィム』を知りました。ハンドドリップのいいところは状況に合わせた微調整ができることですが、逆にそれが味のブレにつながることもあります。セラフィムは、お湯やコーヒーの量と抽出時間を設定しておけばボタンを押すだけで抽出できるため、ブレることがありません。お湯がシャワー上に注がれるところも理想的。シンプルで理にかなっていると思いました」

「チーロバ」では、要望の多かったコーヒーのテイクアウトも解禁。フードはスイーツではなくサンドイッチなどの軽食をそろえ、もちろんコーヒーの味も食事に合うブレンドにするなど、さまざまな点で「coffee Kajita」との対比がおもしろい。

「私たち夫婦の場合、常に明確な目標を掲げているわけではなく、タイミングが来たら日々の積み重ねが形になることで新しい展開が見えてきます。チーロバでのやりたいことも、日々の積み重ねから生まれてきたこと。振り返ってみると、続けているということが大事なのだと感じています。コーヒーに関しては、豆を選ぶことと、焙煎することが『coffee Kajita』の本質でしょうか。これは、毎日やっていないとわかりません。焙煎だけで人生が終わってしまうのではないかと思うほど、繊細な作業で、奥が深いですね」

■梶田さんレコメンドのコーヒーショップは「山田珈琲」
「岐阜市にある『山田珈琲』のオーナー、山田英二さんとは、私がコーヒーについて勉強をしていたころからのお付き合い。もう30年近く、お世話になっています。初めて山田さんのコーヒーを飲んだときの衝撃は忘れられません。スペシャルティコーヒーというものを知らなかった当時の私は、『こんなコーヒーがあるんだ』と、明らかに今まで飲んでいたコーヒーとは違う味わいに驚いたものです。以来、教えを請えば親身になって丁寧に教えてくださいます。同じ業界に仲のいい友人が少ない私にとって、ありがたい存在です」(真二さん)


【coffee Kajitaのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式5キロ
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)
●焙煎度合い/中浅煎り~深煎り
●テイクアウト/なし
●豆の販売/200グラム1200円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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