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小学3年で洗濯・料理・掃除をこなし、親の介護をする「ヤングケアラー」のリアルを描く!結婚から子育てを経て心を再生するまでの物語

  • 2022年11月17日
  • Walkerplus

「ヤングケアラー」とは、家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳以下の子供のこと。本作の主人公は、小学3年生で洗濯・買い物・料理・掃除など家族の世話を担っている。多くは家族・親族に病気や障害があり、彼らの介護や面倒に忙殺されている状況にある。そのため、早退や遅刻も多く、同世代の子と友好関係を築くことができない。そんなヤングケアラーの実話をフィクションとして描く水谷緑(@mizutanimidori)さんの「私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記」(文藝春秋)を紹介する。

■「親の代わりに親になる」家族の世話全般を行うヤングケアラー
主人公・音田ゆいは、8歳の小学3年生だ。母親は統合失調症という心の病を患っていて、物心ついた時から彼女は、洗濯・買い物・料理・掃除など家族の世話を担っている。今日も学校帰りにスーパーに寄り、夕飯の材料を買って急いで帰宅する。室内は散乱しているが、これは日常的。母親が洗濯物を取り込んでくれているのを見て、大丈夫かな?と声をかける。「今、ごはん作るね」と――。

しかし、布団から起き上がった母親は、ゆいにティッシュ箱を投げつけてきた。精神的に荒れている状態だとわかると、ゆいは押し入れに身を隠して落ち着くのを待つ。夕方になると、家族のためのごた。彼女はこうして小さな時から家族の面倒をみている。

母親は病気のせいで、父親の浮気を疑っている。ゆいに会社へ行って様子を見てこいと言う。彼女は母親の気持ちを落ち着かせるために、学校に行けないことも多い。しかし、ゆいは家庭のことを話して、今の環境が壊れてしまうことを恐れていた。だから、教師に相談することはなかった。

放課後は家事をやらなければいけないため、友達と過ごす時間は少ない。家に戻ってやることがたくさんあるゆいにとって、友達と遊ぶことも実は「めんどくさい」のだ。

家族の形を守りたいゆいは、殴られる痛みも怒鳴られる苦しみも、心を閉ざすことで逃れてきた。自分の代わりにロボットが殴れていると思うようにし、自分の気持ちを殺すことを覚えた。しかし、高校生になると、自分の家庭環境の異質さに気づき、家族を忌まわしく思い始める。

統合失調症の母親、自分の心を閉ざし母親と家庭の面倒に追われ続けるゆい、家庭に無関心な父親、認知症の祖父、特別扱いされる弟。そんな家庭環境の中で、ある日、感情を押し殺しすぎてゆい自身が精神的に追い詰められることになった。

■小学生の15人に1人という割合でいるヤングケアラー
またまだ認知度が低いヤングケアラー。今回どのようなきっかけで本作を描くことになったのか、水谷緑さんに話を伺った。

――ヤングケアラーを題材にして漫画を描こうと思ったきっかけを教えてください。

編集さんが「精神障がいのある親に育てられた子どもの語り」という本を読んで感銘を受け、私に提案してくださいました。精神疾患の取材を5年ほどしていましたが、精神疾患を持つ人の子供のことを考えたことはなかったな、と思いました。

最初は自分が子供を出産したばかりということもあり、子供が可哀想な話を聞いたり描いたりするのは気が進みませんでした。でも実際に話を聞いてみると、ヤングケアラーの方々は魅力的で精神年齢が高く、達観した方が多いです。話を聞くと自分が家族を作っていく上で参考になることも多く、興味を持つようになりました。

「家族の絆」推しのエンタメが嫌いな元ヤングケアラーの人が多かったですが、そういう方のお話を聞いてると、自分が持っていた「家族とはこういうもの」という思い込みが解体されて、親との関係、子供との関係などを根本から冷静に考えることができ、視点が増えて面白く、落ち着く感じがしました。

――本作はどのくらいの期間取材をされたのでしょうか?

2年くらいです。10人程度の方にオンラインや対面、メールで何度もお聞きしました。ご協力いただきとてもありがたかったです。取材は20代〜50代の方で、子供の頃ヤングケアラーだった方にお聞きしました。カウンセリングを受けたり、本を読んだりしていて、自分のことを振り返って言語化できる方が多かったです。

――水谷さんは漫画「こころのナース夜野さん」でも、取材を経て漫画化しています。センシティブな問題ですが、水谷さんだからこそ聞けたことなどはありますか?

「こころのナース夜野さん」という精神科の漫画も取材をもとに描いています。自分だから聞けたかどうかは分かりませんが、率直に聞けば話してくれると思います。態度として、聞くときに心がけていることとしては、自分も当事者の方の延長線上にいる意識は持っています。

親しい人が亡くなった経験や病気の経験もありますし、自分も子供の頃から不器用で疎外感を感じることは多かったので、ゆるい仲間意識を持ちながら聞いています。辛いことは誰にでも起こりうる普通のことだと思いながら聞いています。

あと、辛い体験を話すことはとても大変で疲れることなので(インタビュー後にフラッシュバックがあって辛くなるかもしれないと、カウンセリングを予約してる方もいました)話してくれることに対する責任は感じています。

当事者の方よりも実は、医療者の方が何を思っているのか聞きづらいです。主観や具体的なエピソードを聞きたいのですが、概要しか聞けない時もあり、怒られたりバカだと思われそうでも、自分の違和感を大事にして聞くように心がけてます。なかなかうまくいかないのですが…。自分が相手に興味を持てるように、趣味とか関係ないことを聞いたりもします。

――漫画を読んでいると、環境が当たり前になっていて自分がヤングケアラーだと気付かない場合もあると思いました。同じような状況の人は、まずどのような対処をすればいいのでしょう?

困っていることに気づかないことが大半だと思うので難しいと思いますが、子供でも大人でも「自分には権利(力)がある」(自分は自分が話したいことを話し、やりたいことをやることが許されている、むしろすべき)という意識を持ってる方は違うなと思います。

助けを求める発想につながります。若い人でしたらまずは、普段自分が使ってるツール(SNS)で自分と似たような境遇の人や、支援団体を見つけるといいのではと思います。力になりたいと思ってる人はたくさんいます。

――その他、どのような漫画を描いていますか?

現在は、性をテーマにした漫画を来年から連載予定で準備中です。他にも「こころのナース夜野さん」の連載が終わったので、次の漫画のテーマを何にするか考え中です。実際にあったことが好きなので自分が気になることを取材しながら、エンタメとしても楽しめるような漫画を描いていきたいと思います。

本作は2年以上の取材を経た描き下ろし漫画。主人公「ゆい」が、精神を病んだ高校生から就職、結婚、子育てを経て、心を殺した自分を再生するまでの物語である。ヤングケアラーは小学生の15人に1人という割合だとか。そのため、本作は10代の当事者でも読めるように全てルビ(ふりがな)つき、ヤングケアラーの支援団体なども記載されている。

取材協力:水谷緑(@mizutanimidori)

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