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化学メーカーがなぜ乳製品事業に?「パン好きの牛乳」1000万本ヒットで見えたネーミングの極意

  • 2022年8月31日
  • Walkerplus

「カガクでネガイをカナエル会社」というフレーズを聞いたことがある人も多いのではないだろうか。これは化学メーカー「カネカ」のキャッチコピーだ。そんな「カネカ」は2018年から「パン好きの牛乳」という商品で乳製品事業に参入し、発売本数はシリーズ累計1000万本を突破。商品開発の裏側やヒットの一因となったネーミング戦略について、販促企画を担当している齋藤智夏さんに話を聞いた。

■パンと牛乳の相性に注目した商品開発
主にBtoB(卸売と小売間などの企業間取引)をメインとし、住宅の断熱材を作る部署やサプリメントを作る部署など、さまざまなジャンルを展開している「カネカ」。

同社は「世界を健康にする」という経営理念の元に、「社会課題を解決していくことが自分たちの成長に繋がる」という考え方がすべての事業の根底にあるという。その中で、酪農家の戸数や占有数が減っているという食糧問題に注目し、乳製品事業への参入が始まった。

「化学メーカーということで、一般的には食品を手がけているイメージがないと思うのですが、実は4分の1が食品事業で、売り上げも同様の割合を占めています」(齋藤さん)

そんな「カネカ」が、乳製品の後発メーカーとして他社に埋もれないためのアイデアとして開発したのが、パン専用の牛乳だという。

「昔からマーガリンや油脂系、イーストなどを扱っており、製菓・製パン業界と繋がりが深いことから、牛乳を飲むシーンのリサーチとして、パン愛好家の意見を聞く機会があったんです。パンが好きで毎日のように食べている方々によると、牛乳が濃すぎるとパンを楽しめないそうなんです。そういった発見を経て、“コクはあるけれど、パンの味を邪魔しない牛乳”という方向性が見えました」

開発秘話として、齋藤さんはもうひとつ興味深い話を教えてくれた。

「いろいろな調査を参考にすると、牛乳を飲む時の食べ物としてパンを選ぶ割合は7割なのに対し、パンを食べる時に飲む飲料として牛乳が選ばれるのはわずか3割。また、パンを食べる時の飲料と同じ調査では、その8割以上が週に1回以上はパンを食べていて、1日1〜2回、週に2〜4回がボリュームゾーンでした。そこで、パンを食べる時の選択肢として牛乳が入る余白はまだまだあると考えたのが、パンに合う牛乳に焦点を絞った理由でもあります」

■“自分ごと”だと思ってもらうネーミングがヒットのカギ
そうして商品の方向性が決まったが、パンとの組み合わせに特化した牛乳ということをアピールしたネーミングについては、決定までに紆余曲折があったという。

「ネーミングに関しては、社内や入っていただいたコンサル会社などから100以上の案が出ました。産地をうたったものやおいしさをうたったもの、味わいに特化したものなど、いわゆるよくある表現をしたものが中心で、それでは陳列棚に並んだ時に埋もれてしまうというのが後発メーカーとしての悩みどころでした」

そこで行き着いたのが、“喫食シーン”からイメージを膨らませたネーミングだ。これには、たくさんの商品の中で目を引くという以外にも、訴求ポイントがあるという。

「“パン好きの”というフレーズを見て、“自分のことだ”と感じて手を伸ばしていただくことが多いようです。また、普通の牛乳とどう違うのか、ということが気になる方もいらっしゃいますよね。なので、このネーミングのおかげで、普段と違う牛乳を手に取ってみるというトライアルにも繋がっていると思っています。また、パン店からも『おもしろいね、うちのための商品じゃないか』というようなお声をよくいただきます。パン専用飲料としてお店に置いてあることで、パンと一緒に購入してくださる方も多いです」

「パン好きの牛乳」がヒットしたことでわかったネーミングのコツとして、「自分ごとだと思ってもらうことが大事」と齋藤さん。

「○○産、○○100%という一般的なうたい文句が響かない相手でも、第一印象であるネーミングを通して、“あなたのためのものです”ということをわかりやすく伝えると刺さるのだと思います。伝え方によって受け取り方も変わってくると思うので、それはこれからも意識していきたいなと思います」

■後続の商品展開とおすすめのパン
発売から約5年で「パン好きの牛乳」の認知度は20%、20〜30代の女性では30%ほどになるという。齋藤さんは「これからもっと認知を広めていきたい」と話すが、これは後発かつ社内で初めてのBtoC(企業から一般消費者への販売)商品ということを踏まえると奮闘している数字だという。

そして「パン好きの牛乳」のヒットを受けて、「パン好きのカフェオレ」「パン好きのミルクティー」という後続商品も誕生した。

「『青山パン祭り』でバリスタの方と出会ったことをきっかけに、カフェオレのアイデアが生まれました。また、カフェオレを開発する際に、やはりパン愛好家の方にご協力をいただきました。お話を聞く中で、次はミルクティーがいいんじゃないかという意見があったり、調査データでもパンに合わせる飲み物の第3位がミルクティーという結果が出ていたりしたことから商品化に至りました」

せっかくなので、それぞれの商品と合わせるのがおすすめのパンについても教えてもらった。

「牛乳ですと、定番のあんパンやカレーパンはもちろん合います。また、食パンなど小麦の味を楽しむようなものとも相性がいいです。牛乳のコクはあるけど後味がスッキリしているので、繊細な味わいを邪魔せず、よりおいしくいただけると思います」

「カフェオレはパッケージにもクロワッサンが描かれているように、バターがたっぷり入っているオイルリッチなパンも合いますし、チョコレート系もコーヒーの苦みとマッチするので非常におすすめです」

「ミルクティーはシナモンロールのようなスパイス系のパンですと、紅茶の香りと合わさって相性がいいのと、クイニーアマンのような甘みが強いパン、しっとり甘い生地を味わうスコーンなどとすごく相性がいいです」

今後の展望としては、「魅力ある酪農を作っていくことが、事業として一番やりたいこと」だと齋藤さんは語る。

「酪農は、後継者不足や高齢化が進んでおり、国内の酪農家さんの数が減っています。そのため、当社は酪農家さんと一緒になって魅力ある酪農業を実現できないかと考え、今は北海道の酪農家さんと直接契約して取り組みを進めています。現場を化学の力でアップデートすることが一番大きなビジョンとしてあって、直接契約した生乳をただ安く売るのではなく、生乳の価値を伝える製品を作っていくという一連の流れが我々の乳製品事業となっています」

取材・文=大谷和美

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