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コーヒーで旅する日本/九州編|積み上げてきた知識と技術で、宮崎のコーヒーシーンに常に新たな風を。「恋史郎コーヒー」

  • 2022年8月1日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第36回は、宮崎市にある「恋史郎コーヒー」。レコメンドしてくれたCalmness of Beautyのロースター兼店主の大脇さんが「宮崎で浅煎りのコーヒーを最初に広めたお店」と話すように、2015年の開業時から、浅煎りを主体にスペシャルティコーヒーの魅力を宮崎で広めてきた。偶然の出合いからコーヒーにハマり、自身で店を開きたいと考えるまでになった、店主の田中友太さん。2018年からは焙煎にも着手し、今では宮崎市内のコーヒーシーンを牽引する一店として同業の間でも一目置かれる。どっしりとした深煎りの喫茶店文化が根付く街で、きれいな酸と華やかさが引き立つ浅煎りコーヒーの魅力を広め続けている田中さんのコーヒーとの向き合い方を探る。

Profile|田中友太(たなかゆうた)
1985(昭和60)年、宮崎県串間市生まれ。大学卒業後、一度は時計店の販売員として働く。管理栄養士の資格を持っていたことから、故郷の福祉関係の施設で1年半ほど働き、その後、実家が営む民宿を手伝い始める。その当時、サーフィンのために串間市に移住し、コーヒーショップを営んでいた店主が淹れたエチオピアのコーヒーを飲み、衝撃を受ける。この体験を機にコーヒーの世界にハマり、抽出技術を高めることに注力。実家の民宿の一角にコーヒーショップを開くことも考えたが、集客、利用シーンの頻度、さらには奥さんの故郷とちょうど中間に位置することから宮崎市で独立開業を決意。2015年8月、「恋史郎コーヒー」をオープン。

■1杯のコーヒーが人生を変える
宮崎県はコーヒーの消費額、量ともに全国的に少ない。つまり、コーヒーにあまり馴染みがないということだ。実は「恋史郎コーヒー」の店主・田中さん自身、昔はコーヒーがあまり好きではなく、“なくても困らないもの”という考えだった。そんな田中さんが一気に引き込まれたきっかけとなったのが、実家の民宿を手伝っていた約11年前、偶然出合ったエチオピアのスペシャルティコーヒーだった。

「近所にサーファーの方が営まれているコーヒーショップがあり、その店主さんに淹れていただいた浅煎りのエチオピアを飲んで、驚きました。今まで自分が飲んできたコーヒーとはまったくの別物で、『こんなコーヒーがあるんだ』と素直に感動しましたね。それから、その方にコーヒーを淹れる際のお湯の温度や豆の挽き目、抽出速度などによって、まったく味わいが変わることを教えていただき、日々自分のため、民宿のお客さまのためにコーヒーを淹れる中で、自分の店を持ちたいという思いを強くしていきました」と田中さん。

実家の民宿を手伝いながら、開業準備を進める中、2015年春、第一子が誕生。息子さんに付けた恋史郎という名をそのまま屋号に冠して、同年夏、宮崎市内に「恋史郎コーヒー」をオープンさせる。
開業する際から焙煎にも興味はあったが、借りたテナントの設備面や開業資金の関係から、まずは抽出に特化したカフェスタイルで営業をスタート。その当時は浅煎りコーヒーに特化した熊本のAND COFFEE ROASTERS、全国的にも知られる福岡のCOFFEE COUNTYから豆を仕入れ、常時6種ほどの豆を選べるようにしていた。明確なこだわりを持って豆を仕入れていたのはもちろん、さまざまな産地のコーヒーを用意していたのは、自身がエチオピアの一杯に出合って、コーヒーを見る視野が広がったように、より多くの人にコーヒーという飲み物の印象を一変させるような出合いをしてほしかったから。そうやって少しずつ、浅煎りのコーヒーを広めてきた「恋史郎コーヒー」。開業から約3年経ち、念願だった自家焙煎にもついに着手する。

■理由を突き詰めるロジカルなロースター
焙煎機が届いたのは、2018年。マシンは蓄熱の良さなどを理由にオランダ製のGIESENに決め、クラウドファンディングなども活用しながら、導入資金を調達。「ちょうど、店の隣が空きテナントになったことも運が良かった。広さもジャストサイズですし、なによりカフェと隣接していることは、これ以上ない好条件。すぐに隣のテナントを契約し、焙煎機到着を待ちました」と田中さんは当時を振り返る。

コーヒーを淹れるバリスタとして約3年店に立ち、それぞれの豆が持つ個性を大切に抽出を続けてきた田中さんだけに、焙煎から導き出す味わい作りも明確だった。焙煎を始めた当初から気を付けたのは、クリーンカップ。「自家焙煎を始める前、AND COFFEE ROASTERさん、COFFEE COUNTYさんの豆を仕入れさせていただいていたのは、共にクリーンカップに秀でた焙煎をされていたからです。もちろん、私自身、両店のコーヒーが好きですし、最初はどれだけ自身が好きな味わいに近づけるか試行錯誤の連続でした。YouTubeで焙煎の動画を見て勉強したり、知人のロースターに話を聞いたりしながら、知識や技術を身につけ、それを実践する日々。そうやって自分なりにプロファイルを構築し、ほぼ納得の味わいを作ることができるようになりました。ただ、まだ完璧ではないと思っています」と田中さん。

この“完璧ではない”とストイックに追求する姿勢が田中さんの真骨頂だ。まったくの素人から焙煎を始めた田中さんだが、日々焙煎と向き合う中で、マシンの特性を細かく理解しようと努力し、“なぜ、こうなったのか”、“なにが作用して、この味わいが引き出されたのか”を常に考えるようにしているという。何事もそうなった理由を深く考えることで、よりおいしいコーヒーを生み出す。こういった姿勢を常に持ち続けている田中さんだからこそ、宮崎のコーヒー業界でも、一目置かれているのだろう。

■宮崎に新たなコーヒー文化を作る
「恋史郎コーヒー」は自家焙煎を始めて、豆売りにも力を入れているが、もともとはカフェからスタートしただけに、イートインの利用も多い。メニューはドリップコーヒー(450円)、アメリカーノ(500円)、エアロプレスコーヒー(500円)などブラック系に加え、よりエスプレッソ感が強いコルタード(430円)やジブラルタル(450円)、カプチーノ(450円)、カフェラテ(480円)とミルクビバレッジも豊富。

さらには、宮崎特産の柑橘を使うヘベスエスプレッソトニック(600円)など、ユニークかつご当地感が光るメニューも用意する。オプションでエスプレッソショット追加、牛乳をオーツミルクに変更、コーヒー自体をカフェインレスに変更など、さまざまな楽しみ方を提案しているのも田中さんらしい。

また、一般的なハンドドリップコーヒーは豆由来の甘さを引き出し、軽やかに飲めるようにHARIO V60を採用。ペーパーフィルターはHARIO V60の純正ではなく、CAFECのアバカフィルターを使うなど、細かな点にまで田中さんならではのこだわりが光る。田中さんは「植物繊維が原料のアバカフィルターは通液性に優れ、安定した抽出が可能。さらに、アバカの特性上、通常の紙フィルターで淹れたコーヒーと比べると、クリアでまろやかな味わいを表現できます。これも、自身でさまざまなドリッパーやフィルターを使ってきて、今ベストだと思っている抽出器具の組み合わせ。焙煎はもちろん大切ですが、抽出に関しても、より自分が理想とする味わいを引き出せる抽出器具があれば、変化を恐れずより良いものを探していきたい」と力を込める。

開業から7年を経て、ますます進化を続けるコーヒーショップ「恋史郎コーヒー」。コーヒーに馴染みがない地域・宮崎を、コーヒーが日常的に親しまれるような街へと進化させていくのは、田中さんのように真摯にコーヒーと向き合うロースター、バリスタの存在は不可欠だと感じた。

■田中さんレコメンドのコーヒーショップは「みちくさCOFFEE ROASTER&DAREKA COFFEE STAND」
「佐賀市に店を構える『みちくさCOFFEE ROASTER&DAREKA COFFEE STAND』の店主、古川さんとは福岡のコーヒーのイベントで出会いました。そのイベントで古川さんが焙煎し、抽出したエチオピアのアラカ農園のナチュラルのコーヒーが、すごくおいしかったんです。それを機に親交を深め、一度は当店まで足を運んでくれたことも。古川さんはかなりのコーヒーマニアで、店を営む場所は違えど、SNSなどでしばしば情報交換しています」 (田中さん)

【恋史郎コーヒーのコーヒーデータ】
●焙煎機/GIESEN W1A
●抽出/ハンドドリップ(HARIO V60)、エスプレッソマシン(SYNESSO HYDRA)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム850円〜

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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