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スキンシップ、する側とされる側の「好意」って同じもの?受け止め方のズレを捉えた短編漫画に注目集まる

  • 2022年6月7日
  • Walkerplus

「あんなにスキンシップしてきたんだ」。卒業間際、自信を持って同級生の女子に告白するも、「女子しか恋愛対象にならないから」と告げられた少年。「性別なんて関係ないと思う!」と堂々と前を向いて伝えた少年だったが、同様にスキンシップする仲だった親友の男子に想いを伝えられた時、うつむき、目を逸らし答えることしかできなかった――。

2022年5月12日、「ジャンプ+」に掲載され反響を呼んだ短編「たまったもんじゃない」は、商業誌でも作品を発表している漫画家の奥灘幾多(@hitotoseshiki)さんの新作だ。

本作は、同日に発売された奥灘さんの短編集『スライトセルフエスティーム』の一篇。スキンシップと好意のすれ違いを描いた本作のほか、自分に自信を持てないチームメイトに出会う「(たぶんきっとおそらく)(でも責任は取れないから)」、恵まれているがゆえに言い訳ができないことに苦しむ「贅沢ないいわけ」など、相浦結月という一人の少女の中学時代から大学入学までの足跡を追う形で構成された連作短編となっている。

それぞれ独立した短編としても読めながら、10代の少女を軸に、しばしば蓋をされてしまうような生々しいエゴや、ふとした瞬間に訪れる心境の変化を追いかけた繊細な描写に引き込まれる同短編集。装丁などを含め自ら同書を制作した奥灘さんに、作品作りの舞台裏や今後の目標を訊いた。

■解釈が分かれる結末、作品を通しての「自分事としての問いかけ」
――先日公開された漫画「たまったもんじゃない」は、スキンシップを軸に、受け止め方のズレや断絶が描かれています。本作を描かれたきっかけを教えてください。

「多様性を求められる現代社会の中で、きっと各々が自分なりの考え方や物の見方の癖を持っていると思います。私も偏った思考に陥ることが多いですし、それは決して咎められるべきことではなくて、人間として当たり前のことではないかと思います。

そうした前提の上で、社会の中で議論される物事について、自分を含め『本当に自分事として考えられているか』を問いたかったのが描き始めたきっかけです」

――この作品は、「ジャンプの漫画学校」の卒業制作でもあるそうですね。

「大学生の頃に友人と四人でシェアハウスをしていたのですが、大学4年生の頃に同居人の一人がジャンプの漫画学校に参加したのをきっかけに興味を持ち応募しました。別の同居人も今回の漫画学校に参加したので、一緒に暮らしていた三人が漫画学校に参加したという不思議な環境にいました。

漫画学校参加前に、『ジャンプ+』のネームや原稿を募集する企画で現担当編集の方とご縁ができたので、そのときに『たまったもんじゃない』のネームを描きました」

――「ジャンプの漫画学校」での経験やアドバイスが反映された部分はありましたか?

「物語を作るためのフローや考え方は今作であまり反映できませんでしたが、必ず今後役立つためになる講義ばかりでした。漫画を描く新人にはぜひおすすめしたい講座です」

――「スキンシップ苦手やんな?」という問いに「いやそんなことないよ」と答える結末には、「モヤモヤする」「前向きでよかった」など、読者の受け止め方に大きな振れ幅があるのが印象的でした。

「この結末は、いろいろな解像度の反応がほしくて描きました。これを同性愛で描く必要はないという人は、きっと平等に見られていてこの物語が必要ない人か、ひょっとすると性を平等に見られている気になっているだけなのかもしれない…、など、どんな視点からその人自身がどのように考えているかで反応は変わってくると思っています。さまざまなフィルターを通した反応が見られて非常に興味深かったです」

■「誰かを動かす人間も誰かに動かされている」一人の少女を軸にした短編集
――「たまったもんじゃない」が収録された短編集『スライトセルフエスティーム』も発売されました。これまで発表された短編が、相浦結月を軸にした構成となっていて驚きました。

「最初は『たまったもんじゃない』を独立して描こうとしていました。しかし、描いていく中で相浦という人間を考えるうちに、彼女がどんな経験をしてきたのかを掘っていこうと他の話を描き始めました」

――また、収録順も時系列通りではありません。狙いはどんなところにあったのでしょうか?

「相浦はこんな経験を踏まえて前の漫画であんな動きをしたのかと、再度読み返したくなるよう時系列が遡っていく構成にしました」

――短編集を制作する上でのテーマや、やりたかったことを教えてください。

「私は、自分に影響を与えてくれた人間のその言動は、どんな経験の中で培われたものなのかと、バックボーンを想像することがよくあります。各話の主題は独立しているので全体のテーマを端的に述べられず申し訳ございませんが、誰かを動かす人間も誰かに動かされているということを確認する作業をしたかったのだと思います」

――今年5月は「たまったもんじゃない」の他、ビッグコミックスペリオールに読み切りショート作品が掲載されるなど、精力的に活動されています。今後、創作活動での目標を教えてください。

「一昨年の暮れにとある媒体で連載が決まり、その準備中に就職をしたのですが、並行していく中で昨年の夏頃に調子を大きく崩してしまい、しばらく活動できずにいました。そこから徐々に立ち直るために描いた漫画たちだったので、『漫画の練習』という表現をしました。

直近ではビッグコミックスペリオールに読み切りが掲載されました。やりたいことがある間は漫画や文字・映像問わず物語で食べていきたいと考えているので、息の長い作家を目標に活動していけたらと思っています。漫画に限らず依頼を募集しています。また、本書の紙の書籍での出版に手を挙げてくださる版元様がいらっしゃいましたらお声かけいただけると嬉しいです」

取材協力:奥灘幾多(@hitotoseshiki)

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