
「なぜか美人教師が廃バスに住んでいる…」という異色の設定で、SNSで話題沸騰中の漫画『廃バスに住む』。独特な空気感をまとった本作についてSNSユーザーからは、「柔和な朝日がさしこんでいるような柔らかさ」「ずっと読んでいられる」「マイペースっぷりがすごい!」といった風に、その没入感と心地よい読後感を評価する声が多数あがっている。
そこで今回、本作の担当編集者であるMFCコミック編集部編集長・赤坂泰基氏にインタビューを実施。著者・イチヒ氏との出会い、『廃バスに住む』誕生秘話、そしてみんなが共感する作劇法など、漫画制作の“舞台裏”について聞いた。
■イチヒのヒット作『おとなのほうかご』でも編集を担当した赤坂氏
――本作『廃バスに住む』のイチヒ先生との出会いと、出版までの簡単な経緯を教えてください。
【赤坂泰基】「月刊コミックアライブ」編集部に配属された当初、新人は担当作を持たないとどんどん雑用が増えてしまうことに危機感を覚えた私は、とにかくいろいろな漫画を読み、作家さんを探していました。その中で、当時イチヒさんはいくつかアンソロジーに参加されており、ギャグの空気感に惹かれてお声がけした、というのが出会いになります。
初めに『モリタニヨル!』という連作読切をアライブに掲載しました。これがイチヒ先生の初単行本となりますが、私も初オリジナル作品の単行本でした。今だから言いますが、編集素人のくせに偉そうなことを多々申してしまいすみませんでした。
その後、WEBコミックサイトComicWalkerにて『おとなのほうかご』というオムニバスラブコメを連載しました。こちらは重版もされ、反響の大きい作品となりました。とても面白いので、未読の方はぜひこの機会に読んでみてください。
『おとなのほうかご』連載終了後もゆるく「次の連載どうしましょうか?」と相談をしていましたが、なかなか決まらないまま時間が過ぎ(完全に私が悪いです)、そんななか先生が個人Twitterアカウントで公開したのが『廃バスに住む』となります。
そして、連載化のご相談をしたところ、他の編集部からの打診もあった中で最終的にうちを選んでいただき今に至る、という流れになります。なんだかんだイチヒ先生とは10年近いお付き合いになるのか…と、改めて感慨深くなりました。
■ミステリアスな美人教師・雨森の絶妙なキャラ設定
――作中の「雨森先生」の魅力が強すぎて、ネットでもかなり話題になっていますが、それについては?
【赤坂泰基】元々、イチヒ先生がご自身のTwitterで公開していた作品なので、既にキャラクターは決まっていました。「連載にあたってどうしていきましょうか?」という話ですと、逆に変えたり盛ったりせずそのままで行きましょう、という話をした記憶があります。
――主人公のキャラ設定に関して「どんな点を重要視」されていますか?
【赤坂泰基】すべての作品に当てはまるわけではありませんが、現代コメディの場合「実在性」かなという気はしております。フィクションのキャラクターなので当然存在しないわけですが、「日本のどこかに一人くらいこんな感じの人いるかも、いてほしい!」と思ってもらえる感じが良いのかなと思っております。
■「次どうなるんだろう?という引きの強さ」が重要
――ネットでは「この何とも言えない空気感の漫画」「ずっと読んでいられる」といったレビューが多いです。いわゆるZ世代からの注目度も高いわけですが、読者を夢中にさせる仕掛けは?
【赤坂泰基】私はネームに対して「いいですね!」という人なので、作品に対して介入する部分はあまり多くありません。ですが、1話完結のなかにも少しずつ変わっていく物事や増えていく人間関係など、一本筋の通った物語を見せていくことで、「次も読みたいと思ってもらえる仕掛けが作れると良いですね」というお話はよくしております。
コメディ作品の課題として、1巻目が面白くてもすぐ飽きてしまう、というのがあります。特に今はWEBでたくさんの作品が無料で読めてしまう時代なので、「続きはそのうち読もう」となりがちです。次どうなるんだろう?という引きの強さは、1話完結のコメディ作品にもある程度求められるのかなと思っています。
――SNSでバズっている『廃バスに住む』ですが、現代において、こうした「人気漫画」を生み出すセオリーなどあるのでしょうか?
【赤坂泰基】セオリーがあれば教えてほしいです。さらに言うと、いろいろな編集者が人気漫画を生み出す秘訣といったお話をしておりますが、本当の部分は企業秘密なんじゃないでしょうか。編集者は資格があるわけではなく、商売道具は知識と経験のみですから、デキる編集ほど秘密にすると思います。編集者みんな嘘つきですからね。ちなみに、私は本当に隠すような人気漫画の秘訣はございません。
■ツイッターでバズり、連載の競合も多かった
――ツイッターで火がついた『廃バスに住む』ですが、どのような展開から連載までたどり着いたのでしょうか?
【赤坂泰基】本作はTwitter投稿時に大変反響が大きく、かなりたくさんの編集部から連載化の打診があったようです。そんななかで、「またうちに戻ってきなよ」と口説き落とした訳ですが、別な編集者と組んで別な雑誌で連載化した場合、本作がどんな感じになっていただろう、というのは個人的に気になるところです。うちで連載してよかったと思っていただけていたらいいのですが…。
――本作ファンの方の中でも「実写版PV&CM」を見て好きになったという人もいますが、ドラマ化などの計画にあるのでしょうか?
【赤坂泰基】ドラマ化の話は今のところないです。実写PV&CMに関しては、いわゆる漫画コマを使った内容紹介といったCMが各編集部ルーティンワークで作られているという印象があり、たまには別なこともやってみよう、というのがスタートでした。この前に漫画『異世界おじさん』の「自己防衛おじさん」が出演したCMが大好評で、次は飛び道具ではなくもう少し作品の内容に寄り添った実写CMを作ってみたい、という気持ちもありました。
作品的にも実写に変換しやすい内容なので、現実に「雨森はづき先生がいたらこんな感じかも?」という前述した“実在性を補強”する一助となっていれば幸いです。
――撮影場所は?
【赤坂泰基】撮影は佐賀県で行われたのですが、私もリモート参加ながら、小道具集めから入る映像制作の現場に初めて触れ、大変勉強になりました。スタッフの皆さまには素晴らしい映像を作っていただきましたので、ぜひ皆さんもご視聴ください。