
2019年にドラマ化されて話題を呼んだ浅原ナオトの小説を映画化した『彼女が好きなものは』。ゲイであることを隠しながら生活する男子高校生と、BL好きを隠している女子高生との恋愛を通じ、“普通”という価値観とのギャップに向き合う男女の姿を描いた本作で、主人公の安藤純を演じた神尾楓珠。作品と向き合って感じたことや演じた役柄について、さらに、好きなアニメ作品について語ってもらった。
■純を演じている時は「繊細な部分を探る作業を常にしていました」
――純という役をどう演じられたのでしょうか?
【神尾楓珠】台本を読んだ時に、純がゲイである自分を受け入れて、そのうえで一歩進もうとしているところがすごく健気だなと感じました。それから“芯をしっかりと持った人”という印象を受けたので、なるべく弱々しく見えないように意識しながら演じていました。
――本作では自分の好きな男の子がゲイだとわかった瞬間に戸惑い、苦悩するBL好きの女の子の姿が描かれていますが、こういったシーンを見て神尾さんはどのようなことを感じましたか?
【神尾楓珠】「理解している」と口で言うのは簡単ですし、理解している風に装うこともできるけど、例えば当事者ではない人がゲイの方のことを完全に理解するのは難しいし、無理だと思うんです。だけど理解しようと思う気持ちはすごく大切で、それを本作では山田(杏奈)さん演じる紗枝が純にきちんと伝えてくれるので、そこで純は救われたんじゃないかなと感じました。
――神尾さんはどのように純の気持ちに心を重ねていったのでしょうか?
【神尾楓珠】純はセクシュアルマイノリティである自分を変えることは無理と知ったうえで女の子を好きになろうと努力しますが、それはきっと自分のためだけじゃなく母親のためでもあるんですよね。“母親に孫を見せたい”という気持ちから、世間でいう“普通”を試すことを選んだというか。
周りにカミングアウトできなかったのも、空気を壊しちゃいけないという気持ちと不安があったからだと思うので、そういった繊細な部分を探る作業を常にしていました。
――高校生という若さで、あそこまで人のことを考えられるなんてなかなかできないですよね。
【神尾楓珠】僕は自分のことばかり考えてしまうので無理ですね(笑)。どうしてあんなに周りのために動くことができるのか不思議でしたし、でもそこが彼の魅力なんだろうなと思います。
■「感情をピークに持っていかなければ成立しない」という気持ちで挑んだ病室のシーン
――『樹海村』や他作品で共演されている山田杏奈さん、小野役を演じた三浦獠太さん、亮平役を演じた前田旺志郎さんとは現場でどのようにコミュニケーションをとっていたのでしょうか?
【神尾楓珠】山田さんとは何度も共演しているだけあって、特に言葉を交わさなくてもお互いに“こうくるだろう”というのがなんとなくわかっていたので、やりやすかったです。獠太や旺志郎とは、現場で何か話していたと思うのですがあまり覚えてなくて(笑)。彼らとは撮影が終わったあともずっと仲良くしているので、どんどん記憶が上書きされていってしまうんですよね(笑)。
――最近はお2人とどんな話をされているんですか?
【神尾楓珠】獠太が誘ってくれたフットサルに旺志郎と参加して以来ハマりまして、最近はみんなでよくフットサルをしています。なのでサッカーやフットサルの話をすることが多いですね。
――ちなみにまた3人で共演できるとしたら、どういう関係性の役を希望されますか?
【神尾楓珠】ぶつかり合う役とかおもしろそうだなと思いますが、3人一緒に出演できるならどんな関係性の役でもやってみたいです。
――“ぶつかり合う”といえば、病室で寝ていた純が母親に向かって抑えていた気持ちをぶつけるシーンが印象的でしたが、どんなことを大事に演じられましたか?
【神尾楓珠】純は病室で初めて母親に対して言えなかった思いをさらけ出すので、あのシーン以外はものすごく感情を抑えたお芝居をしていたんです。あそこで感情をピークに持っていかなければ、この話は成立しないぐらいの気持ちでやっていたというか。こういう経験はこれまでなかったので、新たなチャレンジができて良かったです。
■人生に必要なのは「何を言っても許し合えるような友達」
――アニメ作品が好きでよくご覧になるそうですね。
【神尾楓珠】アニメは昔から大好きでよく観ています。テレビアニメもアニメーション映画も両方観るのですが、中でも細田守監督の作品が好きで『竜とそばかすの姫』はすごくおもしろかったです。
――声優のお仕事にもチャレンジしたいというお気持ちがあったり?
【神尾楓珠】アニメは観るものだと思っていますし、声優さんのお仕事を尊敬しているので、そんなおこがましいことは言えません(笑)。
――好きなアニメのキャラクターを教えていただけますか?
【神尾楓珠】「アイシールド21」のヒル魔(蛭魔妖一)、「HUNTER×HUNTER」のキルア、「NARUTO -ナルト-」の我愛羅、「BLEACH」の黒崎一護、「ONE PIECE」のサンジ、まだまだいっぱいいますがこの辺でやめておきます(笑)。バトル漫画だったらクールで知的なキャラクターが好きで、日常を描いた漫画ならおちゃらけているキャラクターが好きです。
――神尾さんご自身は“クールで知的な人”か“おちゃらけている人”どちらが近いですか?
【神尾楓珠】どちらでもないと思います。周りからはよく「やる気がなさそうだね」と言われるのですが、やる気がないわけではなくそういう顔なのでどうしたものかと…(苦笑)。あと、仲が良い人に対しては口が悪くなります(笑)。
――では、神尾さんからダメ出しをされたりいじられたりしたら、心を許してもらっている証拠ということで合ってますか?
【神尾楓珠】それこそ獠太と旺志郎に対しては口が悪くなるので、本当に仲が良いんだと自分でも思います。もちろん、これ以上は傷つくからダメというのがわかっている相手にしか言いませんが、端から見ると「あいつは失礼な奴だ」と思われているかもしれませんね(笑)。
だけどお互いに何を言っても許し合えるような友達が人生には必要なので、これからも獠太と旺志郎には仲良くしてもらえたらと思っています。
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:寒河江健
◆ヘアメイク:菅井彩佳